第121話 新たな依頼書
「ユラは私達の事何も知らなすぎですわ!」
「そんな事ないもん!ちょっと知らないってだけで!」
ユラ達が言い争うとうわああんと部屋から出ていくヤスチヨ。どうせヤスチヨの事だ。しばらくしたらケロッとした態度で戻ってくるに違いない。ただ今回はさすがに言い過ぎたところはある。そうユラが1人思うと課外授業の為にひとまず外へと出ていった。
◆ ◇ ◇
いつもの掲示板。今日はどんな依頼があるのかとミオリオと一緒に探すとそれに見かねたエルがある依頼を持ち出す。
「……これとかどうだ?」
「……な、なにこれ、魔界の長に会いに行く?」
「僕らイマイチ魔界の事知らないだろ?……だからたまには授業らしい事してもいいんじゃないかって」
「……なるほど」
確かにエルの言う通り。私達はもっと魔界の事を知るべきなのかもしれない。ただ会いに行って何があるのやら。よく分からない依頼に戸惑うとエルはそそくさとその依頼を持って受理しに行く。
「あっ、ちょっと!まだそれにするとは言ってないんだけど!」
「いいだろ別に、迷ってたんだしよお……要は近況報告すればいいだけの話だ」
そう言って依頼を持ち出すとそのまま魔界へと向かう一行。初めて見る類の依頼に少々不安になるユラだったが……気にする事なくそのまま歩みを進めるユラ達。するとゲート前まで来たミオリオが心配そうにこう話す。
「そういえばあたし魔界の長とやらにあった事ないけどどこ行けば会えるの?」
こんな時ヤスチヨがいたらなとユラは自然に思った。だが今は喧嘩中。気軽に頼る事のできない状況だ。すると隣にいたエルが誇らしげにこう話す。
「一度会った事あるから案内はできる……多分だが……」
「もう!はっきりしてよ!」
そう言うともう!と怒り出すミオリオ。確かに博識なエルならこの道にも詳しそうだ。そうユラが思うと行き先が分かる事への安心感を得る。
「大丈夫だ、道順なら分かる……黙って僕についてこい」
エルがそう言うと魔界への入り口へとそのまま入っていく。色々不安だった道のりだがエルがいるなら大丈夫だ。そうユラが思うとのこのこと一行は目的の場まで歩いていった。
◇ ◆ ◇
歩いてからしばらく。ユラ達がエルの指示どおりの道を歩いていくとそこには大きな池と小さな小屋があった。
「綺麗な池……」
「……おっとそれに触るなよ?」
「なんで?ただの池じゃん」
「一見普通には見えるがそれには人類が触れてはならない猛毒的な成分が含まれてるからな」
一見ただの池。だがそれにはエルが言うように猛毒のような成分があった。その事実に思わず戸惑うユラ達。こんな場所で出会う長とはどんな方なのか。気になって小屋をノックすると中から出てきたのは見知った顔だった。
「おや、訪問客ですか……珍しいですね」
「あの……すみません、今日は依頼でやって来ました」
魔界の長とは。少し前にお世話になったエルフの長の事だったのか。どうりで見た事のある場所だと思ったとユラが1人納得しているとエルフの長がこちらを見てこう話す。
「ん?そちらの方とはお久しぶりのようですね」
「ご、ご機嫌よう」
ご機嫌ようと挨拶をすると共にしまったと思ったユラ。なぜならあの時は花の姿で対面していたから。もしこの場であの時の話をされたら……学友達にバレてしまう。そう思ったユラが思わず動揺しているとミオリオにこう告げられる。
「あれ?ユラも会った事あるの?」
「まあ一度だけだけどね……」
「もう!言ってくれればよかったのに!」
ユラに一言そう言うと1人プンプンと怒るミオリオ。状況が状況だ。話さなかったのではなく話せなかったのだが……それを知らないミオリオは1人不貞腐れる。どうしたものか。もしあの時の話をされたらと1人不安になっていると助け舟を出すかのように。エルが依頼の話を進める。
「それより今日は依頼の話で来たんだが……何を話せばいい?」
「……そうでしたね、主に人間界で起きた事を話してくれればいいですよ」
そう言うとエルフの長は自分用の飲み物らしきものと人間用のお茶と茶菓子を用意する。その行動に思わず戸惑うが人間でも安心して口にできるものだと言われるとユラ達は遠慮なく食べ進めた。
「全く……人間というのは不思議な生き物ですね……こんなにも食生活が異なるとは……」
「……確かにそうかもしれないが僕達からしたらお前らの方が不思議な生き物に見えるぞ」
「おや、確かにそうかもしれないですね」
エル達がエルフの長に近況報告を告げるとエルフの長は不思議そうに耳を立てる。とりあえず何とか依頼の方は何とかなりそうだ。そう思った矢先エルフの長が困ったように話し始める。
「そうですか……人間界は相変わらずのようですね……ですが困りました……それだと人間界に魔物達を呼ぶにはまだ早いという事でしょうか?」
「……どういう事ですか?」
「少し前から聞いているでしょうが魔界では最近魔獣達が暴れているのです……それを収めるには青き魔力が必要……つまり青き魔力が多い人間界に行けば解決するのですが……」
それは無理だとユラは直感的に思った。なぜなら国が魔法を隠しているからだ。人間界ですら面倒な事になっているというのに魔獣まで関わってきたら……おそらく大変な事になるだろう。
「どうしても無理なのでしょうか……人間界に行くというのは……」
「それはまだ流石に……」
魔法使いさえ減少傾向にあるのにとエルが付け加えるとエルフの長は納得できないような顔でその場で項垂れる。確かに人間界と魔界では魔力の濃度が違うような気がする。そう感覚的に感じたユラはとある提案をする。
「ではその魔力を提供するというのはどうでしょう?」
「魔力の提供?そんな事が可能なのですか?」
「はい!」
「ユラ!そんな事して大丈夫なのか!?」
「大丈夫だよ!……慣れてるし」
心配症のエルに向かいユラが言うと早速いつもティグリスに与えるように魔石を作っていく。最初は指先程の小さい魔石だったが段々手のひらサイズまで大きくなるとそれをエルフの長に見せつけた。
「……これではダメですか?」
「なかなかに純粋な魔石だ……これなら……いやしかし……」
そう言って魔石を睨みつけるとエルフの長はうーんと悩み出す。どうしたのだろうか。これではダメだったのだろうかとユラが心配になるとエルフの長ははっきりとこう申した。
「いや、大丈夫だ……少々赤き魔力が混じっているのが気になるが……これを気化すればしばらくは青き魔力に満ち溢れるだろう」
「本当ですか!……よかった!」
「ユラやるじゃん!」
こうして認められた魔石はエルフの長により管理された。それに対し満足感を得るとそそくさと帰っていくユラ達。何とか依頼の方は済んだようだと1人納得するとユラはゲートの方まで歩いていった。
◇ ◇ ◆
踵を返した彼女達を見送るとエルフの長は魔石を見てこう言った。
「全く……あの花の娘にはいちいち驚かされる」
キラキラと光る魔石。これを彼女が作ったものだと改めて確認するとエルフの長は呟いた。
「気をつけてくださいね……あなたは確実に狙われる……国からもこの魔界からも……」
そう言うとエルフの長は戸棚の方へと行き新たな依頼を出す準備を始める。そして依頼を書き出すと伝書鳩の足に括らせどこかへと飛ばして行った。




