第60話 がんじ絡めの観覧車
怒涛の時が過ぎた休息。様々な乗り物に乗り、乗り物疲れを起こしたユラ達は近くにあるテーブル席へと席についた。
「疲れた〜!エル、たまにはこういうのもいいね!」
「まあ……そうだな」
今度はミオリオも連れて行こう。きっと喜ぶはずだ。そうユラが思っているとエルが何だか不貞腐れた表情でこう呟く。
「ユラ……俺と2人きりなのに何か思わない訳?」
「……何かって?」
どういう意味で言ったんだろうか。素直に楽しいではダメなのだろうか。ユラが飲み物を飲みながらそう考えているとエルが続けて話を進める。
「何かって言うのはその……楽しい以外の何かとか……」
「楽しい以外……とても楽しいなあーとか?」
ユラがそう言うと咄嗟にエルがユラの右手を掴む。そして何をしだすかと思えば掴んだ右手をエルの頬に持っていきこう呟いた。
「ふぅん?」
繋いだ手と手。一瞬だけ汗ばんだような気がした。何が何だか分からなくなりエルから視線を逸らすと遠くで枝のようなものがにょきにょきしているところを発見する。まさかマルスの木の枝だろうか。そう思うと視線を追いかけその枝を見張るユラ。するとエルも気づいたのだろうか。そっと手を離すと何やらブツブツ言いながらため息をつきその場から離れようとする。
「ユラ、しばらくそこにいてくれ」
ここで待っていてはいけない気がする。そう直感的に感じているとエルが飲み物が入ったコップをこぼす。
「待って!」
ユラがエルの腕を咄嗟に掴みそう言うとエルがため息をついた後帽子を被り直してこう話す。
「待ってろって言ってるのに……」
「……私も行く!連れてって!」
「……分かった」
そう言うと先程こぼした飲み物を小さな龍に変えて枝の追跡を始めるエル。どこに向かうのだろうか。そう考えていると一度敷地外の森に入り追跡を進める。そしてあけた場所へと進むとそこに現れたのはとんでもない光景だった。
「テーマパークの乗り物が枝に侵食されようとしている!?」
見たのは観覧車と呼ばれる乗り物が枝に侵食されている光景。周りの人達も困惑してどよめいている状況だった。
「どうしよう!どう対処すればいいの!?」
ユラが動揺していると真っ先に現場へ向かうエル。ユラも続いてその先に進もうとするが係の人に行き先を阻まれてしまう。
「ただ今原因解明中です、危ないですからこの先には入らないでください!」
「あれは何?」
「一体何があったのだ?」
上にある古代魔法の影響だろうか。係の人含め情報が混乱しているようだった。しかし私達は知っている。あれは間違いなくマルスの枝だ。徐々に伸び続けるそれを見て改めて確信するユラ。すると他の場所にいた周りの人が騒動に気づき人が溢れ返る。今のうちだ。そう思ったユラ達は隙を見て係の人の手をすり抜け、その先に侵入する事に成功する。
「どうする?エル」
「やりようはいくらでもある、けど……」
人が集まりすぎだ。そうエルが言うと後ろを振り返り様子を確認する。すると上の方からガタリという金属音が聞こえてきた。観覧車の音だ。このままではまずい。そう思ったユラがエルの方を振り返ると既に呪文を唱えようと備えている。
「……ならば、冬の篝火!《ズィマー・コスタ》」
エルがそう唱えると結晶の粒子が舞う。そして粒子がマルスの枝に付着すると少しずつ分解を始めた。しかしここは風の強い外。加えてマルスの枝の範囲が広い事もあり全ての枝を除去する事ができないでいた。
「……くそっ!せめてマルスの枝に触れる事ができれば……」
同じ状況下であったスタリナの時はマルスの枝に触れる事ができた。しかし今は人の多いパーク内。それに加えここは柵の外。係の人の手から逃れた私達だったが、今度は大きな柵に阻まれ先にいけない状態であった。
(このままだと観覧車が飲み込まれちゃう)
観覧車は既に緊急停止されている状況。おそらくまだ中には人がいるかと思われた。あの時と一緒だ。燃え盛る屋敷で人を助けた時。そうユラが思い浮かべているとあの時に起こしたある行動を思い出す。
「ユラ、やっぱり僕自身がどうにかするからその場から離れてくれ!」
「いや、違うでしょ?」
「…………?」
「エルがいて私がいるからできる事があるんでしょ?」
「……そうか!」
だがいいのか?と続けてエルが話すといいよと告げるユラ。大丈夫。ちょうど2人いるんだもの。そう考えると右手でエルの手を掴み、左手を柵から出すユラ。エルも同じように掴まれた手を握り、右手を前に出すと屋敷で教わった呪文を唱え始めた。
「「共鳴!《シンパシー》」」
するとキラキラとした粒子が天から降り注ぎ、徐々にマルスの枝を分解していく。そしてマルスの枝が完全に消え去ると、何事もなかったように観覧車が動き始めた。
「おい、人が中に入り込んでるぞ!」
「君達危ないからってなんか勝手に動いてないか?」
「……色々直したからな」
そう言うと係の人を押しのけそのまま場外へと出るエル。何だかエルらしいやり方だったな。そう考えるとガタリと動く観覧車を見て満足そうに笑うユラ。
「この雪きれー!」
「何かの演出かしら?」
お客がそう話すと満ち足りた笑顔でその雪を見つめる。その雪の正体は私達が生み出した魔力の結晶の粒子だが……それはこの場にいた私達2人だけの秘密である。
◆ ◇ ◇
その後こっそり観覧車に乗ると、向かい側の席にいたエルが不思議そうにこちらを見つめた後、窓の方を見てこう問いかける。
「なあ、思うんだけどお前の鞄から妙な気配を感じるんだが……気のせいか?」
「えっ!?」
そう言われくまなく探り出すと中にヤスチヨが潜んでいた事に気づく。
「ヤスチヨ!?」
「あ、あー……えへへ、ご、ごきげんよう!お二方……」
何故ヤスチヨがここに。全て見ていたのだろうか?そうヤスチヨに対し2人で睨みを利かせると、ヤスチヨは焦り出しながらこう話す。
「い、いやーミオリオが2人の様子を見に行けってうるさいからー……っていうかまあワタクシの私情というか興味本位ってのもあるんですけれど……」
あまりにも正直な自白だ。そんな姿にさすがに呆れているとエルがため息をつきながらこう話す。
「……まあいい、別に実害はないしな」
「……という事なので感想をお聞かせ願いたいのですがどうでしたか?お二人のデートは?」
「やめろバカ!」
デート。その単語を聞きキョトンとするユラ。確かに2人きりで出かけたが、好き同士でもないのにデートというのは違うのではないか。そう話すとどこか不貞腐れるエルとその光景を見て何故か呆れているヤスチヨ。個人的にはただの息抜きとして過ごしていた。だがデートと言われるのも案外悪くないなと心のどこかで思うユラだった。




