第44話 魔物の木が茂る頃
青雨の音が響く頃。ユラがいつもどおりテント裏に来ると、向かい側からティグリスがやってきた。今日は何について話そうか。そう考えているとティグリスが机の前の椅子に座り、何やら考え事をしながらこちらを見る。
「君今何話そうか考え事してたでしょ?」
「まあ実はそうなんですが……」
そう話すとあまり固くならないでよと静かに茶化すティグリス。ユラにとっては普通でいたつもりだが……どうやらいらぬ心配をかけてしまったらしい。
「まあ安心して、今日は見るだけでいいからさ」
すると一旦植物の姿に戻してほしいと言うティグリス。言われたとおり変身を解除するとティグリスがじっと私の姿を見つめてきた。最初は気にしていなかったユラ。だがあまりにも眺めてくるのでだんだんとユラは照れ臭さを感じてしまう。
「あ、あの……まだですか?」
「いや、もうすこしだけ……」
そう言うと顔を近づけじっくりと眺めてくる始末。そんな恥ずかしさに耐え忍んでいるとようやく目線から外れ照れ臭さから解放される。
「もう大丈夫だ、ありがとうユラ」
何がそんなに気になったのやら。ようやく解放され不満に思っているとティグリスがある事に気づく。
「へえ……なるほど」
「何がなるほどなんですか?」
「……国家機密さ」
自身の事をもっと深く知りたいと望み、人の姿にして身を乗り出すとユラは何度も教えてくださいと連呼する。しかし幾度もティグリスに国家機密と言われ話をそらされてしまう。
「じゃあ代わりにいい加減魔眼について教えてくださいよ!」
衝動的に疑問をぶつけ思わずハッとするユラ。雇い主のプライバシーに関わる事だ。それなのになぜ聞いてしまったのだろうとユラは心底反省する。だがそんなユラの態度とは別に話してもいいかとティグリスは言う。
「まあプライバシーに関わる事だが……別に構わないよ」
「いいんですか!?」
「ああ……今後も今みたいに言い寄られても困るしね」
いつの間にか詰めていた距離を少し離すと丁寧な口調で語り出すティグリス。
「魔眼っていうのはね、いわば魔力が見えるようになる不思議な力さ」
「魔力が見えるようになる?」
「そう、これがあると職業柄すごく便利でね」
本来なら生まれつき授かる力なんだけどねと付け加えると意味深げに笑う。
「例えば魔力のある人間は青い魔力に包まれて見える事がほとんどだが……逆に魔物とかだと魔力の性質が違うから赤いオーラになっている」
ティグリスがそう話すとユラが不思議そうな顔で質問を返す。
「魔力に色があるという事ですか?」
「まあそうなるね」
赤と青。2色の魔力があるという事だろうか。ユラがそう考えているとティグリスが思わぬ方向に会話を切り出す。
「時にユラ……最近魔物と触れ合ったりしていないかい?」
「えっどうして分かるんですか?」
「魔眼持ちだからね……そういうのもだいたい分かる……それに僕あまり魔物好きじゃないんだよね」
近くにいるとつい攻撃したくなっちゃってと言うと大きくため息をつくティグリス。念の為に契約獣であるヤスチヨを留守番にさせてよかったと安堵すると、ティグリスが引き続き話を進めた。
「あと適合者の人間はオーラが紫に見えるかな」
「紫ですか」
「そうそう、君みたいな」
もっとも君は植物だけどねとティグリスが続けて言うと少々ムッとするユラ。ティグリス流の冗談だったようだが……気に入らないと言った表情で話すとティグリスは困り顔でこう述べる。
「……少々色々と話しすぎたようだ、それじゃあ今日の業務はここで」
そう言うと逃げるように踵を返すティグリス。なんだか腑に落ちないユラだったが、やる事を全て終えてしまったためユラもその場から退散する。結局自身のことについては何も分からずじまいで終わったが、帰りがけの天気模様は行きの時よりよくなっていて。ユラのほんのちょっぴり憂鬱だった気分をうっすら晴れやかにした。
◆ ◇ ◇
ティグリスが重要な書類を引き出しから取り出すとある仮説を立てる。
「200年前、研究所から逃げ出した彼女の魔力と先月倒した木の魔物の魔力が一致していた……となるとおそらく彼女は」
【魔物から植物に変化を遂げた唯一の人間】ではないか。そうティグリスが考察すると亡き友人が残した資料を見比べこう語る。
「人間から植物にする実験は成功している……けど何のために?」
何かを生み出すためか否か。試行錯誤考えてはみるもなかなか結論が出ないティグリス。結果的には何故そのような実験を行っていたかは分からないままだがこの国で何かが起ころうとしている事は確かだった。
「今はまだ様子見だが……今後次第では処刑しなければならないという事か……」
そう言うと重要書類を引き出しにしまいその場から離れるティグリス。部屋のランプを消し寝床へつくと大きな謎が暗闇と共に溶け込んでいった。




