第56話 嗚咽慟哭/暗夜行路
本当は一刻も早くシャワーを浴びたかった。だけど、家までダッシュする気力もなければ、皇を置き去りにすることへの抵抗もあった。玄関で靴を脱ぐや否や、制服を脱ぎ捨ててバスルームへ直行する。生まれたままの姿。見た目には何も変わっていない。でも、本質的な何かが狂ってしまったように思う。そう思えてならない。
シャワーを顔面に浴びながら嗚咽を漏らす。自分がかわいそうで。自分がばかで。白尾が憎くて。自分が憎くて。世界が憎くて。自分にこんな暗い感情があったんだと気付く。知りたくなかった。
——全部やり直したかった。全部。ぜんぶ。
◇
死にたいと思う気待ち。言うなれば「死にたさ」についてだが——程度の大小こそあれ、自分には常に死にたさが付き纏っていた。それは一種の願いのようなものであり、そもそも自分には自分を殺す能力なんてない。だからこそ、どうすればこの死にたさから逃れることができるのだろうと、それはもう頻繁に考えていた。よく言われる自殺願望とは違う。ただの漠然とした憧れである。自分は本心では死にたくなどない。にもかかわらず、死にたさを感じてしまう。
だから——だから、である。この気持ちから逃れられないことが、本当にもどかしいのだ。
夜はいい。まず他人の目が気にならない。だからといって別に悪いことをしようということではない。むしろ自分はされる側の人間だ——というのは少し前までの話か。
ふらふらと夜道に出てみる。さながら夢遊病。行く宛てなどない——などと言えれば格好がいいが、結局は何の捻りもなくコンビニに向かうことになるだろう。
プチ家出にすらほど遠い。ただ少し夜の散歩をしてコンビニに寄るだけの優等生だ。
ただ、その日。いつもと違うことが一つだけあった。
出会ったのだ。彼は彼女に。
高校生活にも慣れ始めたGWの初日。八神香は、五木碧と出会った。




