第119話 睡魔の再会
街路樹が秋色に染まる頃。ティグリスは本日来るであろうユラの姿を待ち構えた。
「……そろそろかな?」
急に現れる大きな魔力の気配に思わず振り向くティグリス。するとそこには待ち構えていたユラともう1人。水色の髪をした少女が現れていた。
「ご機嫌よう、ユラ……そっちの子は確か……」
ミオリオ。確かユラがそう呼んでいたなとティグリスが1人思うとミオリオが水色のアホ毛を動かしひょこっと挨拶をする。
「ご機嫌よう!……ティグリスさん……だっけ?……へえーここがバイト先かー」
全く困ったものだ。ユラときたら部外者を連れてくるなんて。そうティグリスは思った。だが妙だ。ユラがこんな簡単に部外者を連れてくるだろうか。そう思ったティグリスは困惑しながらもこっそりとこう問う。
「ちょっと失礼……ユラ、なんで連れてきたの?」
「……だってミオリオったらイケメンばかり知り合っててずるいって言う事聞かないんですもの……」
そうコソコソと呟くとユラは同じく困惑の表情を浮かべる。確かに元気ハツラツとした彼女を置いていくのには骨が折れそうだ。そうティグリスが思うとコソコソと話していた事に不思議と思ったのか。ミオリオがこちらに向かってこう話す。
「何をコソコソと話してるの?」
「い、いやなんでも……そうだ!」
ティグリスがそう言うとミオリオにあるものを見せる。それは小さなコインをぶら下げたひもで。ミオリオに見せるとティグリスはそれを揺らし始める。
「えっと……なんですかそれ?」
「ちょっとしたマジックだよ……これで眠たくなるマジックをしようと思って」
「へえー面白い!」
そう言うとミオリオにまじないをかけるティグリス。そうこれは正真正銘のマジック。タネも仕掛けもない。そうティグリスが思うとミオリオに揺れるコインを見せつける。すると効果バツグンか。先程まで元気だったミオリオがコクリコクリと船を泳がす。そして念押しに揺れるコインを近くで見せつけるとミオリオの意識は遠く彼方へと運ばれて行った。
「おっととと!」
「ちょっと!何してるんですか!?」
「何って……ちょっと眠らせただけだよ」
ついでに軽く記憶操作も行ったけどねとティグリスが言うとまたしてもムッとするユラ。記憶操作。一体何をしたのか。そう尋ねるとティグリスから思いもしない言葉がかけられる。
「いや、ここに来られたら君も困るだろう?だからちょっと僕達の顔の認識を変えたんだ」
「か、顔の認識ですか」
「そうそう……別に好き好んでこんな顔立ちしてる訳じゃないしね?」
確かにミオリオはイケメンだと言っていたが……そんな簡単に認識を変えて大丈夫なのだろうか。そうユラが思うとティグリスは何事もなかったかのように。腕の中でぐっすりと眠るミオリオを座らせる。
「まあ帰りは彼女をおぶるなりなんなりしてくれよ?流石に学園内まで付き合う事はできないからさ」
仕方ない。確かに彼は忙しいしクロノス先生との関係もある。だから付き合ってもらうのは難しいだろう。そう考えたユラは1人ガックリと項垂れると無言で本日分の魔力を提供する。そして軽く近況報告を済ませるとユラはミオリオをおぶりそのまま帰っていった。
◆ ◇ ◇
「ちょっと!起きて!起きてミオリオ!」
帰り道の最中。ユラはすっかり眠りについたミオリオを無理やり起こすと帰り際にこんな事を聞く。
「今日何したか覚えてる?」
「んう……えっ何?」
「だから何したか覚えてるかって聞いてるの!」
「……ああ!……ええっと確か優しそうなお兄さんにマジックを見せられてそのまま……」
そうそうとユラが頷くとミオリオはすっかり元気になったのか。おぶられた状態から解放されて1人で歩き出す。
「そっか!そのまま寝ちゃったんだ」
「そうだよーおぶるの大変だったんだからね」
「ごめんごめん!」
そう2人で言い合うとミオリオは学校への道へと駆け出す。それに対しユラも追うように駆けていくと2人は並行して歩き出した。
「そういえばイケメンさんいなかったね」
「へっ!?」
「だっていたのあの優しそうなお兄さんだけだったじゃん」
これはこれはひょっとしたら彼が言っていた記憶操作の魔法の効果の表れなのかとユラは思った。どうやら話を聞く限りイケメンと呼ばれる人物はティグリスとは違う別の人物という事になったらしい。
「うーんまあいっか!」
「え!なになに!なんの事?」
「いや、改めて今度一緒に彼のマジックショー見に行こうかって話!」
そう話すとミオリオに無理やり嘘ついて誤魔化すユラ。これにはユラも思わず戸惑うが、後々の事を考えるとその方が都合がいいと思うユラであった。




