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第43話 鳥籠の中のファンタジア

 蒼穹たる天気の週末。ユラはティグリスに魔法で呼び出され、いつもとは違うテント前に来ていた。



 久々の表入口だ。そうユラが思うとそのままテントをめくり前へと進み出す。するとステージ上のそこに変身マジックショーで使用された人が入る箱と1枚の紙が置かれてあった。



(ユラへ、その箱に入ってほしい)



 それはティグリスからのメッセージだった。よく分からないままメッセージどおり恐る恐る箱に入ると退屈そうに欠伸をするユラ。するといきなり箱が閉じられ真っ暗になったかと思いきや、だんだんと箱の外から人の声が聞こえるようになる。何事かと構えるとバッと箱の扉が開かれ、歓声が響き渡った。



「以上でマジックショーは終了となります!ご視聴頂きありがとうございました」



 そう隣でティグリスが言うとあんぐりとした顔でそれを見つめるユラ。どうやらマジックショーの項目として利用されてしまったらしい。



「やあ、ユラ」


「やあじゃないですよ、ティグリスさん!」



 ティグリスがそう言うと思わず突っ込んでしまうユラ。もしかしたらマジックショーの係として利用するだけのために呼ばれたのでは。そう思うとユラはティグリスに対し少々不貞腐れてしまう。



「今マジックショーのためだけに呼ばれたって思ったでしょ?」


「そうですが何か?」


「あははごめんごめん、ちょっとしたサプライズさ!……というのも冗談でこっちに少々用があってね……」



 すると今いる現在地を確認するために持っていた地図を開くティグリス。どうやら今いる現在地はモナにあるテントから離れた場所らしい。先程のマジックショーでこっそりテレポートでも使ったのだろうか。そう考えていると地図のとある場所を指さしこう言う。



「今ドリグールってところにいるんだけど今日はここで手伝ってもらいたい事があってね」



 そう意味深げに言うとティグリスはそのままテント裏へと行く。そしてユラを呼ぶとティグリスはその手を掴みある場所へとテレポートした。



「着いたよ」



 ティグリスが到着を知らせるとそこは森だった。青々と茂る森。どこにも日当たりがないそこはユラにとって神秘的に見えどこか不可思議な場所だった。



「ここで何をするんですか?」


「果物狩りさ」



 果物狩り。一見すると普通の響きだ。だがよくよくそこらにある果物を見ると、それはまだ青づいたリンカだという事に気づく。嫌な予感しかしない。そう思ったが雇い主であるティグリスに反論できないまま引き続き労働を全うする事にした。



 ◆ ◇ ◇



 ティグリスに連れられリンカの森を探ると次第に色が緑から赤のものへと変わり始める。それからしばらく歩き進めると今度は人らしき影が映り出した。どうやらここでリンカを育ててる農家のようだ。



「やあ、また来たのかい?国の番犬さん」


「ええまあ」



 ここで働く農家はどうもティグリスの知り合いらしい。馴れ馴れしく話す態度はここに幾度も足を運んでいる証のようで。とても和やかな雰囲気が漂った。



「今回もリンカ狩りかい?」


「はい、そうなりますね」


「言っておくけど当分は出ないと思うよマルス」


「いえ、今日辺り出るとこの魔眼が言っております」



 魔法関係者だろうか?普段なら出さない単語をボロボロと口に出している。珍しい光景だとユラが覗き込むとこの人は国の関係者だからと話のフォローを入れられた。



「という事はこの嬢ちゃんが?」


「ええ……この間話したマルス関係者です」


「適合者、でしょ?ティグリスくんはすぐそうやって誤魔化すんだから」



 国の関係者だからか。適合者という情報もしっかり分かっているらしい。そうユラがキョトンとした顔で2人のやり取りを眺めていると、ティグリスは早速あらぬ方向へと向かう。



「ああ、ユラ……しばらくそこで待っていてくれないか?」


「別に構いませんが、どうしてですか?」


「……ちょっと大事な用を思い出してね」



 そう話すと先程まで歩いていた道を振り返り斜め左へと進むティグリス。彼の事は気にするな。そう農家の人に言われると言われたとおりここで彼の帰還を待つ事にした。



 ◇ ◆ ◇



「……今日は彼女を利用してばかりだ」



 ティグリスがそう言うと足早々と先程の道へと戻っていく。左目の魔眼が疼くと対象のマルスがそちらにある事を教えてくれた。後はそちらの道を向かうだけだ。



 先程通った道のりから最後の近道をすると魔眼が更に疼く。こういう時高魔力である彼女の存在の有り難さを知る。もし彼女がいなければ……先程まで隠れていたマルスが市場に回っていたのかもしれないのだから。



「出てこい!…………先程まで隠れていたのはそこにいるお前だろう?」



 ティグリスが下に落ちていたリンカに対しそう話すとリンカの底が黒く染まり始める。そして全体が黒く染まると黒い部分から複数の目が浮き出てきた。



「やはり……お前は生きているな?」



 そう告げるとリンカのフリをしたマルスの目から黒い手が複数出て伸び始める。すかさずティグリスが呪文を唱えると呪文で捕まったマルスが抵抗を始める。



「4分33カト・ラン・トロワ



 マルスが抵抗すると今度は違う呪文を唱え大人しくさせる。呪文後の波紋が消えた後。マルスの目は静かに目を瞑った。それはまるで泣いている赤子を落ち着かせるための呪文だった。



 ◇ ◇ ◆



 無事捕らえたマルスを鳥籠の中へ入れると、マルスが白く光り結晶化する。その後即座にユラの元へ戻ると呑気にリンカを試食する彼女の姿が見えた。



「おや?もう帰ってきたのかい」


「おかえりなさい!ティグリスさん」



 先程の緊張感がまるで嘘のようだ。そうティグリスが考えていると農家であるシャンベルがおひとついかがとリンカを差し出す。



「……いえ、私は結構…………というか私が何してたか知っててあげてません?」


「ははは!いいじゃないか、たまには」



 そうシャンベルが話すと苦笑した様子でおどけてみせるティグリス。ただ1人よく分からないままムシャムシャとリンカを食べているとユラはティグリスに頭を撫でられる。



「ティグリスさん…………それで手伝いというのは?」


「ああ、もう終わったよ……君のおかげでね」



 結局何も分からないままだろう彼女にそう告げると、満足そうにリンカの飲み物を飲み干すユラ。



「私まだ何もしてませんよ?」


「そうだね、でも君がここにいたおかげでとても助かった」


「助かったんですか?」


「ああ…………ただ……」



 ただ君を利用する形にはなったけどね。なんて言葉が上手く出ず口を濁していると、ポカンとした顔でこちらを見るユラ。



「【君はやはり狙われやすいね】」



 そんな言葉しか出てこないから今はそれでいいかと思っていると青かった空が茜色に染まる。仕方なくティグリスがリンカを口にするとほんのりと甘い風味が染み込んだ。

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