第120話 闇魔法の罠
「ゴブリン退治!?」
「ああ、最近ゴブリン達が魔界で悪さをする程盛んになっていてな……お前達3人でゴブリン退治に行ってもらいたい」
すっかり秋の匂いになった日の課外授業。クロノス先生からそう告げられるとユラ達は困惑の表情で話す。
「どうしてあたし達なんですか?別に他のチームでもいいはずなのに」
「それなんだが他の2チームには別の任務に向かわせている……だからこれを頼めるのはお前らぐらいなんだ」
ゴブリン退治。面倒な事になった。一度対峙した事はあるがなんせ奴らは知能が優れている上に数が多い。その事を知っているユラ達は思わずげっそりとしてしまう。
「まあそういう訳だ……くれぐれも怪我はするなよ」
そう話すとクロノス先生はユラ達に背を向けどこかへと消え去る。急遽頼まれた課外授業。仕方ない。そう思ったユラ達が学校を出ると早速魔界へと向かった。
◆ ◇ ◇
「久々の魔界ですわ」
「……ヤスチヨ連れて大丈夫なのか?」
エルがそう言うとユラが自信のある顔でこう言う。
「この辺りはヤスチヨも詳しいらしいしヤスチヨいた方が簡単な道のりで行けるから楽になると思って」
そうユラが言うとヤスチヨが誇らしげに舞い上がる。確かにヤスチヨは元魔界にいた者。ここらの事には詳しいであろうとエルが思うと早速目的の場まで歩き出す。
「確かクロノス先生が言ってた場所ってこの辺よね」
「どうなの?ヤスチヨ」
「そうですわね……もう少ししたら着くはずですわ」
クロノス先生が言っていた場所。それは最近活発になっているゴブリン達の住処の事を指していた。確かに当てずっぽうにゴブリンを探すよりはマシだろう。そうユラ達が思うと目的であるゴブリンの巣まで歩き続ける。
「ここですわ!」
待っていたのは何の変哲もない場所。更地とかしたその場所はとても巣とは言い難いものであった。
「本当にここであってるの?」
「間違いないですわ!この触覚もゴブリンの気配をピンピン感じていますもの」
ヤスチヨがそう話すと自慢の触覚を周りに見せる。その触覚だけでは何とも言えないユラ達であったが……一同その場で待ち続けると近くにあった草木が何やらガサゴソと音を立てた。
「……来たな」
エルがそう言うと一斉にゴブリン達が姿を見せる。数は少なくともユラ達の5倍。おそらくまだ大勢隠れているのだろう。そう思うとユラはゴブリンに向かってこう呼びかける。
「よう人間……何しに来やがった」
「最近魔界で大暴れしてるのは君達?」
「そうだが?」
「魔界の住民に迷惑がかかってるからやめてほしいの!」
「……やめるわけがねえだろうが!!」
「ユラ、話したって無駄だ!奴らは話を聞こうともしない!」
エルが早々とそう話すと早速攻撃態勢へと移る。ミオリオもゴブリンからの攻撃に受けの姿勢をとると一斉に魔法を唱えだした。
「冬の篝火」
「響け!《ラグリマ》」
散らばる魔力の粉と響き渡るギターの音。それはまるで粉雪の舞う会場のよう。どこかライブショーのような景色に思わず見とれるとユラも負けず劣らず応戦する。
「祝福ノ樹木!《アビエス・フェルマ》」
「ぐぎゃああああ」
「や、やめろ!!せっかくの巣が削れちまう!」
ユラが魔力で作った杖を大きく振りかざすとその反動で地形が変わり始める。一発目の攻撃にしてはちょっとやりすぎただろうか。とユラが思うとそんなユラ達に対しゴブリン達が憤りを見せる。
「だいたいお前ら人間達がやった事だろ!?」
「な、なんの事?」
「ユラ!そんな奴らの言葉を聞くな!」
「お前達人間がゲートで俺達を閉じ込めなければこんな事にはならなかったんだ!」
ゲート。魔界のゲートの事だろうか。ユラが不思議そうに思うとエルが気にするなと言うばかりに。先程まで喋っていたゴブリンを潔く退治する。
「ぐふぅっ!……ど、どっちにしろ暴れている奴らを止める事はできねえ……せいぜい頑張って退治するんだな……」
ゴブリンがそう言うと黒い霧となって消えていく。それはまるで呪い。そんな言葉を残し消えていくゴブリンに不安を抱くとユラ達はそれをかき消すように。辺りを一掃した。
「はあ、はあっ……こ、これで何とか退治できたわね」
「やっとだな……」
「……ヤスチヨどうしたの?」
「いえ……ただ魔獣としてはさっきの言葉が少し気がかりになってまして……気持ちが分かるというか……」
「気にしすぎよ!ちょっと後味悪いけど暴れてる彼等の言う事なんか聞いちゃダメよ」
「そうだ……あんな奴らどうせ人間界に出たところで暴れるに決まってる」
そうエル達が言うとヤスチヨはどこかしょんぼりとした態度でユラの肩に乗り羽を休める。確かに後味の悪い言葉だったが……これが何を意味するのかまだ分かってないユラ達はその場から離れ魔界のゲートまで歩いていった。
◇ ◆ ◇
一同が魔界から出るとそこにはクロノス先生が出迎えていた。
「あれ?珍しいですね、クロノス先生がわざわざ出迎えるなんて」
ユラが不思議そうにそう言うとクロノス先生の眉間にシワがよる。どうしたのだろうか。何か間違いでも犯したのだろうかとユラが考えているとポケットの中でピリリという刺激が伝わる。これはどうした事か。そう思いポケットの中を覗くとそこには術式にかかった小さなゴブリンの姿があった。
「な、なにこれ!?」
「やはりそうだったか……罠を張っておいて正解だった」
「クロノス先生これは一体……?」
「……どうせ人間界に入る為に小細工でもしたんだろう……人の世界でも暴れる為にな」
今までに見た事のないクロノス先生の表情。それに思わず戸惑うと固まっていた小さなゴブリンが先生に摘まれたままこう話す。
「はあ、はあっ、当たり前だ!……こうなったのも全部人間がゲートを開けないのが悪いんだ!」
「それはそちら側の契約違反だ、それをみすみす許す訳がなかろう!」
そう言うと睨みをきかせるクロノス先生。ユラ達がとても恐ろしい顔に思わずビクついていると先生はゴブリンに対しこんな事を言う。
「……そういえば術式の説明がまだだったな……これはお前だけでなくお前に関わった者……主に友人や両親をも蝕む魔法だ……もしその闇に囚われたくなければ……そのままゲートの中に入れ!そして二度と外に出る事のないよう仲間に忠告しておけ!いいな!」
「ひ、ひいいいいいいい!!」
もし掟を破る事があれば。その闇魔法は直ちに発動する事であろう。とクロノス先生が付け加えるとゴブリンは逃げるようにゲートの中に入り魔界へと帰っていく。
「……なんかすごいのを見ちゃったね」
ミオリオがそう言うとクロノス先生の顔がいつもの不器用な顔に戻っていく。全くミオリオときたら。空気が読めないんだからとユラが咎めるとクロノス先生が再びこちらを向きいつもどおりに話す。
「お前らもあまり油断しないように」
「「はい」」
クロノス先生がそう話すとユラ達は大きな声で返事をする。もし気がつかずそのままゴブリンを人間界に入れてたら……どうなっていた事だろう。そう不安そうに思うとミオリオ達が肩を叩きユラを励ます。
「まあ頑張ったよね私達」
ミオリオがそう言うと不安だった気持ちもどこか気が抜けて。ユラはホッと胸を撫で下ろす。今日は何事もなくてよかった。そう思うと1人安堵するユラだった。




