表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/82

第59話 闇夜月夜/不倶戴天

 昔から、月を見るのが好きだった。自室から窓の外を眺めると、もちろん季節や時間帯にも左右されるが、見たい時に見えることが多かったから。


 それは言ってしまえば印象であり、実際のところは分からない。自分がそう感じていただけかもしれない。だけど、月を見ているとそれだけで心が安らいだ。そして同時に、無性に切なくなって郷愁を覚えることもある。これは不思議な気持ちだったが、好きな感覚だった。


 星々を従えて威容を誇っている時も、雲の谷間から薄明かりを零しているだけの時も、私は等しく月を見ていた。


 すごく幸せな気分の日も。辛く苦しいことがあった日も。


 ——そうして今夜も、三船巴は月を見ている。


    ◇


 これからどれだけの絶望を重ねれば、あの人に届くのだろう。そんなことを考えてしまう。誰もが羨む顔立ちと。沈んでいる時に手を差し伸べてくれる優しさと。友人を想いやる気概を持ち併せた人だった。


 誰より美しく、誰より眩しく、誰より好きな——その顔が、しかし苦渋に苛まれていた。憔悴しきった泣き顔。精巧に作られた笑顔。悲しみの感情すら失った貌。


 ————いいのか、それで?

 ————許されるのか? そんなことが。


 自問自答に意味はない。答えは分かりきっている。

(——許されるわけないだろう!!)

 巴の家からの帰路、皇は行き場のない怒りを抱えながら歩く。

 ——行き場のない?

 いや、行き場はある。許すわけにはいかない奴がいる。握った拳が震える。ああ、そうだ。許せない。殺さなければすまないくらいに。


 どうして三船先輩を傷付ける。なぜ先輩が心を殺されなければならない。白尾は笑っていた。なぜだ。おかしいだろう。絶対に間違っている……!


 静かに怒りが渦を巻いていく。心がたった一つの感情に支配される。


 煮えたぎるような怒りだ。


 ——殺そう。もう決めた。殺すしかない。あいつは生きてちゃいけない。


 人殺しになったら先輩の彼氏ではいられなくなる。バレないような手段を考えてもいいが、それは多分難しい。何より先輩に嘘はつきたくない。だけど、大丈夫だ。


 ——私なんかやめといたほうがいいよ。


 そう、先輩は言った。拒絶の言葉。涙が出そうになるが、こらえた。でもこたえた。

 ——別れましょう先輩。おれの方こそ、先輩に相応しくなかった。だって、これから人を殺すから。


 それが誰に望まれないことだもしても。誤った思考なのだとしても。他の誰でもない、誰よりも自分がそうせずにはいられないから——。


 三船先輩。短い間でしたが、今までありがとうございます。楽しかったです。最高に幸せでした。


 ——思い出に封をして、静かに感謝と別れを告げた。そうして皇は前を向く。いや、もとより前しか見ていない。

(——おれは、あいつを殺してきます)

 このままじゃ、誰も裁けない。だから。

(——だから、おれがやるんだ)

 駅前の雑踏の中、誰でもない、自分自身にそう誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ