第117話 悪夢の走馬灯
夢を見た。それはとても苦しく苦い夢だ。どんな夢かと言うと一言では表せない……そんな積み重ねのある辛い夢物語だった。
◆ ◇ ◇
1423年7月7日。小さな村である【シャルストン】である男の子が産まれる。名前はエルディンと名付けられた。そこでは農業が盛んで皆仲つつまじく過ごしていた。
そんなある日村では妙な奇病が流行り始める。エルディンは当時4歳。今年も誕生日を祝おうと両親達が何やら準備するとエルディンは幸せそうな顔をして微笑んだ。
「はーいエルディン、誕生日を祝おうね」
そう言うとカメラを鳴らし3人で家族写真を撮る。今日はエルディンの誕生日。まだ何も知らない家族達は幸せそうに笑った。
そして翌日。父親が今日も農業に励もうと外へ出かけると近くにいた母親が体調不良を訴える。
「今日あまり気分がすぐれなくて……お休みしてもいいかしら?」
「ああ、構わない……今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう……今日はおうちでゆっくり過ごそうねエルディン」
「わーい、母さん今日は何して遊ぶ?」
「今日はそうね……エルディンの大好きな絵本でも読みましょうか」
「やった!」
そうやって幸せなひとときを過ごすとコクリコクリとだんだん瞼が重くなるエルディン。ゆっくりと絵本を読み聞かせる声はまるで母親が歌う子守唄のようで。辺りが夕日に包まれた頃には既に睡魔に襲われぐっすりと眠っていた。
さらに翌日。今度は母親だけでなく父親の体調も良くない状態になっていた。
「く、苦しい……」
「だ、大丈夫あなた?はあっ……エルディン、今お前さんのご飯を用意してあげるわね」
そう言うとエルディンにご飯をつぐ母親。だがしかし身体が言う事を聞かないのか。思わぬ動作でご飯をこぼしてしまう。
「大丈夫?母さん、父さん?」
「へ、平気よ……安心して……?」
母親がそう言うと必死になってついだご飯を食べさせ満足そうに笑う。今思えばこれが最後の母親の笑みだったかもしれない。そうエルディンは思った。
そして翌日。とうとう家族の声が部屋から聞こえなくなる。1人残されたエルディンが何度も両親達を呼ぶがまるでビクともしない。どうしたのだろう。エルディンはその時点で異変を感じていた。村の様子も含めて最近様子が変だと。
エルディンが両親に触れるとそれはそれは冷たく固まっていて。いつもと違う感触に不思議に思うとエルディンはハッとなり勢いよく外へ出た。
「待っててね!今病気を治す薬持ってくるから」
そう言って外へ飛び出すと早速薬草集めに勤しむ。確かあの草は図鑑でも良いものだと書かれていた。試しにこれを飲ませたら元気が出るかもしれない。そうエルディンは思った。
「見て!薬草だよ!これ食べたら元気出るかもしれないよ」
エルディンがそう言うと薬草をそのまま父親の口に入れて食べさせようとする。だがやはり反応はない。思ったより苦かったのだろうか。エルディンがそう思うと父親に対しこう言う。
「もう!ちゃんと食べないとダメだよ!……そうだ!」
エルディンが再び思いついたかのようにそう言うと今度は村の元へと走っていく。そうだこういう時は先生に診てもらえばいいのだと。そう思いエルディンは1人駆けた。
「先生!……先生?」
おかしい。昨日まではちゃんといたはずなのに。そう思い医療室のそばで声をかけるとやはり誰もいないのか。反応すらしない。妙だな。そう思ったエルディンはひとまず医療室の中へ入る。するとそこでも床で寝ている先生の姿があった。
「先生!!起きてよ!!もう!」
何度も身体をゆすっても起きない先生に苛立つと今度はエルディンから腹の虫が鳴る。そういえば何も食べてなかった。そう思ったエルディンはひとまず医療室から出て何かを食べようとする。
「先生!またね」
そう別れを告げ先に進むと何を食べようか考えた。当の両親はあの状態だし何をすればいいのか分からない。そう思ったエルディンはひとまず自宅の庭に駆け回り腹の虫を収める方法を考える。
「そうだ!」
そう言うとエルディンはまず冷蔵庫を見る。すると中は空っぽの状態で。思わず失意の気持ちでいっぱいになる。次に考えたのは庭の畑。いつもは触れないよう言われているが今まさに緊急を要する。エルディンは外にあるクワで畑をつつくとそこには地面いっぱいに長細い野菜がたくさんあった。
「食べられるかな?」
エルディンがそう思い口にするとそれはそれは固く渋い味で。とても食べられそうにない。そう思ったエルディンはガッカリしながらそのまま森の中へと入っていった。
「森には木の実とかがいっぱいあるって父さんが言ってたし……大丈夫だよね?」
図鑑には食べられるキノコも書かれてるし大丈夫だろう。そう思ったエルディンがその辺にある木の実をところどころ口にすると口には甘酸っぱい味が残る。どうやら正解だったようだ。そのまま両親の分もとポケットの中にいっぱい詰め込むとエルディンはある実を見つける。それはこの辺では見た事ない青の綺麗な色に染まった果実で。思わぬ発見に思わず見とれるとエルディンはその果実を手に持ちこう話した。
「これ、食べられるかな?」
図鑑にもない不思議な果実に思わず引き寄せられるエルディン。そしてエルディンがその果実を口にすると身体が痺れるほどの甘さで。あまりの美味しさにそのまま気絶してしまう。
「ん……ここは?」
気づいた頃には辺りは真っ暗。もうこんな時間だ。そろそろ両親達にも食べさせないとお腹が空いて動けなくなってしまうだろう。そう考えたエルディンは一目散へと家へ帰っていく。帰ってからもそのままの両親達の姿に呆れつつも拾った実を口に入れて咀嚼させようと試みた。
「ほら、ちゃんと食べないとダメだよ!」
そう言って何度も両親に実を食べさせるが……まるでピクリともしないその姿に思わず寂しさを感じるエルディン。明日になったら元気になるといいな。そんな気持ちを込め口いっぱいに実を入れるとボタボタと床の方へとこぼれていった。
そうした事が続いた翌々日の朝。エルディンがまだ動かない父親の元へと行くと床下に妙な虫が湧いているのを発見する。
「おはよう父さん、母さん」
不思議に思ったエルディンがその虫を掴むと空腹のあまりなぜだか美味しそうに見えて。その虫をそのまま口に入れるとエルディンは頬張りながらこう言う。
「この虫美味しいね……」
◇ ◆ ◇
目が覚めたエルが勢いよく身体を起こすと激しい吐き気に襲われる。
「うっ……おえあっ」
そのまま洗面所に駆け込むとそこはエルの吐瀉物で溢れかえった。あまりにも衝撃的な夢。目覚めが悪くて頭がクラクラした。
「……はぁっはぁっ」
エルが顔をあげると鏡に自身の姿が映る。ここはどこだ。そうかここは学園だったなと1人納得するとエルは気分を入れ替える為に中庭の方へと向かった。
自販機で買ったジュースと食べ物を片手にベンチに座るとエルはとある人物に出会う。
「ユラ?」
こんな深夜に珍しいなとエルは思った。ユラにねむの木の枝を与えてから深夜はまるっきり姿を見せなくなったからだ。そんなユラの姿をぼーっと見ていると向こうで気づいたユラがこちらの方に来てこう言う。
「エル?こんな時間にどうしたの?……顔色が悪いみたいだけど……」
そう言うとどこか心配そうな顔をして見つめるユラ。そんなユラの姿に思わず心を打たれるとエルは別にとでも言うかのようにこう話す。
「いや、なんでもない……それよりユラこそどうしたんだ?こんな深夜に」
「私?私はただ夜更かししちゃったからそのまま外に出てきちゃっただけ」
そう話すとテヘとでも言うかのような姿勢でそのまま話すユラ。まあ確かにらしいといえばらしいが。とエルが1人納得するとユラが不思議そうな顔でこちらを見つめる。
「……それ学食?」
「そうだが?」
「美味しそうだね」
「一口食べるか?」
「えっいいの?」
「……冗談だ」
女は深夜に食べると太るからなと一言付け足すとケチと不貞腐れるユラ。確かに言葉が良くなかった。そうエルが思うとユラがなぜかクスクスと笑い始める。
「なんで笑ってるんだ?」
「……だって食べかすが顔周りに髭みたいについてるんだもんっ!」
「わ、笑うなよそんな事で……」
そう話すと食べかすを気にしてか。指で口周りを触るエル。その姿を見たユラがごめんごめんと謝りながら笑うとまたしても照れくさそうにするエルだった。




