第71話 復讐の刻は来た
左フック。それはボクシングで多くの一発KOを奪っている死神の鎌。意図しない角度——死角からの攻撃により、瞬時の防衛本能さえ無効化してダメージを与える。
頭部への打撃は脳を揺らし、脳震盪を引き起こす。意識は朦朧とし、肉体への命令系統は阻害され、たとえ戦意を取り戻せたとしても身体が言うことを聞かなくなる。
懐深くから放たれるアッパーも強力だが、レンジの都合で狙える機会を得にくい。したがって、皇は左フックに賭けていた。
結果は失神。狙い通りに顎を捉えたとはいえ、出来すぎだ。ボクシングの経験があってよかったと皇は思った。ただ、さすがに拳は痛い。
ここまでの移動中、背後から刺してしまおうかと何度も考えた。だけど、しなかった。距離を詰める際に気づかれるリスクがあったから。
確実に殺すためには油断させる必要がある。だからこそ。現金で釣って左フック。計画の第一段階は突破した。
——あとは頸動脈を切るだけだ。それでこの男は死ぬ。人通りは少なそうな路地だが、いつ人が来るとも限らない。何も知らない第三者に見られたら、皇が凶悪犯だと思われるだろう。
いや、思われるだけならまだいい。傍観者なら構わない。だけど、もし止めに入られたらまずい。
速やかにとどめを刺す。それが今の自分に与えられた唯一の機能だ。この世に生きていてはいけない人間を殺す。巴のため。世界のため。そんな大義名分は免罪符に過ぎないと分かっている。そう。これは皇自身のために。
二宮皇は今こそ、復讐を遂げる。




