第43話 Blessing
「先生」
透き通るような声とはよく言ったものだ。まるで彼女のためにある言葉ではないか。さらにそれだけではない。白尾は感動に打ち震えた。
ぱっちりとした吸い込まれそうな瞳。透明感のある白い肌。整った顔立ち。儚げかと思えば華やかな笑み。清楚にして艶美な佇まい。——非の打ちどころのない容姿。これほどの美貌を持った少女に声をかけられ、心弾まない者がいるだろうか?
昼下がりの視聴覚室。大学の広めの講堂のような造りで、長机と椅子が備え付けられている。部屋全体にゆるやかな傾斜があり、後方の座席ほど高い位置にあるのは映画館にも似ている。前面にはプロジェクターの映像を投影する大型のスクリーンがあるが、各教室でも小型のものが使えるため出番は多くなかった。
白尾の姿を認めると、三船巴はにこやかに笑んだ。暗幕の役目をするカーテンは半分開いており、室内は十分な明るさがある。白尾は部屋の中央付近で手招きし、巴を迎え入れた。歩く姿も絵になっており、気を抜くと魅入ってしまう。
窓からは陽光が降り注ぐ。それすら彼女を引き立てる舞台装置のようだ。軽く目眩がする。現実感が乖離していく。
「先生。お時間頂きありがとうございます」
その声で我に帰った。そうだ。彼女は何か相談があると言った。それでここに案内したのだ。
「すまないね。指導室が空いていなくて」
「いえ、大丈夫です。ただ、その、何から話していいか——」
立ちすくんだまま、どうにも巴は戸惑っている。あるいは躊躇いか。その憂いを帯びた表情がたまらなく琴線に触れてくる。
「三船。ゆっくりでいい。焦らなくていいから」
乾いた口で、そう告げた。自分の焦りを包み隠すかのように。巴に落ち着かせる言葉をかけながら、自らの平静を取り戻していく。
巴は頷きはしたが、その口はしばし閉ざされていた。よほど話しにくいことらしい。ただ、相談に来たということは話したくないことではないはずだ。
「まあ、座って」
手近な椅子への着席を促しながら、自分も通路を挟んだ椅子に腰掛ける。いまさらながらその座り心地の悪さに驚いた。そんな膾炙された常識すら忘れ去るくらいに、彼女に心奪われていたということか。
だが、もう大丈夫。今は冷静だ。呼吸を整え、神の祝福を受けた美しい女子生徒を観察する。さあ、何を話してくれる? どんな弱みを俺に晒してくれるんだ? 冷静さを取り戻した白尾は期待に胸を膨らませ、悪意のまるで感じられない——朗らかな笑みを、浮かべた。




