第48話 荘厳なる技とマルスの木の枝と
「最近妙な噂がある事を知っているか?」
教室内での授業中。クロノス先生が神妙な面持ちでこう話すとかたりとチョークが魔法で舞い上がる。
「最近というより古代からの話だが、私達人間はマルスと敵対している」
そう話すとチョークが何やらマルスの実を描き出す。そしてフェルリアン語で説明書きをしながら先生が話すとチョークが一旦黒板の下へと置かれる。
「そのマルスだが……ここ最近になってまた活発化しているらしい」
話によるとどうやらマルスが自身の枝を使用し街中で暴れるケースが増えているとの事。
(……マルスの枝かあ)
ユラがそう考えていると以前あったスタリナでの騒ぎを思い出す。あの時あった黒い枝の正体。それがもしマルスの仕業であったとするのなら。とても脅威的な出来事だったと背筋が凍る思いをしていると、クロノス先生が引き続き話を進める。
「そういう事だ……もし街中で見かけても決して触れるな!……時期に待っていれば特別調査部隊がやってきて処置してくれるであろう……」
「特別調査部隊?」
ユラが思った事をそのまま口に出すと、クロノス先生から叱咤を受ける。特別調査部隊。ティグリスが度々口にしている単語だ。もしかしたら彼は先生の言うとおり日々マルスの枝と戦っているのだろうか?
(……今度ティグリスさんに聞いてみよう)
ユラがそう思うと授業終了後の鐘が鳴る。当事者である彼ならひょっとしたら教えてくれるはずだろう。そう軽い気持ちで考えながら次の授業に備え様々な筆記用具を取り出すとその場を後にした。
◆ ◇ ◇
手持ち無沙汰な放課後。中庭の通路で1人戯れているとユラは遠くである物を目撃する。
「……何あれ?」
にょきにょきとうごめくそれは苦手な昆虫でも建物のひび割れでもない何かだった。
(……もっと近くで見てみよう)
そう思いそっと近づくと遠くで見たそれは黒い何かだと気づく。ひょっとしたらこれは。故郷であるスタリナで見た光景と確かに重なる。大きさは異なるが間違いない、マルスだ。そう気づき距離を置こうとすると時既に遅し。ユラめがけて枝がバッと飛びつこうとする。
「危ない!!」
反射的に一瞬目を閉じ再度確認すると、声とともに現れたのはクロノス先生だった。クロノス先生がそう叫ぶと咄嗟に杖を出し、隠れていた枝と共に素早く枝の処理をしていく。
「大丈夫かユラ!?」
クロノス先生がそう言ってユラの安否を確認すると、大丈夫だと一声かけるユラ。危ないところだった。先生がそう話し、出していた杖を片付けると一気に平穏が訪れる。
「また君は……厄介事に首をつっこんで……」
「すみません……」
「まあ怪我がないならそれでいい」
そう言い放つと安堵するかのように深いため息をつくクロノス先生。
「意外と戦闘するの得意なんですね」
「失礼なやつだ」
「すみません、知的なイメージの方が強いもので……」
気分が高揚していらない言葉を言ってしまったかもしれない。などとユラが反省しているとクロノス先生が付け足すようにこう話す。
「……昔似たような事をしていただけだ」
そう言うとどこかへと去ってしまうクロノス先生。その姿はどこか哀愁が漂っていて。何だかつられて寂しさを感じてしまうユラだった。




