第68話 カサギ・ルスカ
縁の消費期限というのを考える。俺が16歳だった頃にできた初めての彼女と別れてからずっとそのことが頭から離れない。
◆ ◇ ◇
幼い頃からカサギはとある体質に悩まされていた。周りの親しい人が不幸に晒される体質だ。それは酷く深刻なものでどうする事もできない。そんなどうしようもないものだった。
カサギはある日学校で告られた。普段どおりの日常的な放課後で。彼女とは特に接点はなかった。けれども彼女の必死な姿に心打たれ仕方なく告白を受け入れる事にした。
いつもなら断る告白。けれど今回だけは違った。魔が差したとでも言うべきなのかもしれない。断るべきだった。程なくしてカサギはそう思った。
ある日カサギは彼女とデートした。それは特におかしな事のない普通のデートだった。お互いの好きな場所に行って好きな物を食べて何の変哲もない会話を楽しんで。本当に普通のデートだった。それなのにカサギ達の知らないところでそれは起こった。
「え……両親が死んだ?」
突然の出来事だった。デートの帰り道彼女を送っていくと家の前には多くの人だかりがいて。その真実を知った。またか。いつもこうだ。カサギは思った。
彼女の両親が死んだ事。それはどうやら事故にあったとの事だった。でもカサギからしたら自身の体質が招いた結果だと思っていて。その日の彼女の不幸もそれが引き金になったのだとカサギは思っていた。
それから数日間。カサギの思ったとおり彼女に数々の不幸が降りかかった。学校で大事な両親の形見を失った事。家に泥棒が入った事。色々聞かされた。それはとても残酷で。為す術もなくどうしようもない事ばかりだった。
話を聞く度にカサギは彼女に寄り添った。今日起きた不幸、明日起こるかもしれない不幸から逃れさせるために。自身のための罪滅ぼしでもあったのかもしれない。彼女だけでなく自身を慰めるためにとにかく寄り添った。
そんな日が続いたある日カサギが転校する前に通っていた学校の生徒に全てをバラされた。カサギの近くにいると不幸になるという事。それも彼女の目の前で全てを話された。
カサギが転校した理由。それは言うまでもなく。周りが不幸になる体質からの理由だった。
最初は話半分に聞いていた彼女。だが徐々に話を信じるようになりこちらに敵意を向けるようになった。一緒に手を繋ぐ事も、同じ帰り道まで歩く事も、放課後校庭で話し合う事も。全てがなくなった。全てがなかった事にされた。
そして彼女から別れを告げられた。理由は勿論その事で。なぜその事を言わなかったのかと責め立てられた。それもビンタ付きで。こうして彼女自らの口で全てをこっぴどく終わらせカサギは1人佇んだ。残ったのは虚ろげな感情と鳴り止まない雨の音だけだった。
とても大切にしていた彼女だった。だがあの時から変わってしまった。自身が変えてしまったのだとカサギは心から思った。仕方ない。全て自分のせいなのだと。そう逃げて金輪際恋はしないと決意した。
それから月日が経ち、カサギはある組織からスカウトを受ける。それは黒服の国の番犬達だった。
「私達はあなたを国の番犬として歓迎する」
そう言われると大きく腕を広げ歓迎のポーズが贈られる。その頃のカサギの心はズタボロで。とてもじゃないが正常な判断ができないようなそんな状態だった。
(どうせ入ったところでここもクビになるだろう)
カサギ間もなくして思った。自分には無理で無駄な事だろうと。やけくそだった。だが正常な判断ができないカサギはその歓迎を受け入れた。
しかしカサギは状況視察部隊に入った事で今まで起こっていた体質の全てを知る。それは魔力。つまり魔力が多すぎる事で起きていた病状だった。
カサギは国の組織に入った事で全てを知った。これまでの症例は魔力が高すぎた結果引き起こされたという事だと。そしてそれは治る病状だという事だと。
カサギはそれを知ると真っ先に治し方を教えてほしいと望んだ。すると国の組織の高い地位である評議員達がいいだろうと承諾する。すると持ってきたのは1つの赤い魔石。話に聞くとどうやらその魔石を口の中で噛み砕いて治せというではないか。
(正気の沙汰じゃない……)
カサギはそう思った。だがもしそれで治るというのであれば……。カサギはならばと口にし、その魔石を噛み砕いた。すると自身の中にあった青いオーラが魔石の赤いオーラと混ざり合う。
(これは……?)
生まれつきから見えていた他の人には見えないオーラがその時から薄い紫に変貌する。
「これでもうあなたの周りの人に不幸が降りかかる事はなくなるでしょう」
そう評議員達が言うと何事もなかったかのように立ち去る。先程言った言葉は本当だろうか。カサギは疑念と不安に揺れ動いたままその場を後にした。
それからというもの。評議員達が言ったとおり今までの不幸な出来事がまるで嘘のようになくなった。どうやら本当にあの赤い魔石のお陰で病状が消えたらしい。
「嘘だ……まるで夢のようだ!」
カサギは心から歓喜した。もう二度とあの体質に苦しむ事はないのだと。二度と親しい相手を苦しめる事もないのだと。心から思った。だが病状が治った今でも深い関係性を築く事はできないままだった。トラウマなのだろう。未だに怖いのだ。誰かに距離を詰められる事が。恋愛恐怖症だった。それもとても深刻な。
◇ ◆ ◇
「エル、大丈夫?」
1人の少女が囁くと彼はうめき声をあげて起き上がろうとする。
「……いてぇ…………けど平気だ」
その光景を見て微笑ましいと思ったカサギは遠くからニコニコしながらその光景を見つめる。そう、見ているだけなら大丈夫。いや、見るだけが精一杯とでも言うべきなのかもしれない。
(そういえば数日前も同じ事して叱られたな)
ユラ達を眺めていると不意にカップルばかり見つめすぎだと言われた事を思い出す。お前はカップリング中毒者だと言われてしまった事を。確かに自身に集まる女の子達を他所にカップルばかり眺めているが……それほどでもないのではないだろうか。
「カサギ隊長!そろそろ次の場所に向かうべきでは?」
そう隊員達に諭されるとカサギは次の視察場所に向かう手配を行う。後の事は隊員達に任せよう。カサギがそう思うとユラ達を背にしてその場を離れていく。
「……きっと彼女達なら大丈夫だろう」
これからの関係性が楽しみだ。そう思いながら立ち去ると風が青くなびいた気がして。思わずクスリと笑いかけた。




