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剣の娘  作者: 田中
第十一章 北の戦場
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効率よく殺す為に

 ミダスの城の謁見室でロランはライバーが宿から消えたと報告を受けていた。

 監視に付けていた諜報部の人間はホテル近くの川に浮いている所を発見されたという。

 胸に深い刺し傷があり明らかに他殺だが、目撃者はおらず衛視による捜査も難航していた。


「アイン、ライバーと一緒にいた他の騎士はどうしている?」

「ハッ、彼らはそそままホテルに留め置いています。どうやらライバーは彼らに何も言わず消えたようで、逆に我々のほうがライバーが何処に行ったのか聞かれました」


「ふむ。仲間にも知らせず消えたか……あの者は短い期間とはいえ、騎士隊に所属していた。ともすれば騎士隊の内情が帝国側へ漏れる事も考えられるな」


 武具の関係から、黒鋼騎士団と同じく緑光騎士隊も簡単に人員を増やせない。

 大兵力で攻められれば、いかに強力な武具を持っていようと全滅は免れないだろう。


「ロックフォール。グラントを呼んでくれ」

「よろしいのですか?」

「構わん。騎士隊は黒鋼騎士団に対抗できる唯一の剣だ。私の懸念で失う訳にはいかん」

「畏まりました」


 ロランは銃の事が帝国に知られる事を恐れる余り、銃士隊を騎士隊に同行させなかった事を悔やんだ。


 一方でこうも思う。銃士隊が表舞台に立てば帝国も銃の研究を始めるだろう。

 そうなれば開発競争になる。より効率よく人を殺せる武器が次々と登場するだろう。


 銃の開発者、カルとボッシュには引き続き研究を続けさせていたが、ロランは自分が酷く愚かな事をしているという思いが拭えなかった。


 翌日、ミダス郊外で訓練を続けていたグラントが謁見室で膝をついていた。


「すまんな。わざわざ呼び出して」

「いえ、それでご用はなんでしょうか?」

「銃士隊はどんな様子だ?」


「はい、新しく配給された銃にもようやく慣れてまいりました」

「そうか……グラント、隊員はどの程度の距離までなら命中させる事が出来る?」


 グラントは隊員の顔を思い浮かべたのか、しばし視線を宙に彷徨わせ答えた。


「隊員のセンスによって距離はまちまちですが、三百メートルなら全員当てられます」

「三百メートル……その距離で甲冑を着た者を倒せるのか?」

「新型の弾を使えば可能でしょう。弾頭を銅で巻く事で、鎧を貫通する事が可能になりました」


 グラントの答えにロランはため息を吐いた。

 銃はロランの予想より早く、どんどん強力になっていく。


「グラント、銃士隊を率いロードリア辺境伯へ向かえ。カミュの率いる緑光騎士隊に力を貸してやって欲しい」

「了解しました」

「……カルが新しい弾を開発したそうだ。それも持っていけ」

「分かりました……子爵様、何か気がかりな事でも?」


 グラントはロランの顔色が優れないのを見て取り、そう尋ねた。


「……グラント。難しい事は承知で頼む。帝国に銃の仕組みを悟らせないように、なるべく遠くから攻撃してくれぬか」

「……了解しました。子爵様のお考えに沿うよう努力します」

「頼む」


 グラントはロランに敬礼をして謁見室を後にした。

 ロランに言われた弾丸を受け取る為、その足でグラントはカルのもとを訪れた。


 城の地下にカルとボッシュの工房はあった。

 ここで作られた試作品が、ミダスの街にある工場で量産される。

 銃を使っているのは今の所銃士隊だけなのでそれ程規模は大きくないが。


 工房には銃の試射が出来る場所が設けられており、その他にはドリルや万力、回転式のやすり等の工具が机に備え付けられていた。

 その試射場でカルが砂袋に向けて銃を撃っていた。

 その音にグラントは耳を覆う。


「どうですか?」

「うむ、計算通り貫通力は従来の五倍ほどに上がっている。これなら鋼鉄の盾でも余裕で抜けるじゃろう」

「ネックは生産性ですね。貴重な金属を消耗品に使うのはやはり無駄が多すぎる」


 グラントはカルに近寄り、声を掛けた。


「カル殿、子爵様に言われて弾を取りにきたのだが!」


 大声を上げたのは二人とも耳栓をしているからだ。

 声に気付きカルとボッシュがグラントを見た。


 カルは背の高い痩せた男で丸い眼鏡をかけている。

 一方ボッシュは背の低い固太りの禿頭で鼻から下が髯で覆われていた。

 二人とも初老と言っていい年齢だ。


「グラントさんじゃないですか。何の用です? 銃に問題でも出ましたか?」


 カルが耳栓を外しながらグラントに問い掛けた。


「子爵様に新しい弾を受け取るよう言われてきたんだ」

「ああ、その事か。こいつじゃよ」


 ボッシュが、木箱に入った弾丸を机の上に置く。

 グラントは綺麗に並べられた弾丸を観察した。

 特に今使っている物と変わりは無いように思える。


「今使っている物とどう違うんだ?」

「先端じゃ」


 ボッシュはそう言うと弾を一つつまんで、グラントに見せた。

 薬莢の先、弾の部分が銀色に輝いている。


「銅では無く銀で覆ったのか? ……俺達が倒すのは普通の人間だぞ」

「儂らがそんなおとぎ話の為に、わざわざ弾を作る人間だと思うのか?」

「では銀ではないのか?」


「覆っているのは緑光石の合金じゃよ。五百発しか作れなんだ。外すなよ」

「緑光石の弾だと!?」


 グラントの言葉にカルが答えた。


「そうです、子爵様から石の事を聞いて少し分けて貰ったんですよ。ですが一発が高くつきすぎて……」

「だろうな。ジェイクと飲んだ時、武具の製作費を聞いたら腰を抜かすぞと言っていた」

「ただ、貫通力は折り紙つきです。対黒鋼騎士団用に使用して下さい」


「そうか。有難く使わせていただく」

「弾はここにあるだけじゃ。追加は無いと思ってもらいたい」

「やはり金額の問題か?」

「いや、どちらかと言うと材料の問題ですね。石の量は今の所、有限です。どこかで鉱脈でも見つかれば別ですが……」

「……承知した。隊でも腕のいい者に持たせるとしよう」


 グラントは木箱をボッシュから受け取り、工房を後にしようとした。


「グラントさん。我々はこのまま進むべきなのでしょうか?」

「どういう意味だ?」

「子爵様も懸念しているように、我々の研究は効率よく人を殺す為の物ではと考えてしまうのです」


「……儂らが最初、銃の原型を作ったのは火薬を使って矢を遠くに飛ばせる物があれば、非力な者でも害獣駆除や狩りが出来るのではと考えての事だった。決して人を殺す為ではない」


 そう話す二人の顔には苦悩の色が浮かんでいた。


「……それは使う者次第ではないのか?火薬は既に特殊なものでは無い。確か鉱山で岩を砕くのにも使われているだろう? 遅かれ早かれ銃というのは誰かが考え付く。問題はそれをどう使うかではないのか?」


「……そうですね。少し気が楽になりました」

「そうじゃな……銃は道具にすぎんか。ありがとよ、グラント」

「いや、俺も銃をどう使うか、良く考えてみるよ」


 グラントは銃弾を抱え、城を後にし郊外の訓練所へ帰った。

 そして翌日、銃士隊を引き連れ、カミュの居るロードリア辺境伯領へ向け出発した。



■◇■◇■◇■



 カミュ達が黒鋼騎士団を下して数日後。

 ロードリア辺境伯領、領都エトリア。

 この地の帝国軍を統括している将軍、グレゴリーはジャハドをヒステリックに怒鳴りつけていた。


「どういう事だ!! 騎士団を三百名以上失うとは!! 皇帝陛下に何と申し開きすれば良いのだ!?」

「キャンキャンうるせえなぁ。戦いは水物だ。俺達だって負ける時は負けるさ」


「ジャハド、この責任どう取るつもりだ……」

「責任も何も、騎士団を城にある程度残すように言ってたのは、お前じゃねぇか。責任っていうならお前の所為だろう?」

「貴様ぁ……誰に向かって口を利いている」

「あ?」


 ジャハドが睨みつけるとグレゴリーは顔色を変えたが、それでも将軍の矜持の為か更に言葉を続けた。


「とっ、兎に角、本国から来た情報を伝える。敵の騎士隊は接近戦に特化しているようだ。遠距離から射殺せ」

「んな事はわざわざ情報を貰わなくても、逃げ帰って来た十一番隊から聞いてるよ。もっと為になる事を言え」


「クッ、……奴らの武器はお前達と同じく、大量に作る事が出来ないようだ。つまり殺せば増える事は無い」

「へッ、そうかい。んじゃ弓隊の連中にやらせるか……ところでまだ城に俺達を残すのか?」

「こっ、ここは守りの要だ!! 落とされる訳にはいかん!!」


 ジャハドは嘲る様な笑みをグレゴリーに向けた。

 色々理由はつけているが、こいつは自分の命が惜しいだけだ。


「分かったよ。ただし、次、失敗するようならお前が何と言おうと騎士団全体でかかる。いいな?」

「……分かっている」


 グレゴリーは将軍で、一応はジャハドの上官だが黒鋼騎士団は皇帝直属の部隊だ。

 騎士団の規模の問題でグレゴリーの下に組み込まれているに過ぎない。

 本来であれば命令を聞く必要等無いのだ。


 ジャハドはグレゴリーを一睨みし執務室を後にした。


 自室に戻りながらジャハドは考える。

 被害を抑えて全体が動けるようにするには、身を切るしかないだろう。

 彼は十四番隊を砦に送る事に決めた。勝つなら良し、負ければ騎士団全体をエトリアから動かす事が出来る。

 ジャハドは、長く硬直した戦争に飽き飽きしていた。


「あいつ等には悪いが、負けねぇかなぁ」


 そう口の中で呟きながら、彼は自室の扉を開けた。

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