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第49話 伐木させるシルクハット

 濃緑と木々が茂る季節。ユラは慣れた手つきでテントをめくるとそこにいたティグリスに挨拶をする。



「こんにちはティグリスさん」

「やあようやく来たね、待っていたよ」



 今日は特殊な事をするんだ。そうティグリスが言うと不思議そうな表情をするユラ。特殊な事。一体どんな事かと考えているとティグリスがシルクハットを被り直しこう説明する。



「この街で妙な枝が湧き出てるという噂を聞いてね……」



 魔力が高い人をひっかけては眠らせてしまうんだと言うと呆れた顔でユラを見つめ直すティグリス。何故そんな顔をしているのか。そう思うとティグリスはユラに対し引き続き話を続けた。



「その枝の木はねむの木っていうんだけど……」


「ねむの木!?」



 それは先日エルからもらった枝の名前そのものだった。何故この街で悪さしているのやら。驚いたユラが色々考えているとティグリスが神妙な面持ちで話を進める。



「ねむの木はこの国だと高級素材として取引されるんだけど……君、つい最近その枝と接触したでしょ?」


「はい、実は友人からその枝をいただいて……」


「まじか!……君本当に知らないのかい?その枝が高値で売られてる事」



 ティグリスの質問に対し知らないと答えるとティグリスは苦笑しながらこう述べる。



「それ、安くても10万ベルはするよ」


「10万ベル!?」



 驚いた。何故そんなものを自身にくれたのだろうか。などと考え込んでいるとティグリスが頭を抱えこみながら困惑した顔でこう話し出した。



「……君はどうやら妙な虫になつかれているようだね」


「虫ですか」


「……ああ」

 


 やはり調べ始めてみて正解かもしれないなと小声で話すとキョトンと不思議そうに見つめてくるユラ。どうやら余計な部分は聞こえなかったらしい。まあこちらとしては今はそれで問題はないのだが。



「それで今回もねむの木をおびき寄せるためにその場にいてほしいんだ」


「分かりました……要するに囮ですね」


「まあそういう事になるね」



 ティグリスがそう言うと早速街中へと出るユラ。ここぞという時に人使いの荒いティグリスに少々ムッとしたが、雇い主の名のため大人しく指示に従う事にした。



 ◆ ◇ ◇



 街中へ出るとまだ明るい日差しが続いていた。久々の市街。時々メイドリー家に遊びに行ったり、ショッピングに行く事はある。だがここ最近は忙しく遊びに行けてなかったなと思うとティグリスが両手指を指したポーズで腕をクロスしながらこう唱える。



「探し出せ《マダ・ミディ・スワール》」



 すると街中の地面が雨が降った時の波紋のように共鳴しだす。何が起こるかと静かに待ち構えていると地面から妙な枝がにょきにょきと動き始めた。



「マルス!?」


「いや違う……あれはねむの木の枝だ!……君マルスの枝を見た事あるのかい?」


「ええ、まあ」



 少し前にスタリナと校内で見たマルスの枝そっくりだとユラが考えていると真っ向から否定するティグリス。よくよく見るとその枝はマルスよりも茶色く明るい色として整っていた。



「気をつけて!奴はどんな動植物でも眠らせる効果を持っている!」


「ティグリスさん!私からできる事は……?」


「いや大丈夫だ、僕1人でやる」



 そう言われ1歩下がるとねむの枝がユラめがけてにょきにょきと伸び始める。すると途端にティグリスが庇う形で杖を生成し攻撃を防いだ。そしてその枝を杖に巻きつけたまま、こう呪文を唱え始める。



「639スィソン・トランネ



 すると杖に絡みついたねむの木の枝に錠前と鎖が巻きつかれる。その後ティグリスがしゃがみこむとねむの枝の生え際を刃物で切り、地面からねむの枝を除去した。



「……これで完了だ」


「もういいんですか?」


「ああ、ねむの木の枝が頻繁に暴れる事はないからね」



 そう話すと先程の枝を鳥籠の中にしまい込むティグリス。するとにょきにょきとうごめいていたねむの木の枝が急に大人しくなる。



「……今日はもう帰ろうか」



 ティグリスがそう話すとユラ達はその場から離れテント裏へと向かう。何事もなくてよかった。そう考えながらテント裏にある椅子に向かうと、ティグリスがふらついた足取りでソファに寝転がる。



「……大丈夫ですか?」


「……いや、大丈夫なんだけど、どうやら先程の攻撃で枝の匂いを嗅いでしまったらしい」



 そう言うとシルクハットをずらし顔を見えにくくするティグリス。どうも本当の事のようで。ほんのわずかの隙間から見える目を見るとどこかうつらうつらとしているようだった。



「悪いんだけど今日はこれで解散って事で……」



 ティグリスがそう話すと本格的な眠りに入る彼。案外お疲れなのだろうか。ユラがそう思っているとわずかに見える彼の顔を覗き込む。その顔はどこか安堵しているようで。なんだかとても可愛らしいと感じるユラだった。

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