第72話 消え去った線路
先日起きた鉄道での大騒動。記録にはある物との関わりが非常に強いのではないかと書かれていた。
「それで僕の出番って事か」
ティグリスは線路上で手元に持った記録帳を元に探りを入れる。その日伝達係としてきたカサギと共に。
「それにしても珍しいね、君が伝達係としてくるなんて……空いていた伝達部隊の者はいなかったのかい?」
「それが……丁度どの隊も時間がなかったとの事で……非番だった俺が来る事になったと言いますか……」
「なるほど、それでカサギが来たのか」
ティグリスが納得の顔でカサギを見返すと、カサギは早速調査の為に必要な情報を提示する。
「おかしな点は幾つか……まず敵として現れた例の蜘蛛の事ですが……おそらくマルスの実が関わっているかと思われます」
「やっぱりね、そうだとは思っていたよ」
「後は俺が来るまでの間、例の学生が2名蜘蛛と接触していたとの情報がありまして」
「例の学生か……」
そう言うとティグリスは手に持っていた別の資料を表に出し確認をする。それはティグリスがいる拠点の棚から持ってきた1つの学生簿だった。
「その学生っていうのはユラ達で間違いないね?」
「そうですね、遠くで見張りをしていたので……間違いなく彼女が関わってます」
「なるほど」
やはり見張られている身なのか。ティグリスがそのように考えていると、カサギは深刻そうな顔を見せる彼とは対照的にニコリと笑いながら話しかける。
「……余程お気に入りのようですね、彼女の事」
「いや、別にそうではないよ……ただ……」
「ただ?」
「僕達のように不自由な身になってほしくないだけさ」
「確かに。それは言えてますね……ところで」
「どうしたんだい?」
「彼女と一緒にいたもう1人の……エルという男子生徒ですが……気になる事がありまして」
「気になる事?」
妙な事を言い出すものだ。あのカサギが恋愛事以外に興味を持つなんて。そうティグリスが感じているとカサギが神妙な顔つきでこちらを伺う。
「先程渡した記録帳にもありますがあの線路、どうやらエルという生徒が作り出したみたいなんです」
「線路を作り出した!?……走りながら!?」
「ええ、走りながら……まあ今は魔法で線路が消えてますが」
ありえない。なぜそんな芸当ができたのか。あの汽車の速さは遅くても時速40キロはあるというのに。
(どおりでカサギが興味を持つ訳だ)
そうティグリスが唖然としながら記録帳を辿ると、確かにそこにはそのままの情報が書かれていた。
「信じられない事だが……この2人のおかげで負傷者0人という結果なのか……?」
「はい、まさしく」
「なるほど、これは確かに興味深い事件だ」
ティグリスが帽子を被り直しながらそう言い出すと、同じようにカサギもニヤリと笑う。これは大仕事になりそうだ。ティグリスが1つため息をついた後そう考えると、カサギにある事を話し始める。
「……1度、会ってみようと思う……エルという男子生徒に」
「おお、それはそれは……なかなか大変そうですよ」
「カサギは話したのか?」
「いえ、話をしたのはユラだけですよ」
「……どうせいつもの恋愛事でも話してたんだろう?」
「ふふっよくお分かりで」
そんな飄々とした態度のカサギに呆れていると、カサギはまたもやニコリと笑いだす。カサギの事だ。職務とは全く関係ない話を持ち出して盛り上がったに違いない。
「ティグリス隊長も大変ですね、こんなところまで来て調査なんて」
「いや別に、ここも僕達の管轄だからね……それに君だって隊長格として忙しいだろう?」
「俺は別に……やる事をやるだけなので……それに忙しかったのは今回の件だけです」
「それはどうだか」
2人で仲良く雑談をすると青がかった空が夕暮れと共に消えていく。それは記録帳にもあった作り出された線路のように。今は魔法で消え去ってもうないその線路の跡を辿ると、以前から新調されていたような気がして。何となく心許ない気持ちにさせられた。




