第112話 パン屋での攻防
ユラがテント裏を後にすると早速ユラはある場所に向かい歩き始める。辺りは既にオレンジに満ちた街の姿に変わっていて。新しい秋の季節に心躍らせるとユラはスキップしながら歩き出した。
「ふんふーん、パンの匂い~」
そう今日はカンパニューラ。トリスティス達が営業する店に顔を出す日と決めていたのだ。そう、ユラが嬉しそうにしているのもこの為。ユラが久々に会うトリスティス達との再会に胸を踊らせると、街は一気に涼しくなる。
「あっ、あったあった!……あそこだ」
ユラがしばらく歩き進めるとそこにはカンパニューラと書かれた看板と小さな店の姿が見えた。久々の再会だ。そう思いながらパンの匂いに誘われるように店の中へと入っていくとそこにはなぜかエルの姿があった。
「ただいま~……エル!?なんでここに」
積まれたパンの数々。エルの手元で山積みになったパンはおそらくエルが1人で食べる為に購入するものだとユラは見た。
「……あら?ユラちゃん!帰ってきてたのね!」
「ただいま戻りました!トリスティスさん、ジオラスさん!」
「おかえりなさい」
ちょっとしたハプニングにも気にも止めず。驚くユラをよそに温かく出迎えるトリスティス達。なぜエルがここにいるのか。疑問ではあったがそんなトリスティス達の姿を見て一瞬どうでも良くなっていた。
「学校では元気に過ごせてる?」
「はい、なんとか!」
「それは良かった……ユラちゃんなかなか会いに来てくれないから心配してたのよ?」
そう言うとユラの手をそっと重ね優しく包むトリスティス。その態度になんだか照れくささを感じるユラ。するとその姿を気まずそうに見ているエルから声をかけられた。
「……よぉ」
「あ、エル……ごきげんよう!」
恥ずかしい場面を見せつけてしまった。ユラはそう思った。そのエルの視線に思わずトリスティスの手を離すと不思議そうにしていたトリスティスがユラに対しこう問いかけた。
「2人とももしかしてお知り合い?」
「あっはい!……エルとはクラスメイトで……」
「あらそうだったの!」
不思議な縁もあるもんねえとトリスティスが言うとエルとユラはお互いを見返す。そういえば街中で会うのは初めてだ。ユラがそう思うとトリスティスがユラに対しこう語り出す。
「彼……ここの常連なの!最近知り合ったんだけどね……最初見つけた時空腹で倒れそうになってたからここを勧めたのよ」
「や、やめてください!」
そうトリスティスが言うと恥ずかしそうにするエル。確かにエルは大食らいだがまさかこの店に現れるとは。そう思ったユラだったが話を聞いて何となく納得する。
「他の店でもよかったんだけど店のもん食いすぎて出禁にされちまったんだよ」
「ああ、なるほど……」
エルがそう話すとユラはやっぱりかと頷く。ミオリオがこの場にいたら……さぞかしバカにするに違いない。ユラは普段の直感でそう思った。
「食いっぷりがいいから主人も気に入っちゃって……それで今日もここで買ってもらってるって訳!」
「そうなんですね」
「エル君だっけ?いつも買ってくれてありがとうね」
「い、いえ!」
「これからもいつ来てもいいのよ!……なんならユラちゃんの婿養子になってくれたら嬉しいんだけど」
「「む、婿養子!?」」
サラッととんでもない事を聞いた気がする。そうユラは思った。あのトリスティスからまさかそんな言葉が出るとは。そう予想だにしない言葉に思わず目を見開くとトリスティスは2人を茶化すようにこう話す。
「冗談よ!……でも婿養子になったらいつでもここのパンが食べられるわよ?」
「もう!トリスティスさん!」
「こらこらトリスティス」
「ごめんなさい!2人があまりにも可愛いからつい!」
ユラがトリスティスの言葉に少々きつく怒るとジオラスが宥めるようにその場を収める。全く困ったものだ。そうユラが思うと2人は逃げるようにその場を後にした。
「ご、ごめんね?変な事聞かせちゃって」
「いや、いい」
エルと共にその場を去ると辺りは既に日が沈み真っ暗。街の照明から逃げるように歩き進めるとエルと一緒の道を渡り帰っていく。
「……なってみてえもんだなその婿養子とやらに」
「……なんか言った?」
「いやなんでも」
エルがポツリとそう言うとユラはその言葉を聞き返そうとする。だがエルにとってはなんでもない一言だったみたいで。ユラに対し別にと呟くと歩くスピードを変え先へと進むエル。その姿がなぜか無理しているように感じて。ユラはそんなエルを庇うように後へとついて行った。




