第81話 マルスの木と始まりの気配
約束の日へと迫った8月29日。ユラはティグリスのテントへと向かうと、そこにはいつもとは違い大きな鞄を用意したティグリスの姿があった。
「ようやく来たね、ユラ」
「お待たせしました」
時刻は朝の9時丁度。待ち合わせの時刻としてはきっちり守った方だとユラは思った。
「では早速行こうか」
「行くってどこにですか?」
「エバーグレスまでちょっとね」
【エバーグレス】というとここから汽車で数時間もかかる場所だ。ユラの故郷スタリナより南にあるそれは、多くの沼地が発生しておりとても人が住める場所ではない所だと有名である。
「ええっ!?あそこまで行くんですか!?」
「おっと、ユラはご存知なのかい?」
「だってあそこスタリナの南にある沼地帯で人が住む場所じゃないって有名じゃないですか!?」
そんな場所までなぜ行くのか。確かに魔物退治とは聞いていたが……と腑に落ちないユラ。するとティグリスがそんなユラを宥めるようにこう語り始める。
「最近エバーグレスで妙な噂が広がってるんだ」
「妙な噂?」
「どうもエバーグレスの中央地帯でマルスの木らしき物体が暴れているんだとか」
「えっそうなんですか?」
「だから今日他のメンバーと集まってそのマルスの木とやらを退治しに行くんだ」
なるほどとユラは思った。マルスの木。さぞかし大きいのだろうとユラが1人想像しているとティグリスがユラを見つめてこう述べる。
「だから今からその場所に行こうと思う、着いてきてくれるね?」
強制的な連れ出しだった。これは先日の交渉の条件。返答ははいしか受け取らないだろう。とユラは呆れながら思った。
「分かってますよ……着いていきます」
「それならいいんだ」
そう言うと意味深げにニヤリと笑みを浮かべるティグリス。仕方がない。向こうがつけた条件だ。この人にはやはり頭が上がらないなとユラが思うとティグリスに対しこう問い返す。
「それで行きは汽車で向かうんですか?」
「いや、テレポートで向かう事にしている……向こうでテントを張っているんだ……それなら魔法が近隣住民にバレる事はない」
念には念をねとティグリスが言うとヒョイっと鞄を持つ彼。どうやらそろそろ時間のようだ。ユラがそう思うと自身の荷物を持ち始めた。
「さあそろそろ行こうか、時間が惜しいからね」
そうティグリスが話すと地面に魔法陣が張られる。どうやら今からテレポートの魔法を使うらしい。それを察したユラは魔法陣の方へと向かい佇む。
「それでは行きましょうか」
ユラが魔法陣のそばに向かうとテント内が白い光に包まれる。そろそろ心の準備をしよう。とユラが息を整えると光が段々身体を包み込んだ。その光は温かくどこか優しげで。まだ見ぬ新しい始まりの時間だとユラを囁いた。




