第115話 無限の限界突破
大きな魔法陣が広がる大空の下。生徒達はクロノス先生達と共にモナのある場所へと行くと、そこには国の番犬であるティグリス達の姿があった。ティグリスの他にも国の番犬と呼ばれる人々や騎士の姿。中にはどこかの偉い人達が大勢集まっていた。
「やあ、皆さんご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
「今準備しているところだからその辺で休んでって」
ティグリスがシルクハットをとって挨拶すると生徒達は一斉に挨拶を返す。その姿に微笑ましさを感じつつも何とか準備を整えようと動くティグリス。すると生徒達からとある質問を投げかけられる。
「あの〜質問があるんですが……」
「どうかしたのかい?」
「魔力提供会って何すればいいんですか?」
「こら!そういうのは先生に質問しなさい!」
そう言うとクロノス先生は生徒に向かって物申す態度を示す。相変わらずの姿勢に思わずクスリと笑うとティグリスは生徒に向かって分かりやすく説明をし始めた。
「そうだね……まず地面に魔法陣を写し出すからそれを目印に皆で並んで立つ、すると本日の仕切り役マスタング隊長が詠唱するからその間に隣の人と手を繋いで目を瞑るんだ……そしたら魔力が上空の魔法陣に転送されて全てが完了するっていう流れかな」
クロノス先生の代わりに丁寧に質問すると生徒達はなるほどと納得する。自身も数年前まではあの立場だったなと1人考え込むとティグリスはその場から去り準備に取り組んだ。
「ねえねえさっきの質問の答えで思ったんだけど、もしかして上空の魔法陣に魔力を捧げる感じなの?」
「そのとおりだミオリオ」
ミオリオが質問すると横にいたクロノス先生がそう言い張る。上空にある魔法陣。なぜ魔力を注ぐ必要があるのか分からないミオリオ達はクロノス先生の出した答えにそっと耳を立てる。
「なぜ魔力提供する必要があるのか……それは魔法陣の魔力が尽きないようにする為だ……ここまでは分かるな?」
「はい先生!」
「なんだブライア」
「あの魔法陣って魔法を隠す為にあるんですよね?」
「そうだな」
「それならなぜ俺ら魔法使いには効果がないんですか?」
確かにそのとおりだとユラも思った。あれだけ大きな魔法陣。効果があってもおかしくないのになぜ魔法使い達には効かないのか。不思議に思ったユラ達は先生の返答に思わず聞き耳を立てる。
「あれはある程度魔力を持つ者には効かないものとなっている……だから私達魔法使いには効かない」
「誰かに発見されたりとかしないんですか?」
「魔力を持つ者……すなわち魔法を使える程の魔力を持った者じゃないとあの魔法陣は見えないから問題はない……というかこの辺は授業で習っただろうユラ?」
そう言うと前の授業で話したはずだと指摘されるユラ。物覚えの悪いユラは思わずテヘへと笑い返す。
「そろそろ準備が終わりそうだ……先生方、生徒達を連れてこちらに来てください!」
先程まで遠くにいたティグリスがそう言うといつもの授業風景もいつの間にか終わりを告げる。いよいよ魔力提供会の始まり。といってもやる事をいまいち掴んでいないユラ達は先生に連れられるまま行動にうつす。
「これからどうすれば……?」
「はい先生方、そのまま円を作るように列になってください!」
「了解だ……皆の者先生と同じように並んで列を作れ」
するとティグリスに言われたとおりその場で円を作るように並び始める先生や生徒達。そうそれでいい。ティグリスがそう思うとマスタング隊長の詠唱が始まる。そして指示どおり隣の人の手を握るとみるみる魔力は上空の魔法陣へと吸い込まれていった。
「先生……限界です……」
ぺぺがそう言うと魔力を吸い取られた生徒達が次々と脱落していく。ガジュマルやシャンディ、ルゼ達がその場に座り込むとあれだけ元気だった顔が真っ青になっていて。大事に思ったクロノス先生は生徒達を庇う。
「これ以上は無理だ!……早く具合の悪くなった生徒に手当てを!」
「……分かった、一旦中止といこうか」
クロノス先生が大声でそう話すとその姿を見たティグリスが一時中断を申し込む。あれだけ魔力を吸い取られたのだ。休んでもそう簡単には回復しないだろう。そう見たティグリスが一同に休止を申し込むと具合の悪くなった生徒達は救護班の元へと去っていった。
「大丈夫エル?」
「はあっ…………まだいける」
「うう……頭がクラクラするよお」
ユラの隣で手を繋いでいたエルに言葉をかけるとミオリオが体調不良を訴える。あれだけ温かかった2人の手だが……魔力の提供により徐々に冷たくなっていったのが分かった。心配になったユラは2人に対し言葉をかけるとユラ達はある騎士に声をかけられる。
「やれやれ……近頃の生徒は頼りないですなあ」
「……なんですかあなた!」
「いや?ただ魔力吸い取られたぐらいでこうも弱るとは情けないなと思いましてね」
「ちょっと!あなたいい加減に……」
「いや、いいよユラ……事実だし……」
一体なんなのだこの騎士は。ユラがそう思うと怒りを露わにする。友人達を貶したのだ。これには怒っても仕方ないだろう。そう思ったユラが騎士に向かい手を出そうとするとミオリオ達がユラを宥めようとした。
「そこまでだお前ら」
「クロノス先生!」
「ユラ、何をやっている……あまり感情的になるな……お前らも早く救護班の元へ行け」
喧嘩寸前のところをクロノス先生が止めるとユラは大人しく手を引く。騎士もそれに反応したのかニヤニヤと笑いながらその場を去っていった。
「なんなんですかあの人!」
「……あれはまあこの場に選ばれた最も魔力が多い騎士、ローランド氏だ」
「最も魔力が多い騎士?」
「ああ、大方魔力が多いからという理由で呼ばれたんだろう……さっき言われた事あまり気にするなよ?」
クロノス先生がそう言うとミオリオ達を連れて救護班の元へと向かう。クロノス先生はそう話すが……友人達を侮辱した態度にどうしても気に入らないユラは怒りを潜めたままその場に立ち尽くした。
「さてそろそろ再開といこうか」
ティグリスが再開の合図を告げると残った者同士で手を繋ぎその場で円を作る。先程よりは小さな円だがその円に沿って魔法陣が輝き出すとまたもやみるみるうちに魔力を吸い取っていった。
「ブライア、顔色が悪くないか?」
「いえ、まだやれます!」
「いや、あまり無理をするな……シルビィーはどうだ?」
「私もちょっと疲れました……」
「なんだ?また中断か?」
クロノス先生がブライア達を庇うとまたしてもあの騎士が挑発してきた。その光景を見たユラはまたもや苛立ちを隠せないでいた。
「まあまあ……そろそろ中断といこうか」
「くっ……私もそろそろ限界だ」
「なんだ今度は先生達も弱音をはいてるのか……ダッハハ!情けないねえ!」
「何よあいつ!あんな奴よりマートル先生の方が上品に笑えるわよ」
「ガハハ、そう言ってもらえると冥利に尽きるね……さて俺もあがりとするかな」
思いの外魔力の消耗が激しかったのか。クロノス先生達も限界を訴えると近くに来た騎士がまた偉そうに物を言う。その姿に流石に苛立ったのか。ミオリオが物申すとマートル先生がどこか宥めるようにその場を収めた。
「残っている者はいないかな?」
「ユラは大丈夫なのか?」
「私はまだ平気」
「俺もまだいけるぜぇー」
クロノス先生達がユラの心配をするとユラはまだやれる事を示す為にアピールをする。そんな姿に安心したのか。他の生徒達がどこか安心そうな顔で見つめると例の騎士がユラの元へとやってきた。
「残ったのはお前だけか……まあせいぜい楽しもうや」
ローランドがそう言うと騎士の手を無言で掴むユラ。ユラとしてはガツンと言ってやりたかったところだが……その場を収める為に無口でいると2人はマスタング隊長の指示を聞きながら円を作っていった。
「それでは参ろう……」
マスタング隊長の詠唱が始まると2人は再び目を瞑る。どっと流れる魔力の流れ。その流れに沿うように魔力を捧げると上空の魔法陣は輝きを取り戻す。
「そ、そろそろ限界だ……そこの君手を離してくれないか?」
しばらくしてようやく泣き言を言った騎士の言葉に反し、そのまま手を握りしめるユラ。すると騎士は観念したのか。もう許してくれとばかりに謝り始める。
「お、俺が悪かった!だからこの手を離してくれ!!」
「いえ、まだやれます!」
「分かった!!分かったからひとまず話を聞いてくれ!!」
「ユラ!!……もう十分だ」
騎士が謝り倒してから数分後。ティグリスの声にハッとなったユラによってようやく手が解放される騎士。その姿は実に惨めで。先程までの威勢はなんだったのか疑問に思う程だった。
「……これにて魔力提供会を終了とする……皆の衆お疲れ様」
「……もういいんですか?」
「ああ……ユラのおかげでだいぶタピオラの魔法が潤ったよ」
タピオラ。先生も言っていたがあの魔法陣の事だろう。そう考えながら生徒の元へと向かうとユラは例の騎士からちょっかいをかけられる。
「お前!……ようやく分かったぞ!……お前噂の花……」
「はいはーい、そこまでね……あまりユラを虐めないでほしいな?」
「だ、だが俺は知ってるんだぞ!その正体……」
「余計な事は言わなくていいの!……あまり言うと記憶操作しちゃうから」
「うわあああああああああ」
「まあした後だけどね」
「あれ?ここは一体?」
またしても挑発か。とユラが思うとティグリスが何やらコソコソし始める。そんな姿を見て何をしているのか検討もつかないユラはその場で立ち尽くす。まあいいか。ユラは何となく思った。
「まあそういう事だから解散ね」
ティグリスがそう言うと一同は何事もなかったかのようにばらけ始める。ティグリスがそう言うならとユラ達が思うと生徒達は先生と共にその場から去っていった。




