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第47話 罪と罰

「————?」

 ついに巴も異変を察知する。白尾の朗らかな笑みは健在だ。相も変わらず整った顔立ちである——。だが、その視線に不気味さが混じっていた。

「三船。こんなこと言いたくないんだが——小野が暴行されている時、君は何をしてたんだ?」

「——————え」


 強い口調とは裏腹に、ひどく優しく肩を撫でられる。動けない。思考まで硬直する。

「な、何って……バイトから帰る、途中で……」

「違う!」

 白尾が一喝する。びくっと巴の身体が震えた。

「暴力を振るわれている者を前にして、三船——君は何をしていたんだ?」

「それ、は……」

 巴は直接的には暴行の場面を見ていない。だから、見ていませんと言えばよさそうではある。でも、それだと証言の信憑性が根本から損なわれてしまう。白尾にしてみれば、根拠は巴の証言だけなのだ。


 ただ、実際に証拠はある。ドローンが撮影した映像だ。巴が見ていないことを口にしても、その証拠さえ提出すれば——

(ダメだ。映像には碧ちゃんも映り込んでいる。それを見て、先生がどう判断するか分からない——)

 言葉が出てこない。私は何もしなかった。何もできなかった。たった独りで泣いていた男子生徒に、ハンドタオルを投げかけるくらいしか——

(——それだけしか、できなかった)

 白尾の顔がすぐ近くに寄る。耳元で囁き声がする。

「三船。ただ傍観していたというなら、君も同罪だぞ?」

「————わ、わたし、は」

「だってあんまりだよな。ゴミすぎるよなあ人として!」

 巴の瞳から色が失われていく。

「立て。——立てと言っている!」

 ダンッ、と音がして、ようやく自分に怒気が向けられていることに気付く。目の前の机の上に、白尾の拳が振り下ろされていた。

 蒼白な面持ちで、巴はよろよろと立ち上がる——。



「なあ三船。君は悲惨な目に遭わされている小野を助けなかった。今更密告に来たって遅いんだよ。しかも先週だ? ——ふざけるな!」

 巴は俯いている。白尾は乱暴に顎を掴んで顔を上げさせた。泣き出す一歩手前のような表情。実に絵になっている。さて、もう泣いてもおかしくないのだが——。白尾は凄むのをやめない。

「三船。君は人間として最低だよ」

 自分で言って可笑しくなる。本当に最低な人間は誰か。俺にも十分資格がありそうだ——。白尾は巴の視界を独占するように顔を近づけ、吐き捨てた。

「君にはがっかりだよ。君は誰も助けられない。無力だ。役立たずにもほどがある」

「——————」

 巴の頬を。涙が一筋、伝っていく——。



 ——わたしは、

 ムリョク、ダ——。

 膝からがくんと崩れ落ちるような感覚。両足がぶるぶると震え出す。立っているのがやっとの状態。巴は無意識に白尾から距離を取ろうとして後ずさる。

 しかし——。

「逃げるのか?」

 白尾の手は顎から離れない。そればかりか両頬に力強く指が食い込む。

「————」

 言葉が出ない。喉が発声機能を一時停止している。

「せん……せい……」

 やっと、それだけ口にする。しかし無意味な呼びかけだ。その鼻声を出したところで、巴の瞳に宿った絶望の色は褪せることなく、また白尾に対する何の訴えにもならない。それが虚しく、自分の無力さが恨めしく、白尾の拒絶が悲しくて、哀しくて——

 三船巴は泣いていた。

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