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マルス適合者~二度死ぬ彼女は雑草の姿をした魔法使い~  作者: しがない草
第七章 真夏のデートプランD

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第65話 白く揺れるリボン

 謎の悪寒と不気味な気配。ユラが最後尾へと向かうとそんな感情が襲ってくる。一体何故汽車が止まらないのか。地面を確かめたく最後尾辺りまで到着すると不気味な物の正体を知る。蜘蛛だ。しかも巨大な蜘蛛と同じ模様の蜘蛛。大きさはとても小さいがそれが汽車の近くを複数匹這いずり回っているのが見えた。どうしよう。この蜘蛛は先程の巨大な蜘蛛と関係しているのだろうか。ユラがそう考えていると複数の黒い蜘蛛が靴先から登ってくるではないか。



「や、やめて!気持ち悪い!」



 ユラはそう言うが話す意思のない蜘蛛達はどんどん上の方まで登ってくる。それは足先から首元まで。あまりの気持ち悪さにユラが登ってくる蜘蛛達を払い除けると、懲りずに再度同じように登っていく蜘蛛。それはまるでこの先に進むなと壁として阻んでいるようで。一層不気味さが増して悪寒が絶えず襲ってきた。



「離して!!」



 ユラが無理やり最後尾まで行くとようやく目的の場所に辿り着く。仕方がない。無理にでも覗きにいこう。そう思い汽車の下側を覗こうとするとそこにはびっしりと無数の黒い蜘蛛が張り付いていた。嘘だ。これが汽車が止まらない原因なんて。



(このままではまずい!急いで知らせに行かなくては!)



 そう思い今度はエルのいる場所まで戻ろうとすると、再び手のひらサイズの黒い蜘蛛達が襲ってくる。煩わしく鬱陶しい。そんな感情に惑わされながら進み続けるとある考えが浮かぶ。このままエルの元へ行ってはまずいのではないか。そう思い直すと払い除けた蜘蛛達を呪文で固め、身動きが取れないようにする。



「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」



 すると一体となって広がっていた黒い蜘蛛が全体的に魔力の結晶で固められる。そして徐々に亀裂が入り、やがて粉々になって空へと消えていった。



「よし、今のうちに逃げよう!」



 そう言うと一目散に蜘蛛から逃走をはかるユラ。これならエルのところまで安全に辿り着けるだろう。そう思ったユラは抜け目を図るように走り去る。一刻も早く伝えなくては。ユラが駆け出しながらそう考えると遠くからある物を見つける。ヤスチヨだ。どうやらエルの様子を見てしばらくした後、こちらの方に戻ってきたようだ。



「ヤスチヨ!」


「ユラ!そちらの様子はどうなってますの?」


「とりあえず巨大な蜘蛛との戦闘は終わった!…………けど……」


「けど……?」


「どうやら小さい無数の蜘蛛達がこの汽車を動かしているようなの!」


「なんですって!?」



 ゆらが事細かに説明するとギョッとしたような態度で2度3度と素早く羽ばたかせるヤスチヨ。さすがにこの状況には驚いただろう。そう2人で仰天を共有しあうとヤスチヨからある事を伝えられる。



「……ひょっとしたらその蜘蛛、室内に入り込んでません?」


「……まさか!」



 考えてもみなかった。戦闘中で余裕がなかった事もあるがもしかすると窓やドアの隙間から入り込んでいるかもしれない。そう考えるととても嫌気がさすような感じがした。



「ひとまずワタクシが室内に入って蜘蛛を撃退してきますわ!……窓閉めもキッチリやりますのでご安心くださいまし!」


「えっ……窓閉めも?……けどどうやって?」


「そりゃああなたが得意とするそれですの!」



 ヤスチヨが得意げにそう言うとくるりと前転し自身に魔法をかける。その姿をユラが不思議そうに見つめると、なんとヤスチヨが人の姿に変身したではないか。赤紫色に揺れるロングヘアーと水色の瞳。その姿にユラが驚いていると変身したヤスチヨの周りに白い蝶2匹が宙を舞う。それはまるでヤスチヨが分身したかのようで。とても可愛らしいとユラは心底思った。



「すごい、変身できるのね」


「えへん!それぐらい女王のワタクシにとっては容易い物ですわ!」



 ユラが褒めの言葉を言うとヤスチヨが嬉しそうに微笑む。これだけの完成度だ。褒められて余程嬉しかったに違いない。そうユラが思っていると周りにいた蝶も嬉しそうに宙を舞う。



「ヤスチヨ、さっきから気になってたんだけどこの小さい蝶は何?」


「これですの?」


「うん」


「これはちょっとした精霊みたいなものですわ!」


「そうなんだ」



 ヤスチヨがそう言うと白い2匹の蝶がふわりと嬉しそうに舞う。どうやらヤスチヨの感情と周りの蝶がの動きが共有されているようで。褒められてご機嫌になっているヤスチヨの感情が蝶ごしにも伝わってくるようだった。



「……ところでエルの調子はどう?」


「………………それが……」



 ユラが不意に思い出したかのようにエルの様子を聞くとヤスチヨが急にしゅんとした顔になる。どうしたのだろうか。何か問題でも?と付け足して聞くとヤスチヨは少々不安そうな声でこちらに語りかける。



「エル、ちょっと無理しすぎて体調が悪そうですの……ですから早く汽車を止める手立てを探さなくてはなりませんの」



 そう言うと顔を下に向け項垂れるヤスチヨ。どうやら余程の事があったらしい。すぐさま救出に向かいたいが状況が状況。他に頼れる者もいないため、ユラも同じようにうつむくとヤスチヨが元気づけるようにこう言い放った。



「大丈夫、なんとかなりますわ!……ひとまずワタクシは室内に戻って窓閉めと蜘蛛退治をしに行ってきますわ!」


「うん、ヤスチヨも気をつけてね!」



 そう言って走り出すヤスチヨに気をつけてと手を振ると、それを言うならユラもですわと駆け出しながら言うヤスチヨ。そっと後ろ姿を見守ると頭のてっぺんについた大きな白いリボンが揺れる。我ながら可愛らしいパートナーだ。ユラがこっそりそう思うとユラ自身も再び最後尾の方へ駆け出す。それはさっきの場所にいたあの蜘蛛達がエルの方まで向かってこないようにするための手立てだ。そう決意を決めるとユラもヤスチヨと同様に反対方向へと突き進んだ。



(きっとエルなら大丈夫……だから今はもう少しだけ待ってて)



 あのしつこい蜘蛛達だ。おそらくこのまま放置したらエルの妨害をするに違いない。だから完全に退治するそれまでは……。そう思うとユラは改めてまとわりつく黒い蜘蛛達に立ち向かう。この汽車で誰一人犠牲者が出ないように。ユラがそう考えると蜘蛛に向かって勇敢に対抗する。すると黒い道が魔法によってキラキラと輝いて見えて。まだ見ぬ新しい道がこの汽車の上で開けたような感じがした。



 ◆ ◇ ◇



「ただいま戻りましたわ!」


「……お前、ヤスチヨか?」


「ええ、色々あって変身してきましたわ!」



 変身した姿のままヤスチヨがエルのいる場所へと戻ると、エルに向かってこう話しかける。



「……あなた本当に大丈夫ですの?」



 顔色が優れないようですがとエルに話しかけると大丈夫だとヤスチヨを見て語りかけるエル。本当は無理をしているのだろう。そう思うと一目散に汽車内へと入り込むヤスチヨ。



「……そっちの事は頼みましたわよエル……ワタクシはやれる事をやりますわ!」



 エルに対しそう述べると室内に向かい何やら勤しむヤスチヨ。こちらを心配しての言葉だったのだろう。そうエルが思った次の瞬間、喉の奥からむせ返るような違和感を感じ思わず咳き込む。すると口を塞いだ時の手のひらに生暖かい感触が残った。血だ。赤い血が手のひらの上で踊ってる。おかしい。もう少しいけるはずだ。そうエルが決意を固めると再び線路を作り出す。大丈夫だ。彼女達が頑張っている。エルがそう信じると何となく気が晴れた感じがして。口から垂れた生暖かい感触からどことなく逃れられるような気がした。

 

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