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剣の娘  作者: 田中
第十一章 北の戦場
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偵察隊と工兵隊

 カミュ達が帝国軍を退けて一週間。砦は再度帝国の攻撃にさらされていた。

 帝国軍は拒馬を設置し騎馬隊を防ぎつつ、弓矢による攻撃を続けていた。

 投石器も投入し砦の城壁も被害を受けている。

 前回も弓兵はいたが数は全体の二割程だった。今回は半数以上が弓兵のようだ。


 一度、砦の騎馬隊が突撃を慣行したが拒馬を超えられず、また超えた者も矢の餌食となり大した戦果を挙げられなかった。


 城壁の中から陣を布いている帝国軍を覗きながらジェイクがカミュと話している。

 敵の数は三千程、中には黒鋼騎士団もいるようだ。


「あの弓は厄介だな。騎馬隊が接近できん」

「こちらも弓で応戦すればいいんじゃないの?」


「それも難しい。飛距離は向こうの弓の方が長いんだ。帝国軍の弓兵は昔から有名だからな」

「盾を構えて前進すれば、あの柵をどうにか出来るんじゃない?」

「いや、黒鋼騎士団が居る。あいつ等の使う弓矢は鉄の盾を容易に貫く。接近は難しいだろう」


 二人が話していると城壁に上がって来た月夜が話しかけてきた。


「カミュ様、ジェイク殿こちらにいらしたのですね」

「月夜さん、雪丸さんの具合はどう?」

「幸い、細身の剣で突かれていたので、もう動かしても大丈夫なようで御座いまする」

「そう、良かったわ」


 雪丸については、カミュも何度か見舞っていたが、付きっきりという訳にもいかず世話は月夜に任していた。

 帝国軍を退けた後、死者の弔いや武具の回収などでカミュもジェイクも動き回っていた。

 特に黒鋼騎士団の武具は再利用されないよう入念に回収する必要があった。


 月夜は除き窓から見える帝国軍を見て二人に尋ねた。


「このまま、砦にこもるしかないのでしょうか?」

「ああ、せめて投石器だけは何とかしたいがな。このまま攻撃を受け続ければ城壁も崩れるかもしれん」


 砦の城壁は突貫工事で塞いだが、やはりその部分はどうしても弱い。

 集中して狙われれば再度崩れるだろう。


「……では、忍び寄って破壊するのはどうでしょう?」

「そんな事出来るの?」


 月夜は除き窓から投石器を見て言った。


「見えている限り、投石器は二十で御座いまする。それなら手持ちの火薬と油で破壊出来ると思いまする」

「そういえば月夜殿に必要な武器を尋ねた時、火薬と油が欲しいと言われて手配したな」

「でも、一人で二十は難しいでしょう?」

「そうで御座いますね……ですが闇夜に紛れ近づける方は、騎士隊にはいないのでは?」


 それを聞いてジェイクが口を開く。


「確かに騎士隊にはいないが、砦には偵察についている兵もいる。彼らに助力を乞おう」

「偵察兵なら確かに出来るかもね……火薬を使うなら工兵も必要かも……」

「まずは千人長に話してみるか」


 カミュはジェイクと月夜と共に、千人長の部屋を訪ねた。

 彼はカミュ達を難しい顔で迎え入れた。


「カミュとジェイクか……何の用だ」

「バルガスさん、提案があります」


 千人長バルガスはカミュの言葉に片眉を上げた。


「何かいい案でもあるのか?」

「はい、月夜さんが火薬で投石器の破壊が可能だと言っています。ついては砦の偵察兵と工兵を何人かお貸し頂きたいのです」


 バルガスはチラリと月夜を見て、眉根を寄せた。


「……本当に出来るのか? 見る限りカミュより若く見えるが?」

「私は国で同様の仕事を任された事が御座いまする。その時は五人で敵の兵糧を全て焼きました。やらせて頂けないでしょうか?」

「……いいだろう。これを持って会いに行け。必要な数を連れて行くといい」


 バルガスは書類にサインをしてカミュに差し出した。


「分かりました」


 カミュがそう答えて書類を受け取ると、月夜は両膝を突きバルガスに頭を下げた。


「ありがとう御座いまする」


 月夜の行動にバルガスは少し驚いていたが、期待していると口にしてカミュ達を下がらせた。

 偵察隊に会いに砦を移動していると武具を修理している鍛冶屋達の工房が目に入った。


「そうだ。黒鋼騎士団の武具を使って、矢は作れないかな?」

「矢か……難しいんじゃないか?黒鋼を扱った事のある鍛冶屋は少ないだろうしな」

「まあダメ元であたってみましょう」

「ついでに弓もつくれれば言う事無しだな」


 矢の話はあとで聞くとして、カミュ達はまずは兵と協力し、投石器の破壊を第一目標にする事にした。

 偵察兵は全員、皮鎧を着た軽装の兵士だった。

 手入れしている剣は光を反射させないためか、黒く塗られている。


「騎士隊の嬢ちゃんか。何の用だ?」


 茶色の髪の細身の男が、軽い調子で聞いて来る。


「貴方が隊長?」

「そうだ。俺は偵察隊のロッド。よろしくな」

「私はカミュ。それと後ろの二人はジェイクに月夜さんよ。よろしくね」


 ジェイクと月夜がロッドに頷き返す。


「おう。それで用はなんだ?」

「投石器を壊すのに協力して欲しいの。千人長の許可は取ってあるわ」


 そう言いながら、男に書類を手渡す。


「協力ね。一体何をすればいいんだ。俺達は工兵じゃない、物を壊すのは苦手だぜ?」

「分かってる。月夜さん説明を」

「はい、皆様には投石器の近くにいる帝国兵の排除をお願いしたいのです」

「敵陣に忍び込んでの暗殺か……分かった。引き受けよう」

「ありがとう御座いまする」


 月夜が膝をつき頭を下げるのを、慌てて立たせ男は言う。


「いきなり何をしてんだ? 礼なんていいぜ。どうせ投石器を壊せなきゃまた砦を奪われちまうからな」

「決行は明日の深夜。ここ何日かの戦闘である程度敵の配置は分かっていると思うから、侵入ルートを割り出して欲しい」


「明日か。確か新月だったな。分かった。まあ敵の配置を調べたのも俺達だからな。任せとけ」

「頼りにしてるわ」


 ロッドと別れ、カミュ達は工兵隊の宿舎に向かった。

 カミュも砦の中で何度か彼らとすれ違っているが、兵というよりは職人といった方がいいような人達だ。

 宿舎に入り隊長の居場所を尋ねると工房にいるという。

 三人が教えられた場所につくと、工兵たちが真剣な顔で作業をしていた。


「あの、すいません。隊長さんはいますか?」


 カミュが声を掛けると、オーバーオールにタンクトップを着た口髭を生やした男が進み出る。


「俺が隊長のグスタフだ。お前の戦いっぷりは壁の上から見てたぜ。若いのに大したもんだ」

「ありがと。私はカミュ。こっちの二人は副長のジェイクと客分の月夜さん。よろしくね」

「ああ、こっちこそよろしく頼むぜ。それで用件は?」

「投石器に火薬と油を仕掛けるのを協力して欲しいの」


 グスタフはカミュに納得したように頷いて見せた。


「確かにあいつを潰さねぇと、また壁に穴が開きそうだしな。だがどうやって近づく?」

「偵察隊にルートの確保と周辺の敵の排除をしてもらう。その後、あなた達に火薬を仕掛けてもらうわ」


「……やるなら動ける若い奴の方が良さそうだな」

「投石器の数は、確認できている物は二十。阻止されない為に破壊はなるべく同時にしたい」

「同時か……」


 グスタフはニヤッと歯を見せて笑った。


「いい物があるぜ」


 そう言うと彼は工房を探り、まとめられた紐の様な物を取り出した。


「こいつは鉱山の発破に使う導火線だ。何かに使えるかと持って来たんだが、特に使い道が無くてな。ゆっくり燃えるタイプだから、樽に火薬を詰めて同時に火を付けりゃ大体同じ時間に爆発させる事が出来るはずだ」


「作戦にピッタリね。細工は任せていい?」

「ああ、しかし二十となると火薬が足りんぞ」

「そっちは大丈夫。月夜さん、お願い」

「はい、カミュ様」


 カミュは月夜に説明を引き継いだ。

 彼女は持っていた火薬を詰めた竹と、引火性の強い油をグスタフに見せ使い方を説明した。


「なるほど、これなら破壊出来るかも知れん。ついでだ。砦にある火薬も使っちまうか」

「いいの?」


「他に使い道もないからな。元々、崩れた城壁を取り除くのに使ってたんだ。で何時やる?」

「明日の深夜。月がないから真っ暗な筈」

「動いてる月は、そこのお嬢ちゃんだけって訳か」


 カミュはグスタフが、見た目に寄らず洒落た事を口にしたので驚いた。


「何だよ?」

「ごめんなさい。ずいぶん洒落た事を言うのね」

「こう見えても騎士の生まれだからな」


「職人の出かと思ってた」

「任務で、職人の親方について仕事を覚えた。まあ騎士らしくないのは自覚してるよ」

「ふふ、それじゃあ、明日はお願いね」

「了解だ」


 グスタフによろしく言って、三人は工兵隊の宿舎を後にした。

 騎士隊の宿舎に戻りながら、ジェイクはカミュに尋ねた。


「カミュ、君も作戦に参加するのか?」

「ええ、月夜さんを無事に国へ返さないといけないからね」

「彼らに任せた方が良いのではないか?」


「立案者が動かないと、格好がつかないわ」

「それはそうだが……危険すぎないか?」

「大丈夫。見つからないように仕事するのは得意なの」


 ジェイクは心配そうに二人を見たがカミュの意思が固そうなのを見て取って、それ以上何も言わなかった。

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