第57話 夜は短し恋せよ乙女
最初はピンと来なかった。だけど、気付いたら好きになっていた——なんて話がある。でも、彼は違った。一目見て、それから目が合った瞬間。直感が、本能が教えてくれた。
運命の出会いを逃すものかとばかりに、碧の行動は迅速で、大胆で、打算的だった。
「それ、おいしいですかー?」
コンビニの駐車場で早速声をかける。彼は買ったばかりのペットボトルに口を付けており、ひとまず警戒されないように軽薄な女子を装って近づいた。とりあえず遊んでもらわないと話にならない。イメージは後から挽回できる。彼の好きなタイプが分かってから、それに寄せていけばいい。
「……これ? 飲んだことない?」
彼は若干不思議そうな顔をしていた。それもそのはず。彼が飲んでいたのは割とメジャーな炭酸飲料だった。まあでもそんなことはどうでもいい。校長や来賓の長話くらいどうでもいい。今は彼に取り入りたい。ちょっとでも気になってほしい。それだけなんだから。
碧は笑顔を崩さず、距離を詰めていく。
◇
「ねえ。ちょっとだけ——」
眠たげな声音。ハスキーとも言えるかもしれない。
「一口だけちょうだいって言ったらくれる?」
そう尋ねられ、ずいぶん積極的な子だなと八神は思った。大人しそうな顔とはギャップがある。早くも暑くなってきた気温に従順な極薄のキャミソール姿。同年代だろうが、それほど遊んでいそうなタイプには見えないが——。
ただ、好意を隠そうともせずぶつけてくる。自分に気があるのだということはすぐに気付いた。顔立ちが整っていて表向き人当たりのいい八神は好意を向けられることが多く、シチュエーションとして慣れていた。これまでの経験から自惚れではないと分かる。それは疑うべくもない。だから、八神は人懐っこい微笑みを返す。
「いいけど、ほんとにいる?」
「いるよー。え、おいしくない?」
「俺は結構好き」
そう言って、ペットボトルを持った右手を差し出した。




