第44話 ファーストインパクト
(ええと、まず言わないといけないのは——)
巴は机を挟んで対面に座る白尾の顔を見た。緊張させないように気を遣ってくれているのだろう、いつもの柔和な笑みを湛えている。よし——やっぱり白尾先生になら、言える。巴は腹を括り、小さく深呼吸。
そして、口を開いた。
「いじめの相談なんですけど——」
刹那の間。冒頭から多少のインパクトを与えてしまったようだ。白尾はわずかに驚いた様子で、両目が微妙に見開かれ、けれどすぐに表情が引き締められた。
「いじめ……だって?」
みっともなく呆けたように白尾は言葉を発する。いじめ。その単語の反芻には、疑いの色が濃く含まれていた。ただし、巴がわざわざ嘘の相談をしにくるとは考えにくい。勘違いということもあるだろうが、最初から疑っては心象がよくない。
「——当事者は誰なんだ?」
まさか彼女がいじめの対象になっているなんてことはないだろう。眉目秀麗で男女問わず人気がある、そんな生徒が——
いや。だからこそ妬まれるケースもあるか?
「4組の小野くんなんですが……」
だよなあ。やはり彼女は当事者ではなかった。よもやの期待が霧散する。
もしいじめを受けたのが三船巴本人なら、懐柔がしやくすなる——なんて、そんな浅はかな思惑は塵と消えた。いやはや。まったくもって浅慮だった。
「その、暴力を——ケガをするほどの暴力を、受けていました」
鎮痛な面持ち。悲愴な巴を前にして、対する白尾の脳は最優先で謀略を巡らせている。小野という生徒のことはよく知らないが、自分が知らないということは大した生徒ではない。いじめられても仕方のないような地味な存在なのだろう。ケガの程度も気にならない。そんなことより、だ。この女子生徒——三船巴はなぜそれを相談に来た? 単純な良心からか? 持って生まれた正義感か? そんなくだらない理由でか? ああ、違うと言ってくれ。三船。どうか、もっと何か深い事情があることを示唆してくれ。どうか——。
「いじめということは、相手も生徒なのか?」
不埒な思考を一時的に抑制し、白尾は質問でリードする。巴が少しでも話しやすいように、落ち着いた声色で。
「…………はい。うちのクラス——2組の八神くんが……。先生、八神くんを、八神くんを止めないと……!」
「落ち着け三船。——それは本当に八神だったのか? 見間違いの可能性は——」
八神は優等生タイプの生徒だったはずだ。すぐに信じろというのも無理があるが——。
「それは、間違いありません。同じクラスだし、分かります」
「そうか……ひとまず分かった。なら、八神とは話をしよう。だが——」




