第123話 記憶の古書
「あーちょっと忘れ物してきちゃったかも」
「えっ大丈夫?」
すっかり涼しくなった日の始業前。ミオリオがそう言うと心配そうに見つめるユラ。するとタイミングよく教頭が近くに通りかかる。
「どうなさったのかな?」
「教頭先生!」
珍しい。ユラは思った。こんな時に教頭に会うなんてと。ミオリオもそう思ったのか。キョトンとした顔でその場に佇むミオリオ。するとミオリオが教頭に対しこんな事を話す。
「いやー始業前なのに忘れ物しちゃったみたいで……こんな時に絶対に忘れない方法があればいいのになって思ってたところで……」
なるほど。ミオリオらしい提案だとユラは思った。確かにそんな方法があれば是非ともやりたいところ。そんな事を考えているとそれを聞いた教頭が何やら考え出す。そしてふむ……と呟くと教頭はミオリオに向かってこう話した。
「あるぞ、そんな方法が」
「……あるんですか!?」
「ああ、わしもよく使っておる!」
物忘れが酷いからのうと話すとミオリオにある物を見せる教頭。手のひらから出てきたそれは一見本のようで。ユラ達が不思議そうに見つめるとその本のようなものは光り出す。
「追憶の旅の古書という魔法なんじゃがそれはそれは便利な魔法でのう……わしも
よく使っておるわい」
「どんな魔法なんですか?」
「これは記憶の本、魂にその記憶を刻みつける魔法じゃ!」
どうやらその本のようなものにメモをすると忘れる事なく一生大事な記憶として保管されるという事らしい。それを聞いたミオリオはすごい!と目を輝かせやってみたいと話す。
「やり方は簡単じゃ、こう目を瞑って心の中で呟くだけで良い……そうすればできるはずじゃ」
「こうやって、目を瞑って……できた!」
「後はその本に忘れたくない事を書いて再び心の中にしまっておけばいいだけじゃ」
「ほほう、なるほどなるほど……」
教頭からの説明が終わると同じように魔法を使うミオリオ。うっかりが多いミオリオからするととても最適な魔法だったようで。嬉しそうに笑みをこぼす。
「……これでよしっと!じゃあ早速だけど忘れ物とってくる!」
「うん、またねミオリオ!」
「ホッホッホッ!元気いっぱいじゃのう!」
ミオリオがそう言うと寮内へと駆けていく。それを見た教頭はどこか嬉しそうで。役立ったことを誇りに思うかのように笑みを零していた。
「では私もこれで失礼します」
「そうか、ではまたの」
そう言うと教頭に背を向け教室へと向かうユラ。いい事を学んだ。そう思うとどこか嬉しそうに。スキップしながら歩いていったユラだった。
◆ ◇ ◇
ユラが教室に着くといつもの定位置にいない彼を探す。おかしい。いつもなら眠りながらそこにいるのにと前の席を見て思うと隣にいたシャンディがこんな事を言いだす。
「……?……エルなら今日休みだよ」
「うわあっ!」
「ご、ごめんなさい驚かせちゃって!!」
「いや、いいよいいよ!」
そう言うとひっそりと動揺を隠すユラ。驚いたのは確かだが……悪気のないシャンディを宥めるとシャンディが引き続き思い出すかのような仕草でこう話す。
「今日はお墓参りに行くんだってさ……ご家族の命日みたいで」
「そうなんだ」
「クロノス先生がそう言ってたよ」
なるほど。それなら分かる。確かにエルの両親はこの前亡くなったという話を聞いた。今日が命日とは聞いていなかったが……ユラはシャンディの言葉に1人納得する。
「エルも色々あるみたいだからね」
「ミオリオ!」
「遅れてごめん!授業始まってる?」
ユラが独りでに考えているといつの間にか隣にはミオリオの姿があった。ユラがそれに気づくと授業に遅れてないか確認するミオリオ。するとタイミングよく始業前の鐘が鳴り響く。
「丁度これからだよ」
「そっかー!よかったー!間に合って」
そう呑気に話すミオリオの姿に思わず笑うユラ。今日の授業はなんだろう。そう思いながらユラ達は大人しく席へと佇んだ。
◇ ◆ ◇
湿気の多い静かな部屋。一人でいるのには丁度いい小屋の中。その部屋の中でエルはとある魔法を唱えていた。
「追憶の旅の古書!《メモリテル・ウェトォス・リベル》」
それを唱えると手のひらには数え切れない程の本が溢れ出す。そしてその本を周辺に囲うように並べるとエルは静かにこう言った。
「そろそろ準備の時間だ」
そう話すと魔法で出た本を整理するかのように読み進めるエル。薄暗く怪しく光る本の中。エルが本をまとめていくとエルは1人ニヤリと笑った。




