第53話 迅速のアルビノ
紅と黒が混ざりあった帰り道。ユラはいつもの道をひたすら歩いていると背後から妙な気配を感じる。
「何この感じ?」
ザワつく木々。まるで注意喚起を促すようで。ユラは1人不気味に思っていると背後から女性の話し声が聞こえた。
「それは私の事かしら?」
「うわあ!」
青白い肌。それはユラを驚かせるのに十分なもので。反射的にユラは背後にいたアルビノの女性から距離をとった。
「あなたがユラ・メイドリーちゃん?」
「どうしてそれを!?」
明らかな不審者とは違う違和感。その不気味な何かを感じ取るや否や謎の女性が刃物を取り出しユラに投げつけ攻撃する。速い。一瞬何をされたか分からなかった。ただその一瞬で制服を切り付けられた事だけは分かる。
「っ!?一体何を!?」
「……私はただ国の名誉のためにやっているだけの事」
国の名誉。一体何の話だと考えていると隙もなく次の攻撃が襲ってくる。反射的に仕方なく攻撃態勢に入ると、すかさず蹴りが入り刃物を突きつけられる。
「なーんだ案外手応えのない雑草ちゃんね」
何故そんな事まで知っているのか。そう考えながら即座に刃物を払い除ける。ひょっとしたら国の関係者だろうか?ユラが密かにそう思いながら攻撃に入ると、お得意の呪文を唱え始める。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」
そう唱えると地面の底から結晶の木の枝がにょきにょきと伸び一方向に進んでいく。しかし発動の方が遅いのかジャンプをされかわされてしまう。
(一体どうすれば……?)
あまりにも速い行動。今の姿で速度を上げ攻撃をするには限界があった。そう蹴りをかわしながら試行錯誤するとユラはある結論にたどり着く。そうか。身を軽くすればいいのかと。
「……どうせ正体も知られているのなら」
身を明らかにしてしまえばいい。そう彼女が考えると瞬時に変身魔法を解除させる。そして何をするのかと思えばその植物の状態のままもう一度呪文を唱え始める。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」
すると今度は伸び栄えた結晶の木が繊細なる動きをして女性を捕え始める。そして一瞬足をかすめ悶える彼女。瞬時に蹴り飛ばされかわされてしまうが、幾度か変身を解除しながら呪文を唱えると抵抗なく捕らえる事に成功する。
「お、おのれ……」
鋭い眼光に怯えながらトドメをさすか迷い出すと、ユラの背後から聞きなれた声が聞こえてくる。
「……そこまでだ」
現れたのはさっき別れたはずのティグリス本人だった。一瞬彼の低い声に驚くとティグリスは女性に対しある言葉を交わす。
「リクニス、何故ここにいる?」
「何故って国からの司令で彼女を抹殺しに来たに決まってるじゃない」
「……そんな司令どこにもなかったが?」
何やら親しい間柄のようだと隣で眺めていると、ティグリスがリクニスと呼ばれる女性に向かい、ある司令を言い渡す。
「リクニス・ビスカリア、君は本日から数日間謹慎処分を言い渡す」
「え〜あんまりですよ〜隊長!」
そう言うと捕らえられた彼女を解放ししゃがみこませるユラ。悲しみにくれた彼女が地面に這いつくばっているとティグリスが彼女をよそにこう切り出す。
「すまない……どうやら国からの通達違いで僕の隊員がユラに攻撃を仕掛けてしまったようだ」
どうもティグリスの方から先程連絡が入り、一部の隊員が誤って抹殺命令が下ったと誤解を受けてしまったとの事。本来なら国から出された極秘のテストの予定だったのだが……以前からいたユラの反対派であるごく一部の過激派が誤った情報を出したらしい。
「……僕の事は信用していないという事か」
ティグリスがこっそり呟くと何やらため息をつく彼。どうやら彼の身の回りでも何らかの動きがあるようだ。そう彼の心労を心配するように顔を覗き込むと、ティグリスはうってかわってニコリとした顔でこう話しかける。
「もう大丈夫だ……今日はそのまま帰っていいよ」
そう言うとシルクハットを被り直し、リクニスと共に立ち去るティグリス。なんだか疲れた。ユラがそう思うと腑に落ちないままとぼとぼと学校へと帰って行った。




