第126話 魔界との契約内容
秋風が立ちこむある日の出来事。ユラがスキップしながらテント裏へと向かうと丁度マジックショーの片付けに入っているティグリス達を見かける。
「やあユラ、元気にしてたかい?」
「ご機嫌ようティグリスさん……今日も片付け中ですか?」
「まあね……ここで立ち話もなんだからテントの中に入ろうか」
そう言って2人同時にテント内に入るとほのかに寒かった風が止むのを感じる。最近寒くなってきたな。とユラがしみじみ思うとティグリスからこんな事を聞かれる。
「君……さては最近魔界で何かしてるね?」
「……どうして分かったんですか?」
「魔眼持ちだからね……そういうのはすぐに分かるよ」
身体全体に魔界特有の赤い魔力がついてると話すとくすくすと笑い始めるティグリス。一体ティグリスからはどんなふうに見えているのやら。そんな事を考えているとユラはティグリスにある事を話す。
「最近魔界の長と仲良くなりまして……」
「魔界の長?ああ……彼の事か」
「ティグリスさんも知っているんですか?」
「ああ、ことある事に会いに行ってるよ……ごく稀にだけど」
ティグリスがそう言うとシルクハットを深々と被り直す。なるほど。さすが国の番犬。そうユラが考えているとユラは何でもないかのように引き続き話を進める。
「それで魔界の長に魔力の提供を頼まれまして……」
「……なんだって!?」
すると途端に席から勢いよく立ち上がるティグリス。どうしたのだろう。不安になったユラがティグリスの顔を見ると彼は驚いた表情をしていて。何が何だか検討もつかないユラを悩ませる。
「……君今魔力の提供を頼まれたと話したよね」
「それがどうかしたんですか?」
「いいかい?すぐにでも魔力の提供を断るんだ」
「なぜです?」
「なぜって……君の魔力がなくなるかもしれないだろ?」
そんなに頑なにならなくてもとユラは思った。なぜそんなに必死なのだろうか。少々言い合いになりながらもユラはこちらとしての意見を言う。
「魔力の量は加減してますし大丈夫です……それにもう手遅れというか」
「手遅れって……またとんでもない事をしてくれたね……」
「だから大丈夫ですって、はい!この話はおしまい!」
「そうしてあげたいところだけど魔界との契約に抵触する恐れがあるから大丈夫とは言えないんだよ……」
「魔界との契約……ですか?」
「そう」
不貞腐れた顔でティグリスが言うとユラは困惑の表情を浮かべる。魔界との契約。一体どういう事だろうか。ユラがそう思うとティグリスは仕方ないとでも言うように順に説明をしていく。
「いいかい?魔界との契約って言うのはただ単に人間界との接触を避けるだけじゃなく魔力の取引を防ぐ契約でもあるんだ……だからユラが言っている魔力の提供はその契約に反する恐れがあるんだよ」
「そうだったんですか……」
そうは言うものの。魔界の長からはそのような事を言われた事のないと思うユラは少々首を傾げ悩み出す。
「でも魔界の長からは何も言われませんでしたよ?」
「あのエルフ……魔界の長的には好条件なはずだからな……向こうから言う事はまずないだろうよ」
なるほど。その裏にはそういった背景があったのかとユラは思った。少々騙された気分ではあったが……今更引き返せないユラはティグリスに向かいこう言う。
「そうだったんですね……ですがもう取引すると魔界の長と話してしまったので何とも……」
「はあ……ちなみにどれぐらいの魔力を提供したんだい?」
「いつもティグリスさんに与える程度の魔力量です……人間界の青き魔力がないと暴れる魔物達が出ると言われたのでそれで……」
ティグリスはただただ困った表情をした。確かに彼女の言い分も分からなくもない。ただ国の番犬としては見過ごせないやり方で。ティグリスは少々戸惑ってしまう。
「これをしないとまた魔物達が暴れるかもしれないんです!ですから……どうか見過ごしてもらえませんか?」
そう言うとまたしても困惑の表情を浮かべるティグリス。国の番犬としては魔界との契約内容を一から叩き込んでやりたいところだが……何も知らない彼女にそれをするのは酷な事。それを分かっているティグリスは観念したように。その場で佇みこう言う。
「分かった……ただ契約に抵触する恐れがあるから量だけは少なめにしてもらえないか?」
「量ですか」
「ああ、いつもの半分は少なめにしてほしい」
それさえすれば魔力の提供をしてもいいとの事。それをティグリスから提案されたユラ。するとユラの口から了解の意思を示す。
「分かりました」
「……分かってもらえて嬉しいよ」
そう言うと一息ため息をついて席へと座るティグリス。ユラにとってはなんて事のない事だったが……少々困らせてしまったと1人思い悩む。
(魔界でも色々あるんだな)
そう思うとユラは本日分の魔力を提供しその場を後にする。今日はなんだかんだ言い争ってしまった。そう考えるとあまり迂闊な事はできないなと思うユラであった。




