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第36話 この世全ての不幸

 ——なんで、いつもおればっかり。

 白濁とした意識の中で、そんなことを考えている。


 ——おれだけが。おれがいったい何をした?

 この世全ての不幸が自分に集中しているかのような錯覚。だがそれは、真実だろうが錯覚だろうがどうでもいい。自分がそう感じた。その認識だけで十分だ。世界のことを考える余裕などない。自分のことだけで精いっぱいだ。


 指先がかすかに動く。それなら身体も動かせるだろう。殴られ蹴られ、地面を這いつくばって得た経験値でそれとなく理解した。


 周囲に人の気配はない。そして陽は落ちている。ここでこのまま死んでも一向に構わない。そこに一握りの未練もない。そう。ほんの少しも——。


 脳裏に疲れた顔の母親が浮かぶ。おれが死んだら悲しむだろうか? 泣くだろうか?

心に開く穴はどのくらいの大きさだろうか? そんなことを考える。

(——どうでもいいけど)

 もう、クソほどにどうでもいい。いよいよおれも終わりに近づいている。テストの出来が悪いと泣いて罵るような常にストレスフルのクズ親だ。おれが死んだらストレスフリーになるかもしれない。

(どうして馬鹿な自分から産まれた息子が馬鹿に育たないと思うんだろう)

 心底理解不能で、自然とため息が漏れ、同時にむせた。

(まあ、ばあちゃんがいる限りストレスはなくならないか)

 祖母について良い印象は持ち合わせていない。自分が物心ついた時から口うるさい典型的な老害で、最近は徘徊と奇声が目立ってきた。施設に入れる金はないらしい。


 どこか陰湿な空気を肺に送り込みながら、小野は立ち上がる。どうも神社とかお寺とか、そういった神聖とされる場所の空気は自分には合わない。

 張りぼての祭壇。眉唾の神。だめだ。吐き気がする。こけないように手すりを使って階段を降りた。

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