第45話 禁断で黄金なる杖
「はー全然コントロールできない」
授業後いつものヤラカシで魔力が暴走してしまったユラは、机にもたれかかり項垂れていた。
「今回もすごいヤラカシだったよねユラ」
「もう、笑い事じゃないよ……」
見ていたミオリオがユラを茶化すと大きくため息をつくユラ。そんなユラを見ていたシャンディが苦笑すると前席にいたエルが後ろを振り返りこう述べる。
「気にすんなよそんなの……お前もあまり茶化したりするなよ」
「ごめんごめん、つい」
エルにそう言われるとミオリオがユラに向かい反省の意を示す。しかしユラは特に気にしていなかったため、いつものように普通に受け流す。
「じゃあこういうのはどう?」
「こういうのって?」
「杖よ、杖!」
ミオリオがそう言うと1つの杖を取り出す。マイ杖だ。どこから出したのやら。そんな事を考えているとミオリオは引き続きヒントを出すようにこう述べる。
「あれよ!マジシャンみたいに杖使えばコントロールできる作戦!」
「でも私達杖なくても魔法使えるよね?」
確かに杖のような小道具さえあれば魔法が出やすくはなるとは思うが。そんなミオリオの言葉に思わず顔を上げるとシャンディからある情報が出される。
「あっでもあるよ!魔力をコントロールできる杖!」
「ほ、本当に!?」
「確か教頭先生が持ってた杖にそんな機能がついてた気がする」
「教頭の杖か……」
そういえば教頭先生とは登校初日に会ってそのままだなと思い浮かべていると、ミオリオが小難しい顔でこう話す。
「でもさー教頭から借りるのちょっとムズくない?」
確かにそうだ。教頭先生から借りるのはかなりハードルが高い。そう考えているとシャンディ直々にこう提案される。
「今から皆で頼みに行ってみない?そしたら貸してもらえるかもしれないし……」
時刻は12時42分。ちょうど昼休みの時間だ。今からいけばひょっとしたら話ができるかもしれない。そう思い4人仲良くその場を後にした。
◆ ◇ ◇
職員室の中に入るとちょうどそこには教頭先生の姿が見えた。当の本人は何やら作業中の様子。話しかけづらいなとユラが思っていると先頭にいたエルが気にせず声をかける。
「失礼します、ご用があって来ました」
「なんの用だね?」
教頭先生が何かの作業を中断すると笑顔で出迎える。どうやら上機嫌のようだ。ちょうどいいタイミングで話しかけたと内心安堵していると、シャンディが教頭先生に対しこう話し出す。
「あの、教頭先生が大事にしているあの杖貸してもらえないかなと思って……」
そう言うと教頭先生の顔がやや険しいものへと変わる。
「理由は分からんが、あれは大切にしているものじゃ……だから遊び半分で貸してなどと言っているのであれば容赦なく叱りつける…………じゃが……」
教頭先生がそう言った後、和かな顔をして引き続きこう話し出す。
「もし友の事を思いそう提案したのであれば別に構わんよ」
そう言うと教頭先生がクロノス先生の方を向きニヤニヤと微笑み出す。話を聞くとどうも先程会話していたところをクロノス先生に聞かれ告げ口されたようだ。そう考えた後ユラからシャンディに提案されたという趣旨のちょっとしたフォローを出す。
「実は私のせいなんです!私が魔力をコントロールできないから貸してもらえないかってシャンディが……ごめんなさい!」
「いや、いいんじゃよ……これで少しでも授業の役に立ってくれたならこの杖も喜んでくれるじゃろ」
教頭先生が微笑みながらそう話すと、シャンディが言っていたであろう杖が渡される。黄金の杖。とても輝くそれは質量のある重さのものだった。
「ありがとうございました」
「返却は5日後でいいからね……それじゃあ扱いに気をつけるんじゃよ?」
なんせそれは数100万ベルするからねと教頭先生が言うと皆で一斉に驚く。それにしても数100万かとミオリオ達皆で帰り際に話すと、本当に使い方に気をつけようと心から思った。
◇ ◆ ◇
次の日の戦術の授業での出来事。ユラがクロノス先生との対戦で苦戦していると、例の杖を広げ呪文を唱える。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」
イメージとしてはこうだ。まず全方面蜘蛛の巣のように魔力の縄を広げ、先生を捕らえる。そして捕らえた先生を雷撃で一気に叩き込むといったもの。いつもだと大概暴走して失敗するのだが……やはり杖があるからか捕らえるところまでは上手く成功する。
「やった!」
だがやはり先生の方が1枚上手で。テレポートでその場から逃げられてしまった。
「ユラ、いいところまでいったな……えらいぞ」
しかし普段なら失敗するところをよく成し遂げたなと褒められご満悦になるユラ。次の授業もその次の授業もいつもならできないであろう制御が上手くいきとても上機嫌のままその日を終えた。
翌日も翌々日の授業も上手く事が運び、とうとう返却日へと近づいたある日の事。今日もギルド制の授業としてあるものを採取しているとその辺をうろついていたヤスチヨに声をかけられる。
「なーんかこの杖ヒビが入ってきてません?気のせいかしら……」
「えっなんで?乱暴に扱ってないのに……気のせいだよね」
そう言ってヒビがないか確認するとミオリオ達も心配して見に来る。
「えーっ、大丈夫じゃない?それに何かあったらエルに直してもらえばいいだろうし」
ミオリオが杖を手に取りこう言うとその杖は自然にエルの方へと渡される。そしてパッと杖を見た後間髪入れる事なくこう呟いた。
「いや、無理だ……こういった仕組みの魔力制御の魔道具は専門の知識と高純度の魔石とかがないと直せない」
エルが素直にそう言うとミオリオがガッカリするかのように項垂れる。ユラ自身も心配していると後ろからガサゴソと物音が聞こえた。
爽快なる雄叫び。銀白の毛が立ち上がるそれはヘビーウルフと呼ばれる巨大な魔物だった。
「出たぞ!」
「うわまた戦闘!?」
彼らがそう言うと即座に攻撃態勢に入る。劣勢にならないよう態勢を整えると、ヤスチヨがヘビーウルフに対し攻撃を行う。
「雷光!《エゼクレール》」
呪文を唱え攻撃した途端、ヘビーウルフの元まで雷撃が発動する。しかしヘビーウルフのたてがみが電撃を弾き、あっさりと防御されてしまう。
「ワタクシの電撃がかわされてしまいましたの!」
そう話すと次の攻撃に移るヤスチヨ。けれども何度やって颯爽と走り去られ、攻撃を防がれる。どうやら雷に対する耐性があるようだ。そうユラが呑気に考えているとエルが間に入るかのように呪文を唱え始めた。
「冬の篝火!《ズィマー・コスタ》」
凍てつく結晶。見事に身体に突き刺さるとうずくまるように倒れていく。しかし気づけば仲間のヘビーウルフを呼ばれユラ達は窮地へと立たされる。
「いつの間に!?こんなの倒しきれないよー!!……なんて」
そう言うと今度はミオリオがギターを奏で攻撃を出し始める。
「響け!《ラグリマ》」
怒涛の響き。周りで囲って突撃してきたヘビーウルフ達が一気にバタバタと倒されていく。しかしそれでも残された者は数多く飄々と佇んでいた。
「げえっ!まだいるじゃん、これじゃあキリがないよ」
「……今度は私が!」
ユラがそう告げると天使の輪のように攻撃が出るようイメージしていく。そして完全にイメトレが終わるとこちらへと走り出すヘビーウルフに向かい呪文を唱えた。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」
そう唱えると杖を大きく振り切り攻撃が広範囲に渡るよう振り回していく。すると全てのヘビーウルフが黒煙へと消えていき更地と化した。
「やった!」
ようやく戦闘が終わった。そう思い右手を見ると妙な違和感を覚えた。杖がない。ユラがそう感じ下を見るとそこには既に欠片となった杖の残骸が残されていた。
「うわー見事に壊れたねユラ」
「……どうしよう」
残されたのは破片になった杖のみ。この状況にユラがどうしたらいいか悩んでいると、エルが励ますようにこう声をかける。
「一緒に謝りにいけばいいだけの事だろ?そう悩む必要ねえよ」
「そうよ……というか今週からクロノス先生メンバーから外されて良かったね」
この場にいたら怒鳴られてたかもよと告げると背筋が凍るような気持ちになるユラ。ミオリオの言うとおり今週から3人になった事に少々安堵した。
魔界から学校へと帰ると即座に教頭先生を探し謝った。
「「どうもすみませんでした」」
するとどんな反応になるかと思えば目を点を点にして固まる教頭先生。その態度に戸惑っていると近くにいたクロノス先生が大きく呆れた顔をしこう話し出す。
「……すみません、こちらからも何か罰を与えておきます」
そう言うとユラ達の方を向き厳しい目を向けるクロノス先生。どんな罰が待ち構えているのやら。ユラがオドオドしながら考えていると遠くから見ていたプリムラ先生がこちらに来てこう言い放った。
「まあいいじゃないですか、生徒達もわざとやった訳ではないんだし」
「……ですが」
プリムラ先生がクロノス先生に対しそう言うと、粉々になった杖に目を向ける。するとハッとした表情で教頭先生にこう話しかける。
「まあ!これ偽物の杖では!?だってこの杖の素材、耐魔力用の魔石が入ってないですもの!」
「「えっ!?」」
という事は今まで偽物の杖でコントロールしてきたという事になるが……当の本人であるユラは気づいておらず。ただただ他の人と同様に偽物だったという事実に驚いていた。
「なーんだ偽物かー、どおりで壊れやすかったんだ……じゃあよかったじゃんユラ!」
「いや!よくない!!」
偽物だと明らかにされるとひょうきんな態度を見せるミオリオ。結局教頭先生は白く固まったままでクロノス先生にはこっぴどく叱られた。だがそんな状況でもその杖が本物でない事に少々ほっとしてしまうユラだった。




