第101話 ゴールテープと共に
「さてさて!最終地点である森のコースに最初に現れたのは……エル選手だ!」
実況席が盛り上がるとエルはそれに答えるかのように、先程まで乗っていた板を消滅させそのまま走り去る。
「おっと!ここで現れたのはブライア選手!」
「この最終コースは平坦な道に見えて罠がいっぱい仕掛けられているからなあ……どうなるか見ものだな、ガハハ!」
そうこの最終コース。一見ただの道に見えるがそこには見えない罠がそこらじゅうに敷き詰められていた。
「うわっ!!!」
「おーっと!ブライア選手!早くも転倒か!?」
ブライアがとある小石に足を引っ掛けると小石は小さく爆発した。その反動か。ブライアはその場で体勢が崩れ、一瞬転びそうになる。
「いや、どうやら持ち直したようだ」
だがここで転ぶブライアなどいなかった。ブライアは体勢を崩したが、瞬時に足で踏ん張り体勢を持ち返す。
「どうやら転ぶ事はなかった模様!これもエイジュ家の意地か!?」
そう言うヤスチヨの右側の遠い席にはブライアの母親と父親が座っていた。おそらくこれを見られている事を知っているのだろう。最後の意地で体勢を整えたのだと思われた。
「ったく!今度は罠探しかよちくしょう!!」
そこらじゅうに罠がある事をようやく知ったブライアは、目先にある小さな小石に当たらないよう走行し的を当て始める。かくいうエルも小石に当たらないよう駆け巡り、的を当てまくっていた。
「そうこうしてるうちに続々と生徒達が森のコースへと入っていく!」
蔦のコースを抜け順にルゼ、ガジュマル、ぺぺ、シャンディが走り去る。その後ろには当然光を纏ったユラもいた。
「パートナーであるユラには頑張って頂きたいところですが解説役のマートル先生、どう思われますの?」
「うーん、そうだなあ……ここのトラップをどこまで避けられるかが鍵だな!ガハハ!」
まだこの森のコースに罠がそこらじゅうにある事を知らないユラ達は、臆する事なく走ろうとする。すると……やはりなのか。罠に引っ掛かりスピードダウンする生徒が続々と現れた。
「あーっと!ここでトラップに引っ掛かる生徒達が続々と現れた模様!」
「やはりそうなるか……ガハハ!頑張れよ!」
やはりトラップのせいか。次々と罠に引っ掛かり警戒する生徒達。そのせいで走るのが得意なシャンディでさえも罠に怯え、走る事がままならなくなっていた。
「もうやだ〜ここ!!」
複数のトラップに引っ掛かりながらも走行する生徒達。そんな中、嫌気がさしたシャンディの声が響き渡る。
「今年は脱落者がいなさそうで良かったですね」
「そうね〜でもまだ分からないわよ?」
そんな中実況席ではフランベル先生とプリムラ先生が呑気に話しながら実況を楽しんでいた。去年の事はよく分からないヤスチヨだったが、優雅に実況を楽しんでいるところを見て思わず歓喜の舞を送る。
「では、現在の順位を発表しましょう!1位はエル選手、2位は同等に走るブライア選手!そして3位は……な、なんと我がパートナー、ユラ選手だー!!」
エルとブライアの後ろには先程まで最下位だったユラが勢いよく走っていくのが分かった。ユラは臆する事なく走り去るが……ここはトラップだらけの魔のコース。妙な感覚に引き摺られながらも実況していくとヤスチヨはある事を発見する。
「な、なんとユラ選手!トラップに巻き込まれながらも躊躇う事なく走っていくではないか!!」
「ありゃすげえな……完全な力技じゃないか!ガハハ」
次々と襲うトラップに引っ掛かりながらも猛スピードで駆けるユラ。これには観客も大盛り上がり。それはそうだ。まさかあの魔のエリアを力技でいとも容易く駆けるとは思いもしなかったのだから。
「ちくしょう!俺だって!……うわあっ!!!」
ブライアが後ろをチラリと見るとそのせいか。それが隙となり思わず大きな罠に引っ掛かってしまう。
「ブライア選手!ここでまさかの転倒!!一方でユラ選手がここぞというばかりに一気に這い上がる!」
ブライアが大きな落とし穴に引っ掛かるとその隙にユラが猛スピードで駆け抜けていった。その姿はまさに輝く流星。瞬足と化したユラが勢いよく走ると、とうとうゴール地点が見えてきた。
「果たしてこの勝負、一体どちらが勝利するのか!?必見ですわ!」
ヤスチヨが言うとエルを追い越そうとするユラの姿が映る。両者必死の形相で。実況席には緊張が走る。
「……負けられない!」
大きく息切れしながらユラが走ると、同様にエルの呼吸音が聞こえてきた。この勝負。絶対に負けは許されない。そう思いながらユラが走るとエルも負けじと前へと進み出す。
「そうこうしてる間にゴール地点です!果たして1位はどちらになるでしょうか!」
かする汗。ゴールテープに手を伸ばすとピッピー!と笛の音が鳴る。最後の最後で一歩足りなかった気がする。そう思ったユラが下を向くと、クロノス先生がしばし待てと言うかのように手を出しこう言う。
「判定中だ、両者共々頑張っていたからな」
クロノス先生から出た判定中の言葉。そうか。同着だったからとユラが考えているとエルの横顔から汗がポタポタ流れるのが見えた。
「同着でしたので少々お待ちくださいまし……えー判定の結果……な、なんと!1位に輝いたのはエル選手だそうです!」
残念、負けてしまった。あと一歩だったのになとユラが項垂れるとエルがユラに向けて握手を求める。
「……いい勝負だったな」
そうエルが言うと握手をしながらニコリと笑みを返すユラ。あと一歩のところだったがいい勝負ができて良かった。そうユラは思った。
「そしてこれまでに当てた的の点数を発表するようです!」
「的は1つ当てる度に100ポイント増えるんだったか?ガハハ」
そういえば的当ての結果発表がまだだったな。とユラが思うとゴール地点の右側に大きな得点板が出現した。突然現れたそれはクロノス先生が事前に魔法で準備していたもののようだった。
「それでは結果発表!……とその前に先程まで罠に引っ掛かっていたブライア選手もようやくゴールしたようですの!」
そうヤスチヨが言うと先程までもたついていたブライアがゴール地点へと到着する。盛り上がりにはかけたがヤスチヨの右側の遠い席で座っていた両親達はニッコリと拍手していた。
「ちくしょう!あと一歩だったっていうのに!」
ブライアが1人そう叫ぶと静まり返っていた辺りに響き渡る。本当にあとわすがな距離だったのだが……相当悔しかったのだろう。ブライアはその場で座り込み1人嘆いていた。
「それでは今度こそ的当ての結果発表!華麗なる的当てで勝利したのは誰か!?散らばった的をより多く当てた1位は……な、なんと16800ポイントを獲得したユラ選手だー!!」
なんという事だろう。思いもしない結果に思わず目を見開くユラ。これには内心ガッツポーズをいれてしまう。
「……やった!!!」
先程までの落胆はどこへやら。思ってもみなかった結果に思わずニヤリと笑うと、エルがどこか嬉しそうに笑い返す。
「そして2位はエル選手!16700ポイントと1位に僅かに届かず!果たしてこの結果のまま終わるのでしょうか!?」
「いやあまだ結果はわからんぞ?なんせまだゴールしてない生徒が数人残っているからなあ……ガハハ」
そう、まだゴール地点まで来ていない生徒が複数人残っているのだ。なかなかに高いポイント数ではあるが……ひょっとすると覆される事だって有り得る。そうユラが思うといつも以上に顔を引き締め結果を待つ。
「おっと!ここでゴールしたのはまさかのシャンディ選手だ!」
「なかなかすごい回避方法だったな!まさかあそこでスピードアップの魔法をかけるとは……ガハハ!」
シャンディがゴールすると彼女を追うように次々とゴール地点へと到着する生徒が現れる。ルゼ、シルビィー、ミオリオ、ガジュマル、ぺぺと順に到着すると試合終了の笛が再び大きく鳴り出した。
「えー最終結果はご覧の通りです」
「皆ご苦労だったな!ガハハ!」
最終的にユラとエルの順位は覆される事なく事なきを得た。ただ途中3位だったブライアがミオリオに抜かされ4位へと移行した際には非常に驚いたが。
「ちくしょう!!なんでこいつに抜かされんだよ!」
「あんたが罠に引っ掛かってる間に点を稼いだのよ!」
「走るの遅かったじゃねえか!!」
なんにせよ結果は結果だ。そうクロノス先生が宥めるとブライアは次は負けねえぞと言うばかりにそっぽを向きその場から離れる。
(ひとまず優勝へと近づけた!)
ユラが1人思うと心の底でニヤリと笑う。次の種目も負けられない。そう思いながら上を見上げると大きく風が吹き始める。心地よい風だ。そう思ったユラはなんだか安心して。次の種目も何とかやれそうな気持ちになった。




