第47話 眠れる植物
「やっぱり眠れない……」
ユラがそう言うと布団から起き出す。何をするのかと思えばあるものを取り出した。日程表だ。ユラが眠れない夜を過ごす時はこうして毎日日程表と小説を読みふける。
「明日も戦術かー」
そう呟くと今度は小説を取り出す。シルヴィから聞いたおすすめの本だ。その内容はよくある恋愛ファンタジー小説。最近ハマっているそうでユラにも是非読んでほしいと勧めてきたのだ。
「面白そう!今度また感想聞かせてあげよっと」
すると1枚1枚ページをめくりじっくりと読み進めていく。その内容はアルカという1人のお姫様が最強の名を持つ勇者に一目惚れして一緒に冒険するというもの。
「ふふっ面白いなあ」
「……ユラ〜また起きてるんですの?」
「あ、ごめんごめん」
ユラがそう呟いていると近くにいたヤスチヨがうなり出す。どうやら物音で起こしてしまったようだ。そう思いながら反省していると静かに扉を閉めその場から離れた。
時刻は深夜3時42分。散歩するにはかなり遅い時間だった。昼間とはうってかわり静寂に包まれる通路。あまりにも暗い道だった。そのせいか自然と月明かりを探し出す。そうして暗い通路を出るとそこは中庭だった。
「さすがに静かだなあ」
そういいながら上を眺めるとそこには満月が移る。美しい眺めだ。ユラがそう思いながら見ていると向こう側から物音が聞こえた。
「……エル?」
そこにいたのはなんとエルで。反対側の男子寮から偶然やってきた。そんなエルに声をかけるとエルはどこか眠そうな声でこう告げる。
「ユラも起きてたのか」
「う、うん色々あって……」
その色々というのは教えられないが。そうユラが思っているとエルが中央のベンチに座り、どこからかパンを取り出す。
「夜食だよ、食べないと腹が減るからな」
「そ、そうなんだ」
相変わらず大食いだなと実感すると、同じようにベンチに座るユラ。そのパンは自動販売機という箱から取り出したのだろうか。ユラが色々考えているとエルからこう話を切り出される。
「ユラ、もしかして眠れないのか?」
「えっ?」
一瞬驚いた。眠れない体質だという事がバレたのかと思ったからだ。そう言われ目を丸くしているとエルからこう告げられる。
「もし眠れないのであれば……これを使え」
そう言って与えられたのは透明な瓶。その中身はねむの木の枝だと言われた。話によると魂の寝床とも呼ばれるそれはどんな動植物でも一吸いするだけで眠れる優れ物らしい。
「もし今後も眠れない日が続いたらこれを吸うといい」
「いいの?」
「ああ……ほとんど使わないしな」
エルにそう言われお礼を言うと早速瓶の中の枝を一吸いする。するといつもはない微睡みが身体の底から湧き出す。
「……これすごいね、本当にねむれそう……」
一吸いした彼女が返事をしたのもつかの間。脱力したかと思えばあっという間に意識を失ってしまう。
「……しまったな」
ベッドに行ってから一吸いしろと言うのを忘れた。そう思うと彼女がもたれかかった肩から落ちないよう慎重に整え直すエル。この感じだと朝まで起きないだろうなと確信するとエルもその場で寝直した。
翌日の朝うっかり寝てしまった事をエルに謝り、そのまま食堂へ行くとやはりなのか……2人の事が噂になっていた。
「ユラ、2人ってそういう関係なの?」
「エルってばやるじゃーん」
そうミオリオとシャンディに囃し立てられると、近くにいたクロノス先生が心配するかのようにこう話す。
「不純交際はやめていただきたいのだが……」
「別にそんなんじゃねえ!」
食堂にいた全員がエルをからかい出すと大声で響き渡るように否定する。どうやら深夜のやり取りで迷惑をかけてしまったらしい。そうやや肩身の狭い思いをしながら食事を終えると急いで教室へと入る。こうして怒涛の逃走劇となった朝だった。




