第113話 眼鏡のアンチノミー
「やはりどうしても参加させなければダメなのか……?」
「ええ、そうするよう校長も言っておられます」
職員室でクロノス先生が話すと返ってきたのは冷たい一言だった。そう来週は魔力提供会。なんとしてでも子供達を巻き込まない為に幾度も抗議を行ったのだが、国の者は首を縦に振らず、今もこうして佇んでいる。
「クロノス先生……そろそろ覚悟をお決めになられては?気持ちは分かるのですが……」
「いや、まだ……まだ方法はあるはずだ……」
クロノス先生がそう言うと教師としてまだまだ力不足だと項垂れる。そんなことはないと思うのだか……項垂れたクロノス先生を見るとなんとも言えない気持ちになりその場で立ち尽くす他の先生達。
「今年は生徒まで巻き込むなんて……異例の事態ですな」
「こんな事今までなかったのに……」
近くにいたマートル先生とサルビア先生がそう言うとやや暗い顔になる先生達。それはそうだ。以前までは生徒を巻き込むなんて事はなかった魔力提供会。ただ魔力を提供するだけならいいのだが……その提供する魔力量の多さに問題があった。この魔力提供会。下手をすると命に関わるかもしれないのだ。その現場を知っている先生達はみすみすと生徒を渡したりはしないだろう。
「この魔力提供会……どうしても生徒の力が必要なのか……?」
「人手不足なんじゃろう……なんにせよ生徒に伝えねばならん……」
それはそうですがとクロノス先生が話すと気持ちは分かるが……と内心共感する教頭先生。こうなったら意地でも阻止してやるとクロノス先生が意気込むとクロノス先生はその場を後にした。
「大丈夫かしらクロノス先生」
「難しい問題ですねえ」
基本国の言う事には逆らえませんしとフランベル先生が言うと隣で静かに頷くサルビア先生。きっとクロノス先生の事だ。最後まで諦めないのだろう。そう先生達が思うと再び自分の責務を果たす為各々動き出す先生方。その姿勢はどこか暗いもので。重くのしかかった問題に一同悩まされた。
◆ ◇ ◇
各自違った動きを見せる人混みの中ティグリスは動き出す。ここは本部。各々の労働姿を見送るとティグリスはある人物に声をかけた。
「やあ、ご機嫌よう!チグリア」
「あっすみませんすみません!……おはようございますっ!」
オドオドとした姿が特徴的な人物はチグリアという名を持つ男だった。チグリアが人にぶつかる度にペコリペコリと頭を下げ謝り倒す。
「久しぶりだね!元気にしてたかい?」
「あっ……はい……今日は何用ですか?」
「いやね?例の件どうなったかなと思って……」
「例の件というと……?」
「魔力提供会の事だよ」
「あっすみません……それの事でしたかっ!」
魔力提供会。学校の連中はどうやら生徒を守る為にギリギリまで宣告せず抗議しているようだが……果たしてどうなった事やら。とティグリスが思いながら質問するとチグリアはまたしてもオドオドした態度でこう話す。
「そ、それがまだ先生達が納得してないようで……す、すみません!」
やはりそうかとティグリスは思った。学校の事は他の隊員に任せているものの……こうも話が進まないと悩みものだ。そう考えながら帽子を被り直すとティグリスはチグリアに対しこう話しだす。
「やっぱりか……チグリア、どうにかならない?頼むよ~来週の事なんだからさあ~」
「そうは言われましても、困りますっ!」
そう話すとすみませんと謝りながらその場を収めようとするチグリア。するとその反動で。チグリアがかけていた眼鏡がポトリと地面に落ちる。
「……すみませんじゃねえ!!!そこまで言うなら言い出しっぺの自分が行ってこいや!!!」
「相変わらずの気性だねえ」
そうこのチグリアという男。眼鏡を外すと本来の人格に戻り気性が荒くなるのだ。
「そんなに気になるならてめえで行ってこい!!分かったら返事は??」
「ま、待ってよ〜学校の事は僕の管轄外なんだしさ~そちらでどうにかしてよ」
チグリアの人格が変わっても飄々とした態度で話すティグリス。確かに言い出しっぺはこちらなのだが……こちらも予定が詰まって手一杯なのだ。その事を主張するとチグリアは変わらぬ態度でこう話す。
「そうしてやりたいのはやまやまなんだが……こっちも学校側の抗議文をどう返そうかで悩んでるところだ」
「だからってこっちに押し付けなくても……」
「管轄外といってもあの近辺はお前の管轄だろ?だから命令違反にはならないしその方が早い」
ある程度お前の仕事どうにかしてやるから行ってこいと言うと再び眼鏡をかけようとするチグリア。そんなチグリアの様子を見てティグリスはちょっとしたちょっかいをかける。
「その眼鏡、やっぱり似合ってないんじゃない?」
「あん?失礼なやつだな……この眼鏡があるからこそ秘密が守られるんだろうが」
情報処理部隊隊長であるチグリアはこの眼鏡で普段扱っている国の機密情報を隠している。その事は分かってはいるものの主人格を大層気に入っているティグリスはチグリアに対しこう告げる。
「やっぱり眼鏡合わないんじゃないかな?」
「へっ?やっぱりそうでしょうか……」
「あららもう眼鏡かけちゃったのか」
再び眼鏡をかけるとまたもや弱腰になるチグリア。ティグリスとしては非常に残念ではあるがこれも彼が全うする責務の1つ。と1人納得するとティグリスはチグリアに言葉をかけ再び歩き出す。
「僕は好きだけどね、君の眼鏡をかけてない姿」
「そ、そうなんですか……すみませんこんな感じで」
「それじゃあ行ってくるよ」
チグリアにそう別れの言葉を告げると、チグリアは1人ペコリとお辞儀をした。全く慣れない姿だ。あれはあれでいいとは思うがとティグリスが納得するとそのまま本部を出た。




