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第37話 カップリングが止まらない

 週の真ん中。水曜日。皇が八神を尾行した翌日。この日は巴が通う都立令和高校の卒業式が催された。見知った先輩が卒業することに寂しさがないといえば嘘になるが、1年生の巴にとっては当事者でないため特段感傷に浸ることもなく、ただ粛々とした空間に身を置きながら、卒業生の涙を眺めるなどしていた。そしたらなんか朱里もぼろぼろ泣いていた。感受性豊かな師匠である。


 ちなみに巴は本日3人に告白され、2人に手紙を贈られた。いずれも卒業生で、合算すると一日では最多人数記録となる。やっぱりこういう日は多くなるのね……。正直油断していた。なお直接断りを入れた3人には彼氏(仮)の存在を伝えてみたが、よく考えたらもう学校に来ないから抑止効果にはならなそう。


 そういった意味で巴にとっても激動の巣立ちの式典だったのだが、それも午前中に終わり、彼女の足は駅まで行く途中にあるファミレスへと向かっていた。そこで皇と合流することになっている。

「もえちー!」

 その道中、まもなく目的地に辿り着こうかというところで、不意に友人の声に呼び止められた。振り返ると、花音かのん佳凛かりんの姿がある。2人とはクラスは違うが同じ中学出身であり、なにかとつるむことが多い。

「カノカリ〜!」

 巴が手を振り返すと、花音は近づいてくるなり神妙な面持ちで呟いた。

「前から思ってたんだけど、そのユニット名どこかで聞いたような……」

 小柄で童顔だから、ちょっとその表情似合わない——とか言ったら怒られそう。なので言わない。

「そうなの? カノンとカリンでカノカリ。デビューしたら使ってね」

「いや、しないから」

「メルとカリンならメルカリで」

「めるるは今日遊べないって」

「メルとトモエならメルトモだし、カレンとカノンならカレカノね」

「カレンはデートだって」

 巴がカップリングを量産していると、花音が律儀に情報をくれる。

樺恋かれんちゃんは自供したけどー、芽瑠めるちゃんも彼氏できたっぽいよねー」

 それまで黙っていた佳凛がほわほわした独特の声で見解を述べた。

「うーん、やっぱりかー。ってちょっと待った。それじゃカレンもめるるもカレシ持ちってこと!? 私たちは仲良し5人組じゃなかったの!?」

「なにそれうけるー。花音ちゃんテンション高いー」

 いつもながら花音は元気いっぱいで、佳凛は平和そう。

「ていうか、仲良し5人組ならカレシができたことを祝うべきなのでは」

「はい正論。さすがもえち。私が間違ってましたっ」

 花音が落ち込んでしまったので、巴は胸を貸す。よしよし。泣かんでいい。

「でさ、これからカリンと新宿行くんだけど、もえちも来ない?」

 巴の胸をひとしきり堪能した後、花音がようやく本題を切り出した。

「これからは無理だなー」

「え、まさか、もえちも男!?」

「私は女の子!」

「それは知っとる! 男ができたのかと聞いておる!」

「んっふっふー。その質問は事務所NGなのよねー」

「アイドルかよ。いやいや、ちょっとまって。え、マジなの?」

 巴は思わせぶりに目を伏せるなどする。

「うわー、大ニュースじゃん! 泣く人いっぱいおるよ?」

「そうかなあ……そうかも?」

「もえちの事務所って恋愛禁止じゃなかったのかー。こりゃファン減るねえ?」

「あー。それなんだけど、私、本当はアイドルじゃないんだよね……」

「知っとるわ! でも四条さんとか泣いちゃいそう。さっきも泣いてたけど」

 朱里ちゃんは——。

「いや、むしろ喜んでくれるかな?」

 師匠目線で。

「なんか想像つくー。泣くは泣くでも感涙に咽び泣く的なー?」

「そうそう、そんな感じ! 佳凛ちゃん的確ー!」

「この観察眼。おっとりしているようでしっかりしているのが佳凛ちゃんなのですー」

「自分で言っとる……」

 得意げな佳凛に対し、これが天然か、と呆れる花音。今度は巴が聞く。

「てか、なぜ新宿?」

「ふふーん。それ聞いちゃう? この前ヘアカットのモデルにスカウトされちゃってさー」

「花音ちゃんにっこにこ!!」

「ほんとだー。写真とろー」

「私もー」

 佳凛に便乗してスマホを構える巴。

「こらこら、きみたち。聞いてるの? 話が進まない!」

「ごめん。ニコニコで可愛かったから」「面白かったからー」

「カリンはあとで説教な。それでなんだっけ? あ、カットモデルね。なんかさ、トリートメントとかもタダでしてくれるんだって。友達も連れてきていいっていうから行かん?」

「それ怪しいヤツじゃないの?」

 あからさまに訝しがる巴を見て、

「大丈夫だよ!」「有名なお店だったからー」

 それぞれ見解を述べる2人。謎の慢心と知名度による信頼。——うん。巴は花音を一瞥、佳凛のほうに顔を向け、

「佳凛ちゃんが言うなら大丈夫か」

「おい私は」

 ちっちゃいのが不満そうに見てくるが、丁重に断りを入れた。

「でもまあ今日はほんとごめん。もうすぐ約束の時間なの。のんびりしてたら魔法が解けちゃう」

「えーと、シンデレラか何か?」

 時刻はまもなく正午を告げようとしている。でも昼の12時だし魔法は関係なかった。ていうか巴はシンデレラじゃなかった。

「ほいじゃ、ばいちー。また来年度!」

「いやまだ学校あるからね?」

 花音が何か言っていたのでOK!と親指を立ててスマイルを贈り、もう少しで春休みだー! と多少浮かれた気分を身に纏いながら、巴はカリメロ……じゃない、カノカリの2人と別れた。

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