第73話 制服は語る
いくつかの質問と返答により、花音が高校で会ったのは皇本人で間違いないと巴は確信した。さらに情報によると、皇は正面玄関付近にいて、時間を潰しているようだったという。まるで誰かを待っているような——。
(——いやいや、そんな)
——言いましたよね? 先輩に何かあったら、何するか分からないって。
(………ああ、やばいかも)
何をする気かまでは分からないけれど、いったん止めないと。巴は皇に電話をかけるが、応答できない旨のメッセージが虚しく流れるだけ。やっぱり行くしかない。急いで制服に着替え、洗面所に向かう。髪を雑に梳かし、おさげにして多少のぼさぼさはカバー。寝坊した時を上回るかのスピードで身支度を整え、自己最速となる新たなレコードタイムを打ち立てた。
勢いのままに家を出て、駅への道を急ぐ。外は小雨が降っていた。こんな時に最悪だ。
高校までの所要時間は徒歩10分+電車10分+徒歩10分=計30分ほど。急いでも午後5時を優に越えてしまう。
(間に合って————)
巴は懸命に祈りながら通学路を進み、駅で電車を待っている。1分1秒がもどかしい。やっと電車に乗れたと思ったら、今度は走行速度さえ緩慢に思えた。
高校の最寄駅に着いてドアが開くや否や、ホームに降りて改札階に向かう。トップ集団に混じりタッチ&ゴーで改札を突破する——その直前。
駅のゴミ箱からはみ出ているものが気になった。
直感で察する。あれは制服ではないか——? お行儀が悪いのを承知でゴミ箱から引っ張り出す。真新しいが、雨に濡れた形跡があった。
(名前は——名前の刺繍は——)
裏地を探る。あった。
(二宮! 皇くんの——!?)
その場で巴は固まってしまう。花音が学校で声をかけた皇は制服を着ていたというから、その後、駅で制服を捨てたことになる。
皇本人が捨てた? 何者かが捨てた? 別人の? 駅で制服捨てる人いる?
——ここは全部の可能性を考えていてもしょうがない。何も断定できることはない。可能性が低い選択肢を切り捨て、最後は女の勘で勝負するしかない。
まず、この制服は皇本人が捨てたものとする。先ほどまで着ていたものを第三者が受け取るか奪うかしてここに捨てるより、皇自身が捨てた可能性のほうが高そう。捨てた理由は——濡れたから? 用済みになった? まあよく分からないが、ここで本人が捨てたのなら、もう高校にはいない可能性が高く、これから巴が向かっても意味がない。
——単に帰ったのかもしれない。そんな希望的観測が浮かぶ。皇は結局何もせずに家に帰り、巴が空回りしているだけ——それならいい。だけど、皇は電話に出なかった。あれから何度かかけているが、電源が入っていないか圏外で、繋がる気配はない。
皇の身に何かあったか、意図的に遮断しているか——この択については後者に分がある。行動を起こし、主導権を握っているのは皇だから。それに、皇が被害者だったら制服があんな目立つ場所に捨てられるのは変な気がする。正直、願望も少しあるけど。
(よし、それなら——)
巴は足早に駅の階段を降り、駅前のロータリーに出た。
目的地は決まった。タクシー乗り場で客待ちをしている1台を拾う。
「お嬢さん、どちらまで?」
年配の運転手がしわがれ声で尋ねる。
「西武立川駅まで、お願いします」
巴は迷いのない声ではっきりと告げた。




