初公演
公演当日、劇場には招待したロランの他、アイン達衛視隊の隊員、三番街やギルドの人々等の関係者の他にも、カイル達が宣伝してくれたお蔭で沢山の人が集まっていた。
「皆さん、本日はお集り頂き、誠にありがとうございます。私はカミュ、この劇場と孤児院の責任者です。私は自分がかつて孤児だった経験からこの場所を作りました。広く皆様に愛される場所にしたいと思っていますので、ご愛顧の程よろしくお願いいたします」
挨拶が終わり、舞台から降りる。
カミュの後は座長のウォードの挨拶、その後フクロウとアルバによる奇術と催眠術、ウォードの鞭を使ったショー、そして演劇という流れだ。
観客は奇術と催眠術には驚きを、鞭のショーには感嘆の声を上げた。
そして演劇が始まった。
舞台袖からカミュは観客の様子を伺った。
彼らは壇上に登っているのが、幼い子供という事で暖かい目で見ているようだ。
中にはお喋りしている客の姿もチラホラ見えた。
ヒューゴは言う。同情だけでは継続して客を呼ぶ事は出来ない。
驚きと感動が必要だと。
カミュは出番に備え場所を移動した。
場面は子供達がカミュの役である、森の魔女を訪ねるシーンに移っている。
八人の子供達のリーダ、トマス役の子が魔女の家の扉をノックした。
ノックと同時に子供達の後ろで花火が炸裂し、光と共に緑のローブと帽子を被ったカミュが舞台に突然現れた。
観客達から驚きの声が上がる。
カミュの赤い髪は、照明を反射しキラキラと輝いた。
ヒューゴが言っていた様に、それは舞台の上ではとても映えた。
「子供が一体何のようだ?」
「アンタが森の魔女か?」
「村人たちはそう呼んでいるようだな」
魔女は村人から恐れ蔑まれ、森の中で一人暮らしているという設定だ。
カミュはヒューゴから、村人に対して怒りを孕んだ冷たさを出せと指導されていた。
「頼む、助けてくれよ! アンタしか頼れる奴はいないんだ!!」
「普段は忌むべき相手として蔑んでいた私に、困った時だけ頼るのか?」
「お願い、パパとママを見つけたいの! その為だったら何だってするから!!」
客の何人かは、舞台に引きつけられているようだ。
「何だってする? その言葉は本当だな?」
「ああ、何でもしてやるさ!」
「フフフ。確かに聞いたぞ。願いを叶える為には必要な物がある」
「一体何が必要なんだ!?」
カミュは酷薄な笑みを浮かべセリフを紡いだ。
「時間さ。お前達の寿命を貰う。この魔法は一人が犠牲になってもいいし、八人で分け合ってもいい。さあどうする?」
「私から取ればいい!」
ベス役のミリィがいち早く名乗り出る。
「駄目だ、ベス! 皆で父さんたちを取り戻すんだ! 八人で分け合おう! 皆それでいいか!?」
「勿論だよ! ベスだけ会えないなんて駄目だよ!」
子供達は頷き合う。
「仲の良い事だ。使う前に一つ言っておく。この魔法も万能じゃ無い、願いが思い通り叶うとは限らない。それでもやるか?」
「……ああ、やってくれ」
「それでは魔法をかけるぞ」
カミュが手をかざすとその手が光を放った。
子供達は全員、胸を抑えてうずくまる。
光が消えた時、カミュの手の上には小さな水晶球が乗っていた。
これはフクロウに指導されながら覚えた、初歩的な奇術を用いた技だ。
カミュの覚えの速さにフクロウも驚いていた。
「これはお前達の命の欠片で出来ている。願いを叶える力を持った水晶球だ」
「その水晶球があれば、父さんたちを取り戻せるんだな!?」
「さっきも言ったが、万能ではない。取り戻せるかは運次第だ」
「それでもやるしかないだろう」
カミュは肩をすくめトマスに水晶球を渡した。
「ありがとう! 怖い人だって聞いてたけど、意外といい人ね!」
そう言ってキャロ役を射止めたシェールは笑った。
「いい人? 私がか? ……フフッ。お前、名前は?」
「私はキャロ!」
「キャロ、私に笑いかけたのは、ここ二百年でお前が初めてだ。礼と言っては何だがこれをやろう」
カミュは指を鳴らし、空中からナイフを取り出した。
「こいつは魔物に利く短剣だ。襲われる事があればかざすと良い」
「ありがとう!」
「西に向かえ、恐らくお前たちの親は西のドール山の魔物に連れ去られた筈だ」
「分かった。西だな」
子供達を見送ったカミュの姿は登場した時と同様、光と共に掻き消えた。
出番を終え、舞台袖から客席を伺う。
客は半数以上が、芝居に夢中になっているようだ。
カミュは上手く出来てよかったと胸を撫で下ろした。
「良かったわよ。カミュ」
「ウォード。緊張しちゃった」
「嘘ばっかり。余裕たっぷりに見えたわよ」
「ホントに? まあそう見えたんなら良かったわ」
芝居は進み、リンデとビクトルの一騎打ちのシーンでは、もうお喋りしている客はいなかった。
リンデがビクトルを斬り伏せると拍手が起り、ウォードがキャロから短剣を奪い、飲み込む場面では女性客から悲鳴が上がる。
幕が下がり演劇が終わると劇場は一瞬の静寂のあと、歓声と拍手に包まれた。
幕の前に演者が並びお辞儀をすると、大きな拍手で迎えられた。
劇場はミダス市民に受け入れられたようだ。
観客は演目の感想を話しながら劇場から帰って行った。
それを見送るカミュにジョアンナと衛兵を連れたロランが話しかけた。
「いい舞台だった。客の反応も上々のようだな」
「はい、子爵様。これなら運営費用も捻出出来そうです」
「それは重畳。ジョアンナ。カミュに言いたい事があるのではないのか?」
ジョアンナはロランの後ろで何故かモジモジしていた。
「あの、カミュ様……」
「なあにジョアンナ?」
「サインを頂けませんか!? 私、カミュ様が光の中から現れた時、心が震えました! あんな舞台は見た事がありません!」
ジョアンナは手帳とペンを差し出して、カミュにサインを求めた。
「私のサインなんか価値は無いと思うけど……」
「いいえ! 私にとっては宝物になります!」
「そう?」
カミュはジョアンナから手帳を受け取り、サインを書きながら言った。
「光の演出。あれはヒューゴのアイデアよ。貴女が彼を紹介してくれたお蔭で出来た事よ。ありがとう」
ジョアンナは感激で顔を真っ赤にしている。
「ううっ……ヒューゴ……良かった……」
「おう、カミュ。面白かったぜ」
「アイン、デイブ達も今日はありがとう」
「あの一騎打ちをやってたのリンデ様でしょう? あの人あんなに動けたんですねぇ。演技も上手かったし」
デイブが感心したようにそう言った。
「フフッ、死ぬほど練習したからね」
その後もカミュの下に次々と知り合いが訪れ、劇場の出来た事を祝ってくれた。
カイルはストレートに面白かったと感想をくれた。
カイザスとクリフは、言ってくれれば小道具の剣等を用意したのにと話し、女将さんはお父さんたちは赤ちゃんになったけど、また会えて良かったよぉと泣いていた。
驚いたのは幌馬車のビルが来ていた事だ。
彼はぼそりと中々良かった、また来るとだけ告げて帰っていった。
人々が去った後、その夜は初公演の成功を祝って打ち上げとなった。
ウォードが乾杯の音頭を取っている。
ウォードはグラスを片手に、ヒューゴと肩を組んで笑っていた。
ヒューゴは振り回されてアタフタしている。
フクロウもアルバと一緒に、グラスを手にしている。
その顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。
アルバもその顔を見て、嬉しそうに微笑んでいる。
カミュは少し離れた場所で、その様子を見ていた。
「いや、楽しい芝居でござった。拙者も色々観たが、あのような物は初めてでござる」
「雪丸さんは楽しみが減るって言って、通し稽古も見なかったもんね」
「うむ。我慢した甲斐があったでござる」
「二人とも、こんな隅っこで何やってるのぉ?」
二人が話しているとグラスを持ったウォードが話しかけてきた。
まだ打ち上げは始まったばかりなのに大分出来上がっているようだ。
「カミュも飲みなさいよぉ!」
「やめておくわ。明日も早いし」
「何言ってるのぉ。月夜ちゃんもアルバも飲んでるのよぉ。一緒に飲みましょうよぉ!」
月夜が飲んだと聞いて雪丸が顔色を変えた。
「ウォード殿! 月夜に飲ませたのか!?」
「何よぉ。あの娘だって大人なんだし、別にいいじゃない?」
「月夜は酒を飲むと、悪い癖が出るのでござる! 早く止めねば!」
雪丸は二人を置いてテーブルの上に上がっている月夜の下に向かった。
カミュが見ていると月夜は躍りながら着物を脱ぎ始めた。
「……確かに悪い癖ね」
「アハハッ! いいじゃない! 私も脱ごうかしら!」
「絶対駄目!!」
テーブルの上で月夜を止めようとした雪丸が、月夜に絞め技を決められて藻掻いている。
その周りでジャッカルの男たちや子供達が笑い声を上げていた。
服のボタンをはずそうとするウォードを止めながら、それを見てカミュはいつの間にか笑っていた。
こんなに笑ったのは、ジョシュアが死んでからは初めてだ。
その夜、孤児院では遅くまで笑い声が絶えなかった。




