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第81話 人殺しの夢
時間にして一晩。それくらい濃密だったように思う。
嫌な夢を見た。血生臭くて酷い夢。
——人を殺す夢。
右手には感触が残る。汗でシャツが冷たい。
(誰かを、殺した——)
FPSやサスペンスホラーも好まない皇にとって、考えるだけでも恐ろしい。
思わず自分の心臓の鼓動を確認する。
自分は生きていて。誰かが死んで。それは自分が殺したからで。でもそれは夢で。それは——今にして思えば、何ということはない。夢だったのだから。
だけど、不思議な感覚だった。夢の中の自分はとても、とても怒っていて。
世界を敵に回してもいいくらいには怒っていた。
でも、その怒りももはや抜け殻だ。かろうじて外殻だけが記憶としてぼんやり残っているような。それだけの感情に成り果てている。
何にそんなに怒っていたのか。まったく気にならないと言えば嘘になるが、夢の中の苛立ちにいつまでも囚われていたくはない。
皇は気分転換とばかりにカーテンを開けて朝陽を浴び、真新しいランニングウェアに袖を通す。玄関でスニーカーの靴紐をしっかりと結ぶ。
「————ふぅ」
一度、瞼を閉じて深呼吸してから。
何かを吹っ切るように脇目も振らず、少年は明け方の街を走り抜けていく。




