第80話 眩しく照らされたテント
8月28日。彼は走った。ティグリスの元へと。大急ぎで。
カエデがバサッとテントを開く。するとそこには毎度のように棚の整理をするティグリスの姿があった。手元を見るとどうやら彼も裏の仕事で。ある特別調査部隊の任務の真っ最中と見た。
「カエデ、ここに来るのは珍しいね」
「ティグリス隊長!見つけましたよ!例の3人グループのうちの1人が!」
そうカエデがティグリスの元へと駆け寄るとティグリスは目を見開きこう話し出す。
「なんだって!?それは本当なのかい?」
「ええ……ただ……」
「ただ?」
「随分と昔……200年前の記憶から発見したといいますか……」
「2、200年前だって!?」
そう、グループの内の1人を発見したのは200年前の事。それはカエデの魔法である追憶を元に発見したものである。
驚いたティグリスはつい手元にあった本の資料を落としてしまう。それも数冊。それもそうだ。この国が探している指名手配者の1人、フォンデュ・シナリスはここ現在でも目撃情報がありつい最近でも見かけたという話がある。
「ありえない……200年前の人物が何故現在も……?」
「分かりません……ただ一つだけ言える事はその1人であるフォンデュ・シナリスがイアだった頃のユラと接触があったという事です」
「なんだと!?」
そうなのだ。追憶から見ても確かにイアと接触していた形跡がある。にわかに信じられない事だが……そのフォンデュ・シナリスは200年たった今でも生きているという事になる。
「それで、この事についてユラはどう言ってましたか?」
「いや、大まかにしか聞いていない……まさかそれでマルスを受け取ったというのか」
「はい、確かにバロン・ジレー・ドラン高等学校校内で受け取ったのを目撃しました」
残酷な運命だとティグリスは思った。その時イアが受け取らなければ。フォンデュにさえ会わなければ。こうはならなかった事だろうと。
「信じられない事だが……確かに情報受け取ったよカエデ、でも今後は気をつけてほしいな……こういった情報は一度機密情報伝達部隊に任せておかないと」
「そうですね……すみません、以後気をつけます」
ティグリスの言うとおりだ。こういった機密情報に入る物は一度専門である伝達部隊に通さなければならない。だがカエデはまだ入ってきたばかりの後輩。だからか。それを知っているティグリスはこれ以上咎めるのを止めた。
「それにしても……ユラのやつとんでもない情報を隠し持ってやがったな……」
「いや、あの感じだとおそらくわざとじゃないんじゃないか?……彼女天然だし」
ティグリスがそう話すと手に持った本の資料を片付けながらクスリと笑い始める。呆れたやつだ。とカエデが今はいないユラに対して思うとティグリスはまあまあと宥めるかのように紅茶を勧めた。
「なんです?これ」
「何って紅茶だよ、最近飲み物にハマってるんだ」
「へえ……珍しいですね」
「……まあ研究がてらハマってるって感じかな」
そう言うと何やら本を持ってそれを見せようとするティグリス。出したのは植物の本。これといって変わった物はなかったが話の流れで何となく察したカエデはティグリスに対しこう話す。
「もしかしてユラの件ですか?」
「そう、さすがカエデ!勘がいいね」
「それでその本とユラになんの関係が……?」
「ユラに伝えなきゃならない事があるんだ」
ティグリスがそういうと植物本に記されたあるページの一部を指さしこう言う。
「ユラはナナタタ草という植物だ、ナナタタ草自体は多年草だが時間の猶予がないかもしれない」
「それってつまり……」
「いや、まだ完全に分かった訳じゃない……ただ寿命の事を考えると今年の冬までな気がしてならないってだけさ」
そう言ったティグリスの顔はどことなく寂しげで。ユラの時間が残されていない事がよく分かる。
「……早いうちにちゃんと知らせてあげてくださいね、その事」
「ああ、分かっている」
説明不足でなくきちんと伝えてあげてください。そうカエデが押すように言い放つとその真意がちゃんと伝わったのか否か。ティグリスが少し考えるような仕草をした後カエデにある事を提示し始める。
「時にカエデ、ユラは本当に人間に戻れると思うかい?」
「えっ!……正直言いたくないですが無理でしょう、どう考えたって」
「そうかい?僕はそうとは思わない」
はっきりと否定したはずなのに。どこか誇らしげに話すティグリスの姿はカエデにとっては眩しいもので。何故ここまで言い切れるのかとても気になって思わず内心うずうずしてしまう。
「……どうしてそこまで信頼できるのですか?」
「いいだろう?別に……ただユラにはなんとなく希望を感じるってだけさ……諦めないという希望をね」
いつからなのか。2人の関係性は思ったよりも固い絆で結ばれているような気がした。傍から見たら単なる雇用主と使用人といった関係性なのに。カエデから見て少なからずティグリスからとても信頼されてるのが分かった。何故なのだろう。カエデがひたすらそう思うとティグリスの姿が照らされているような感じがして。今の自分から見るととても眩しい関係性なのだとカエデは心から実感した。




