第76話 ボーイ・ミーツ・ガール
仄暗い路地だった。天気のせいもある。時間帯のせいもある。——いや、実際それらが要因でしかないのだが、そんなのは後付けだとばかりに事実として薄暗く、その現実だけが無遠慮に空間を塗り潰している。
この道も行き止まり。隣接するマンションに何かしら用のある人にしか使われず、現時点での人通りはない。なかったのだが——
「————————」
絶句。一人の少女が現れ、そして絶句した。この場におよそ似つかわしくない、可憐な風貌の少女だった。
彼女が見たのは、探していた人物の後ろ姿と、路上に横たわっている誰か——
ドクン、と少女の心臓が脈打った。
手からはするりと傘が落ちる。
「————皇くん!!」
少女の呼ぶ声に。
少しの間を置いて、ゆっくりと少年は振り返った。
◇
ああ、来てしまったか。
巴の声で名を呼ばれ、皇が最初に思ったのはそれだった。
(先輩、よくここまで——)
大好きな少女の姿が麻酔のように作用して、一瞬、ほんの一瞬だけ決意が揺らぐ。それでも冷静でいられたのは、最悪の事態として想定していたから。
(——いや、違う。本当に最悪なのは白尾を殺せないことだ)
だから、まだ大丈夫。皇は気を取り直して巴を追い払いにかかる。
「先輩、5秒だけあっち行ってて。それか30分」
「けっこう差が……じゃない! 皇くん、何やってるの……!?」
「それ聞いたらあっち行ってくれます?」
「答え次第だよ!」
まずいな、と皇は思う。巴に殺しの現場を見られたくなかったが、あまり時間を使うと他にも人が来かねない。
(——それなら。自分の身体で白尾の首元を隠しながらやれば——
先輩からは死角になる。血は見えちゃうかもしれないけど……)
腹は決まった。皇は手早くカバンからサバイバルナイフを取り出すと、急所となる白尾の頚動脈を確認し——
悪を粛清する凶器の柄を、握り締めた。




