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マルス適合者~二度死ぬ彼女は雑草の姿をした魔法使い~  作者: しがない草
第七章 真夏のデートプランD

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第70話 静寂なる獣道

 怒涛の外出となった日の翌日の授業。ユラ達はギルド制の授業のため、食堂の前にある掲示板の手前に来ていた。



「ねーユラ、今日はどの依頼にする?」


「うーんそうだなあ……エルがいないから簡単な物にしたいなあ」



 先日の大きな事件。それはエルにとって翌日にも響くもので。結果的に今日は欠席扱いになった。エルからしたら大した事のないケガだったらしいが。心配だったユラが先生達に説明して無理矢理欠席にしてもらったのだ。確かに検査を受けた時には完全と言っていい程傷が治っていたらしいが……エルが無茶をしようとする為、念の為に安静にしてもらって良かったと思うユラであった。



「エルってば本当に痩せ我慢するんだから!」


「その事だけどそんなに酷い状態だったの?」


「そうだよ!ミオは見てないから分からないだろうけど本当にしぬかと思ったんだから」



 ユラが必死な顔で説明するとミオリオが何故かニヤリとした顔でこちらを見上げる。



「ふーん……一応進展はしてるんだなあ」


「何か言った?」


「いや、別にぃ〜」



 ミオリオがそう言うと意味深げな表情をした後に再び掲示板の前を見つめる。今日の依頼は何を受けようか。ユラも同時に貼ってある依頼を見つめると、ミオリオがハッとした顔でそれを指さす。



「ユラ、たまにはなんだけどこういう依頼を受けるのはどう?」



 それを見るとあったのは配達の依頼。魔界の奥にあるとある家に食品を届けるというものであった。



「配達の依頼?ちょっと珍しいね」


「でしょ〜たまにはいいかなあーって思って」


「たまにはかーまあいいんじゃない?」



 そう言われたミオリオがにっこりとした笑顔で依頼の紙を掴むと、すぐさま受理するように食堂の受付係の所まで持っていく。配達する食品はどんなものだろうか。気になって配達するカゴの中身を受付に聞いてみると中にはパイが入っているようで。その配達用のカゴを受け取ると美味しそうな匂いがカゴの隙間から漂ってきた。



「なるべく冷めないうちに持って行ってちょうだいね」



 受付係がそう言うとミオリオとユラは急いで魔界のゲートへと向かっていく。受付係がくれた地図と渡すパイを持って。ユラ達が駆け出した跡はほのかに甘い道で満たされていた。



 ◆ ◇ ◇



「ユラ、目的地までの方向はこの先であってるんだよね?」


「うん、地図によるとその道で間違いないと思うんだけど……」



 ユラが地図を確認しながらそう話すと、ミオリオが目的地の方角へと歩き続ける。辺りは一面真っ黒な地面。ジメジメとした天候にやや鬱陶しさを感じていると目的の場所である家が見えた。



「ユラ!もしかしてあの家じゃない?」


「本当だ、確かに家がある!」



 その場に佇んでいたのは赤い屋根の一軒家。人が住むような家の姿に思わず見とれていると、ミオリオがその家のドアに向かってノックをしようとしていた。



「すみません、配達です…………開けてもらえませんか?」



 家の扉を1、2回とノックすると住民らしき人物がのっそりと足跡をたてて近づく音がする。こんな暗い場所に住む人物は一体どんな人なのだろう。そうユラが考えているとなんと羊の姿をした人物がこちらを見つめてきたではないか。



「配達かい?おっと、珍しい……君達は人間のようだね」



 モコモコとした容姿。その姿にハッと驚くとミオリオが配達品として渡された品を彼女に渡す。



「これ、頼まれた配達の品です……冷めないうちに召し上がってください!」



 ミオリオがそう言い残すと羊の姿をした魔物らしき人物がこちらを見つめこう話す。



「ありがとう、とても助かるわ……お礼としてはなんだけど……よかったらこちらでお茶でもしない?」



 突然のお誘いに思わず2人で顔を見合せると羊の姿をした彼女がクスリと笑いこう付け加えた。



「ごめんなさいね、一人暮らしなものだから少し寂しくて……よければでいいのよ?」



 向こうからのお誘いに少々戸惑いながらも肯定の反応を見せるユラ。せっかくのお誘いだ。本人もそう言っている事だからとミオリオに提案すると、羊らしき住民がニコリと笑い扉を大きく開け出す。



「ご本人も言ってる事だしいいんじゃないかな?」


「うーんユラがそう言うなら……せっかくだしお誘いに乗ろうかな」


「ありがとう!……では早速お茶の準備をするわね」



 こう話すとのそのそとキッチンの方へと向かう彼女。彼女の家の中はとても清潔感があり、温かい木目の家具がところどころに揃っていた。



(可愛らしい家)



 ユラが辺りを見回すとチラホラと羊のぬいぐるみや羊の雑貨品等が置かれていた。もこもことした質感。そんな置き飾り達に見とれていると羊の彼女が近くにある椅子に座るよう誘い出す。



「さあ、どうぞ座って」



 するとテーブルの上に出されたのは人数分の紅茶と温かな焼き菓子だった。美味しそうな焼き菓子。そうユラ達が匂いを漂わせた焼き菓子にうっとりしていると、羊の彼女がここぞとでも言うかのように尋ねだす。



「あなた達ステモナ学園の生徒でしょ?制服を見てすぐに分かったわ」


「はい、実はそうなんです……私はまだあの学校に入ったばかりですが……」



 ユラが学校から来た事を軽く話すと、ミオリオが美味しいと言いながら紅茶を嗜む。明るい橙色に染まった紅茶。せっかくだしとミオリオに続いて紅茶を口にすると口に温かな感触が残る。とても美味しいんだろうな。もし自身が人間の姿だったら。そう考えながら焼き菓子も頂くとサクサクとした食感が舌を踊らせた。



「う〜〜〜ん!美味しいですねこのお菓子!」


「気に入ってもらえて何よりだわ……ところで今日は依頼の為にここに来たのよね?」


「はい、そうです」



 ミオリオがお菓子を頬張りながらこう話すと再びニコリと不自然な表情を浮かべる彼女。先程から感じる違和感。どこか妙だ。目の前に座る彼女は確かに優しい。なのに何故か腑に落ちない。ユラがそう思いながら焼き菓子に手をつけると羊の姿をした彼女が付け加えるように話し出す。



「あそこにいる生徒さんは優しい子ばかりでね〜たまに出会った子と話し込むのよね」


「そうなんですか!それはそれは」



 ミオリオがお菓子をとりながら会話に応えると不自然な動作でこちらを見つめてくる彼女。やはり違和感を感じる。ユラが彼女に対し疑念を抱いていると、彼女が空になったお皿を片付けようとしていた。



「あの!」


「……ん?どうかしたのかしら?」


「あなたひょっとして人間なのではないでしょうか?」


「ええっ!そうなの!?」



 ユラが思い出したのは1つの本。ミオリオがよく先生から借りる異世界からの本だ。そこには人間しか知らないはずのお菓子やお皿が載っていた。もし魔界の住民であれば……そうそう思いつかない物だろう。



「……実はそうなのよ……どうして分かったのかしら?」


「……1つ目はその焼き菓子とお皿の模様です……それは学校にある異世界からの本を見ないと分からない品々……そしてもう1つはあなたが一度も紅茶や焼き菓子を口にしていない事」



 そう、まさにその通りで。彼女は一度も紅茶や焼き菓子を口にしていなかった。通常であれば少しぐらいは口にするであろう紅茶。でも見る限り椅子に座っているだけで彼女は何もしていなかったのだ。



「だから分かりました……あなたが人間だという事が」


「すごい推理力ね、まさか気づかれると思わなかったわ」


「ちょっと私も知らなかったんだけど!?」


「実はあの学校に入学してた時期があってね」



 羊の姿をした彼女がそう話すと着ぐるみの頭の部分を外してニコニコと笑う。これは常日頃人間に擬態しているから出た発想。もしユラ自身が人間の姿であれば……思いもしなかった事かもしれない。



「さすがステモナ学園の生徒さんね!お見事!……ご褒美にいい物をあげる」


「わぁぁん!私も当ててみたかった!!」



 着ぐるみを着た彼女がそう話すとユラにある物を手渡す。



「ネックレスですか?」


「そうよ……それは魔力を隠すアイテムなの!……だからそれを持っていれば魔物に狙われる事はないわ……あなた相当魔力が高いみたいだから」


「え!どうして分かったんですか?」


「実は私、魔眼持ちなのよ」


「へえ〜うわっマジだ!」



 ミオリオが驚きながらそう話すと彼女が白い瞳を見せつけるように目を開かせる。それはティグリスが持つ魔眼そのもので。ユラはこの場に無関係な彼を何となく思い浮かべてしまっていた。



「そういえばこの前エルって子にも見破られちゃってね……ちょっと恥ずかしい気分だわ」


「へえーエルにも……さすがだなあ」


「って事は知らなかったのってあたしだけ!?キーー!!悔しいーー!!」


「まあまあ」



 ユラが悔しがっているミオリオをなだめると今度はふふっと自然な笑みで笑う彼女。彼女のおかげでは今日はいい一時を味わえた。そう思いながら立ち去るとミオリオが鼻歌を歌いながらのこのこと歩く。彼女がくれたネックレスのおかげだろう。いつもは襲われる獣道が静寂に包まれ、無事安全に帰る事ができた。


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