第50話 青春の一頁
「やめて、くだ……」
震える手で、懸命に。少女は自らを凌辱する無骨な腕を掴んで請う。やめてほしい。思い止まってほしい。そんな一縷の願いはしかし、無情にも却下され、届かない。
「——ダメだろう、いい子にしてないと」
親が子を叱るような自然さで。いや、毒親が子を虐待するような淀みのない動きで——
バチン。もう一度頬を叩く。巴が静かになる。
白尾は満足そうに微笑みながらスカートをめくり、一糸纏わず露わになった下半身を拝んだ。その状態ですぐに撮影タイムとする。
「はい、顔も見せて。いいね」
スマホで数枚の写真と動画を撮り、今後彼女を隷属させるための“物証”を我がものとした。
「まあ、こんなところか」
これでいい。白尾は頷く。
「そうだな。次は——」
ガゴオオン!
ものすごい音がして視聴覚室のドアが開く。ドアが、いや鍵が壊された?
「——ああ、なんだ。あんなに慌てていたのに、ロックを外せていたのか」
白尾は巴を一瞥する。
「おかげで邪魔が入ってしまったじゃないか」
興が削がれ、タイミングの悪さに呆れるばかりだ。白尾は招かれざる客を注視する。ジャージ姿の男子生徒。上背はあるが、幼さの残る顔立ちだ。ここまで走ってきたのか息を切らしており、呼吸が荒い。
「——————」
そしてどうも絶句している。
「こらこら、ここは使用中だ——」
「先輩!」
白尾の注意など聴く耳持たぬと言わんばかりの勢いで、男子生徒が巴に駆け寄る。
やれやれだ。白尾は少し離れ、青春の一頁を特等席で鑑賞することにした。
「先輩、遅くなってすみません。もう大丈夫ですから——」
皇は謝罪と気休めの言葉をかける。こんなことなら——と後悔してももう遅い。手早くブレザーを拾い上げ、白い素肌を隠す。
「皇……くん……」
絞り出されたかのような声。誰よりも泣かせたくない人だった。その涙に濡れた顔が申し訳なさそうにしていて。
——違う。あなたは悪くない!
二宮皇の中で何かが弾け、切れた。
「お前ーーーー!」
皇は巴をかばうようにして白尾と対峙する。
「なんだ? 怖い顔だな」
元凶と思しき男はいかにも生徒に慕われそうな朗らかな面の皮を被っていた。
こいつが。先輩を。——ああ、怒りでどうにかなりそうだ。視界が真っ赤に染まる。目の前がチカチカする。
そんな皇のすぐ後ろで、糸が切れたようにがくっと、巴が床に崩れ落ちた。




