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第38話 何度目の告白か?

 皇は自室で寝転び、慣れ親しんだ天井を眺めながら、その日ファミレスで巴と交わした会話を思い出していた。


「——碧ちゃんはさ、八神のことが好きなんだよ」

 巴の言葉に皇は黙すしかなく、やっぱりそうきますよね、と思った。

 神社で暴行があったことを話した。その加害者と被害者、そして傍観者の姿があったことも。

「だから……」巴は少し躊躇いながら、

「碧ちゃんは利用されてるだけ、なんじゃないかな……と、思う」そう、口にした。


 どうやら巴は碧が積極的に加担しているとは思いたくないようだ。そんな気はしていた。信じられる可能性があるのならば、それを最後まで捨て去らない。その気持ちは分かる。

「えと。あっ。本当に碧ちゃんだったのかな?」

 藁にもすがるような瞳で見つめてくる。ああ、三船先輩ごめんなさい。言ってしまってごめんなさい。真実を伝えてしまってごめんなさい。皇は無性に謝り倒したい気持ちに苛まれる。別に皇は悪くないのだが、現実問題として目の前には悲しんでいる巴がいる。


 ——だけど、でも。いや、むしろ。

「そうですね……。映像を見た限り、全員の情報と一致してました。あの場にいたのは八神香、小野救世、五木碧の3人で間違いないかと……」

 嘘をついたり誤魔化したりが許されるタイミングじゃなかった。起きてしまったことは仕方ない。大事なのは、これから何をするかだ。だから、真実を伝えた。


 もちろん不要なノイズは伏せている。暴行の内容や八神の性癖まで伝える必要は塵芥ほどにもない。


 そう——大事なのはここから。事実を受け止めた巴が何をしたいかだ。皇は彼女の意思を最大限尊重しようと思っている。


 がっくりとうなだれていたように見えた彼女はやがて、顔を上げた。

 前髪が垂れて顔の一部が隠れたままだが、その可憐さは隠しようもない。

(かわいい——)

 なんて、皇は思わず見惚れてしまう。緊張感が少し飛ぶ。


 彼女が口を開く。声帯が震える。鈴を転がすような心地の良い声音。周囲の喧騒も、隣の卓で注文をとる店員の声もまるで気にならない。皇の視覚は彼女の唇の動きに支配され、それが奏でる言葉に聴覚を占有される。

 巴は言った。

「……これはもう大人に相談かな」


 頬杖をついて物憂げな吐息。その仕草だけで、甘く甘く、皇の脳内が暖色に彩られて華やぐ。

 そしてアイスティーをひと口。少女は唇から離したストローに目線を落とし、それを右手で緩慢に弄ぶ。皇は黙っていられなかった。

「三船先輩、好きです」

 彼女への何度目かの告白。

「…………」

 何で、このタイミングで。巴は面食らった。

 対して皇はしまったと思った。先輩のかわいさに当てられて、つい言ってしまった。自分を恥じる。

「——それは知ってる」

 どうやら巴はぷんすかしている。それはそうか。直前までかなり真剣な話をしていたのだから。無理もない。

「先輩、すみません。もうしません!」

 皇は頭を下げる。

「いや、言われて悪い気はしないんだけどね?」

 言って巴はストローを咥えた。なんか困ったような雰囲気ではあるが、先輩にフォローしてもらえるなんて、しょげた姿を見せた甲斐があったというものだ——。皇は前向きに現状を追認。それで、と質問した。

「それで、大人に相談っていうのはやっぱり、ご両親に僕のこと……?」

「いやいや、そんな話してたかな!?」

 順当に否定された。

「いきなり警察に言っても腰が重たそうかなと思ってさぁ」

「あーね」

 短く同意を告げ、皇は巴の対面の席から隣へと移る。

「なにかな……?」

「先輩、そんな警戒しなくても。こんな公共の場で手を出したりなんかしませんよ」

「そうなんだ……意外」

「僕のことなんだと思ってるんです?」

「皇くんは皇くんでしょ。私は紳士的な皇くんが好きなんだけどなー」

「——————!」

 突然の発言に、皇は卒倒した。魂が身体から抜けそうになる。不意打ちだ。ずるい。皇くんが好き。好き。部分的に何度も反芻する。胸が苦しい。

「これが恋というやつなのか……?」

「そうでしょうねえ」

 笑っている。畜生、手玉に取られている? これが歳上の余裕ってやつか?

「……うおお、先輩!」

 皇は無性に巴を抱きしめたくなった。だから、抱きしめた。

「ちょ、だめえー」慌てた巴に即引き剥がされる。

 昼間のファミレスでイチャつくのは憚られる——とでも思っているのだろう。同感だ。皇は自省する。

「皇くん、酔っ払いみたいになってるよ?」

「先輩の可愛さに、酔っているのかもしれません」

「やかましいわ」

 漫才の最終盤のように一蹴されてしまった。気を取り直して——とは自分で脱線させておいて虫のよい話だった——皇は仕切り直して、巴を直視する。

「頼りになる大人……いるんですか?」

 桃色の唇がストローを解放する。皇の顔を見返して、彼女は不敵に笑んだ。

「いるのよねー。これが」

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