第30話 危険なアディクション
あーくそイライラする。降って湧く破壊衝動。何もかもを粉々にぶち壊したいという欲求。とりあえず誰か殴りたい。もちろん相手は選ぶ。お膳立ては冷静に。本能のまま暴力を振るうのはその後だ。スマホを出し、小野を呼び出す。
「10分で来い。分かってるよな」
ああ、そうだ。ついでに碧とヤって、この湿っぽい気分を晴らそう。彼女にも電話をかける。
「あ、碧ちゃん。……そうそう。会いたくなっちゃって——」
八神香には父親がいない。彼が産まれて一年と経たずに事故で意識不明となり、その入院費や生活費を工面するため母親が昼夜を問わず働いた。4歳年上の兄は両親不在の家でよく弟の面倒を見てくれたが、それは八神が小学校低学年の頃までの話だ。兄は中学に入ると家庭内で暴力を振るうようになり、まもなく一家は離散となる。父は延命の甲斐なく息を引き取り、母は男を作って出て行った。兄は母と八神に対する傷害の容疑で逮捕・起訴され、家裁から逆送、執行猶予付きの有罪判決を受けた。そして釈放後すぐに自殺した。
八神は遠縁の親戚に引き取られて経済的にも恵まれ、中学時代は表向き優等生へと成長する。その裏では恐喝や暴行を繰り返し、同級生1人を自死に追いやっていた。その時の反省が今の八神には生きている。それは自分が悪事を働いたことに対する自責ではなく、生かさず殺さずの精神でなければ玩具は壊れてしまうという純粋な知見だ。
八神香の根源にあるものは何か。いっそのこと早く死んでくれたらよかったと思う父親への怨恨か。粗暴な兄から守ってくれず最後に裏切った母親への悲嘆か。それとも単純に兄から受けた暴力への依存か。あるいは、それらすべてか——。
とりわけ、彼が働く暴力は模倣から来ており、加害行為は彼の心に安寧をもたらした。あとはセックスも。最初に少しでも主従関係を築いておけば、行為中に多少乱暴なことをしても受け入れられてきた。
そうして辿り着いたのが今の環境であり、小野や碧の存在を八神は彼なりに大事だと認識していた。ここで言う大事とは無論扱いについてではなく、現環境の構成要素としてに他ならない。代えが効くモノではあるが、だからといって無駄に使い潰してしまえば次を用意する手間がかかる。
だからこそ。八神は小野と碧のことを大事な存在だと思っている。扱いはぞんざいながら、それぞれ暴力と性のはけ口として、歪んだ依存の対象となっていた。




