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第52話 感銘のテレポート

「先日のねむの木の件、非常に助かったよ」



 ティグリスがそう言うといつものように机の前の椅子に腰掛けるユラ。ひょっとするとこの街にきた時に意識がなくなったのはあのねむの木のせいなんだろうなとユラが考えていると、ティグリスがそっと小包を置きこう述べる。



「いつもありがとう、これ今月分の報酬ね」



 そう言うとユラは小包を手に取りカバンの中へ入れ込む。今月分の給料どれぐらいだろうか。そう胸を膨らませているとティグリスはある事を話し出す。



「そういえば君魔法はどれぐらい上達したのかな?」


「まあそこそこぐらいには……」


「……本当かな?」



 ユラがそう話すとティグリスが怪訝な表情をする。何故か疑われている。そう内心ムッとしたユラが考えているとティグリスに対しある質問をする。



「珍しい質問ですね、どうしてそう思ったのですか?」


「いや、実はこの国のお偉いさん達が君の事を心配していてね」



 だから力の制御どれぐらいできるのか聞いたんだ。そう言うティグリスに対しなるほどと頷くユラ。力の制御。確かにできていない時もある。ただそこまで心配される程だろうか?ユラがそう思うとティグリスに対しこう話をする。



「大丈夫ですよ!ほらこの指輪だってある事だし……」



 こう話すときらりと光る右手の薬指を見せて安心させようとするユラ。最近はこれのおかげで何とかなっている。そう説明するとティグリスが付け加えるようにこう話す。



「そうは言うけど君、出会った頃すごい魔力を放ったじゃないか」


「まあそうなんですけど……」



 否定はできない。確かにその通りである。もし同じような状況になった時、制御できるかと言われると微妙だ。そうティグリスに言われ口ごもっていると、ティグリスからある提案を言い渡される。



「だからこれから僕も君に協力しようと思ってね……どうだろう?時間がある時に僕から学ぶというのは」



 そう告げると右手を差し出し握手を促すティグリス。こちらとしては非常に有難い申し出なのだが果たしていいのだろうか?そう考えているとティグリスが背中を押すようにこう述べる。



「それに年上から学ぶっていうのも粋なものだよ?……こう見えて教えるのは得意だしね」


「そ、そうなんですか……それじゃあよろしくお願いします」



 ユラがそう言うと差し出された右手に手を向けて握手をする。こうして師匠契約のようなものを結んだユラは、その日の休日の時を使ってティグリスから教えてもらう事にした。



 ◆ ◇ ◇



「すみません、わざわざ時間を取らせてもらって」


「別に構わないよ」



 それに君のデータが取れるしねとティグリスがこっそり話すとキョトンとした顔で不思議そうに見つめるユラ。そんなユラをよそに左手でシルクハットを被り直すと、ティグリスは手を握ったままとある場所へとテレポートさせる。



「ここは……?」



 そこにあったのは巨大な滝と大きな水のほとり。いかにも修行場というところに連れてこられたユラはティグリスに対して質問を行う。



「今から何をする予定なんですか?」


「テレポートの訓練さ」


「テレポート?」


「そう、テレポート」



 そう言うとユラを置いて向こう岸のところにテレポートするティグリス。今度は君の番だ。そう言うと今度はユラを自身がいる場所と同じところにテレポートさせ、感覚を覚えさせようとする。



「イメージして?……君と僕があの向こう岸にいるイメージ」



 ティグリスがそう言ってイメージを促すとユラが瞼を閉じて静かに魔法を発動させる。すると辺りが水面しかない水のほとりへと移動する。



「うん、違うね」



 そう言うとティグリスと共に浅い水辺へと落ちるユラ。両者ビタビタになりながらも何とか浮上すると、ティグリスが宥めるようにこう述べる。



「……君は制御ができてないからもう少し離れた場所を目指してテレポートした方がいいかもしれないね」


「いやあの……すみません」


「……もう一度やってみようか」



 ユラに対しそう話すとティグリスは再度手を繋ぎ直しサポートする。すると徐々にではあるが少しずつ移動位置が安定するようになるユラ。幾度となく失敗するものの安定してきたそれを見てユラも次第に自信を持つようになる。



「じゃあ最初の位置に戻れるかやってみようか」



 そうティグリスが促すと恐る恐る魔法を使いテレポートさせるユラ。戸惑いながら目を開けるとそこは最初の位置で。見渡すと大きな滝と水のほとりがあるその光景にひとまず安堵した。



 ◇ ◆ ◇



「もうそろそろテントへと戻ろうか」



 辺りはオレンジ色。もうこんな時間か。そう考えているとティグリスが手を離し、自身でテレポートを使い戻るよう促す。



「今度は自分だけの力でテントに戻るんだ、ユラ」



 ティグリスにそう促されると早速魔法を使い、いつも行くテントの位置に戻ろうとする。するとそこにあったのは慣れ親しんだテーブルと椅子で。辺りの光景を見て上手い事テレポートを使いこなせた事に気づく。



「やった!」



 喜んだのもつかの間。頭上から滝の場所にあったであろう大きな石が落とされ、押しつぶされるユラ。どうやらテレポートする時に一緒に持ってきてしまったようだ。それを知ってガッカリしていると、後から来たティグリスから拍手が送られる。



「お見事!よく頑張ったね」


「はあ、ありがとうございます……ティグリスさんのおかげです」



 そう言ってお礼を述べるとにっこりと笑みを返すティグリス。どうやらユラの成長に心から喜んでくれたようで。ここまで訓練に付き合ってくれた彼にユラも感謝の気持ちでいっぱいになった。



「それじゃあ今日はここで……あっそれと今回のテレポートの魔法、あまり人里では使わないようにね」


「はい、本当にありがとうございました!」



 魔法を隠しているからだろう。そう思いながらティグリスに注意を促されると、ティグリスは何事もなかったかのように踵を返す。ユラも満足そうに笑みを浮かべながらテントをめくると、いつもの学校への道へとそのまま帰って行った。

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