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剣の娘  作者: 田中
第十章 緑光騎士隊
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騎士隊の隊員

 初公演の翌日、カミュはクリフが改良してくれた鎧をいれた袋を抱え、騎士団の訓練所へ雪丸と向かっていた。

 雪丸の腰には小夜から送られた瑞雪と、改良された緑光石の刀が差されていた。

 彼も鎧をいれた袋を背負っている。


 孤児院を出る時は総出で見送ってくれた。

 しばらくはミダスに居るので、すぐに会えなくなるという訳ではないのだが、皆別れを惜しみ必ず帰ってこいと言ってくれた。


「訓練所とは道場を思い出すでござるな」

「道場? 訓練所とは違うの?」

「道場では師匠から、先代より受け継いだ流派を学ぶのでござる。無論、自ら流派を起こす者もいるでござるが、おかしな物も多かったでござるよ」


 カミュは首をかしげる。


「おかしいって、剣技を学ぶんでしょう? そこまでおかしくなるの?」

「ある流派では、刀は長ければ長いほど良いと、身長よりも長い刀を扱っていたでござる」

「それって、もう槍でいいんじゃないの?」

「拙者もそう思うでござる。扱いが難しく道場では師匠以外は使いこなせていない様でござった」


 リーチが長ければ有利だが使いこなせなければ意味は無い。

 カミュは腰の剣に目を落とした。

 この二振りも、まだ黒鋼の鎧を斬ったことは無い。


 ジョシュアが死んでから二年近く経っている。

 ジャハドの鎧も改良されている筈だ。


 そんな事を考えていると、いつの間にか訓練所に辿り着いていた。


「ここでござるか。武骨であるが立派な建物でござるな」

「子爵様の話だと、ここに騎士隊の隊員が集まってるはずよ」


 カミュが門の前に近づくとそこには、以前アドバイスをした騎士が見張りに立っていた。

 騎士はカミュに気が付き、敬礼してくれた。


「先生、お久しぶりです。話は聞いております。どうそお入り下さい」

「ありがとう」


 門を開けてくれた騎士に礼を言って、カミュと雪丸は門をくぐった。

 訓練所に入るとジェイクが迎えてくれた。

 彼はカミュに敬礼すると口を開いた。


「就任を歓迎いたします。緑光騎士隊隊長殿」

「ジェイクさん。隊長は慣れないから以前通り、カミュでいいです」

「そうはいきません。私はあなたの部下になるのですから」


「部下……もしかして副官って貴方ですか?」

「そうです。よろしくお願いします。隊長」

「はぁ、よろしくお願いします」


 カミュはジェイクを見上げ、ぎこちなく笑った。

 ジェイクは笑みを返し、雪丸に目をやった。


「そちらは雪丸殿ですな」

「カミュ殿、この方は?」

「彼はジェイクさん、騎士団の五番隊隊長だった筈だけど……」


「そちらは副長に任せました。雪丸殿、騎士隊の副長を務める事になったジェイクです。よろしくお願いします」

「九条雪丸と申す。以後良しなに」


「貴方の事は騎士隊に志願して副長を拝命した時、子爵様から聞きました。凄腕の異国の剣士とか。子爵様からは客分として待遇するよう言い付かっております。分からない事があれば、お聞きください」

「これはご丁寧に、しかし拙者は恩返しのためにカミュ殿に追従したまで、一兵卒して扱って頂いて結構でござる」

「……了解しました」


 ジェイクは雪丸に頷きを返し、二人に言った。


「騎士隊は子爵領の騎士と、他領から派遣された騎士で構成されています。隊員はもう集まっています。こちらです」


 二人はジェイクに案内されて中庭に向かった。

 そこには、伯爵の息子ラムザ達や、男爵領の部隊長だったマーカスの姿もあった。


 彼らは二つのグループに分かれていた。

 カミュも顔を知っているグループは、子爵領の騎士達だ。

 知らない人たちは先ほどジェイクが言った、他領から派遣された騎士達だろう。


「なんでラムザ様やマーカスがいるの!?」

「ラムザは貴女の部下です。呼び捨てで構いません。彼は志願しました。子爵様は渋ったのですが、本人が何度も城へ出向き懇願し、子爵様が折れた形で志願が認められました。後は隊長の判断に任せるそうです」


 カミュの脳裏には、ロランの疲れた顔が浮かんだ。


「マーカスは衛視隊が取り調べをしていたのですが、その時から隊長の事を知りたがり、余りにしつこいので担当の衛視が騎士隊の事を話してしまったようなのです。それからは自分も入れろとうるさくて……事情を知った衛視隊隊長が隊長に任せろとこちらに寄越したようです」

「アイン……面倒になったのね……」


 今度はアインの笑い顔が浮かんだ。次に会った時は問い詰めねば。


「ジェイクさん。さっきから気になっていたんですが、敬語をやめて欲しいんですが……」

「それは出来ません。軍には規律が必要です」

「うーん。じゃあ命令です。敬語を止めなさい。私も止めます」


「しかし……」

「命令よ」

「……分かった。では今まで通り話そう」


「うん、お願い。それで、あっちの離れた所に居る人たちが他領の騎士達ね」

「そうだ。彼らはまだカミュの実力を人伝えでしか知らん。侮る者もいるだろう。気をつけてくれ」

「分かったわ」


 カミュは騎士たちの前に立った。彼らの目がカミュに集まる。


「私はカミュ。皆さんが所属する騎士隊の隊長です。この隊は帝国の黒鋼騎士団に対抗する為、新設されました。オーバルの人たちを守る為、皆さんの力を貸して下さい」


 カミュがそう話すと実力を知る子爵領の騎士達は敬礼を返したが、他領の騎士達は冷ややかな目で見ていた。

 その中の一人、上等な服を身につけた金髪の男が前に進み出た。


「貴公がカミュか。子爵様が直々に任命したという話だが我々は認めていない。聞けば平民出の傭兵だと言うではないか、そのような者が上に立ち我々に命令を下す等、受け入れがたい」


 男の言葉にジェイクが口を開いた。


「ではなぜここに来た?」

「命令されたからに決まっている。そうでなければ、王立騎士団の私が子爵領に来るわけなかろう」

「命令されたと言うなら、隊員として指示にしたがえ」

「命令は隊に加われという所までだ。大体、一領主の私設部隊の隊長の命に、何故私が従わねばならん」


 彼は騎士隊派遣の命令自体、かなり不服のようだ。


「隊長、発言をお許しください」


 ラムザが前に進み出た。カミュは彼に頷きを返した。


「貴公はカミュ殿が隊長である事が不服のようだが、一体何が不満なのだ? ここにいる子爵領の騎士は全員カミュ殿の事を認めている。身分か? 性別か? 年齢か? 一体なんだ?」


「子爵領の田舎騎士が認めたからどうだと言うのだ? 答えてやる、全てだ。身分も女である事も、歳も全て気に食わん。出自も分からん小娘に従えるか」

「そうか」


 ラムザは手袋を脱ぎ、男の足元に投げつけた。


「貴公は私の恩人であるカミュ殿を侮辱した。ゆえに決闘を申し込む」


 男は投げられた手袋を見て鼻で笑った。

 突然の事に彼の取り巻きは慌て、騎士たちもざわついた。


 カミュも反発は予想していたが、ラムザが決闘を申し込むのは想定外だ。

 他領の騎士達を見ると全員薄ら笑いを浮かべていた。

 子爵領の騎士達はその騎士達を睨みつけている。


 これから一緒にやって行こうというのに、これでは先が思いやられる。

 そんな中、一人腕組みしてニヤついていたマーカスが声を上げた。


「カミュ! こいつ等、お前が気に入らないらしいぜ! ちょっと揉んでやれよ!」


 騎士達はいっせいにカミュを見た。

 一方は期待のこもった目、もう一方は嘲笑のこもった目をしていた。

 カミュは肩をすくめ、ため息を吐いた。


「どうしてこうなるのかしら……ジェイク、練習用の剣を頂戴……」

「分かった」


「待って下さい! 決闘を申し込んだのは私です!」

「ラムザ。隊員同士での諍いは禍根を残すわ。私は隊を預かる者として、それを認める事は出来ない」

「しかし……」


 言い募ろうとするラムザを、カミュは目で制した。


「……分かりました」


 カミュはジェイクが持って来た剣を受け取り、他領の騎士達に目をやった。


「さて、誰からやる? 順番でもいいし、全員一緒にかかって来てもいいわよ」

「小娘が。口だけは達者なようだな。さてはその口で子爵に取り入ったのか?」


 先ほどの男がそう言うと、雪丸がカミュに近寄り囁く。


「カミュ殿、拙者、少しイライラしてきたのでござるが、変わってもらう訳には……」

「駄目。これは私の仕事よ」

「……思いっ切り、叩きのめして欲しいでござる」

「まあ、ほどほどにやるわ」


 男は雪丸を見て、ニヤついた笑いを見せた。


「どうした、別にその小僧と交代しても構わんぞ」

「いいえ、戦うのは私だけ。それで最初の相手は貴方?」

「王立騎士団、十番隊所属、ガリウスだ。子爵領ではもてはやされても、王都では通用せん事を教えてやる」


 そう言うと、ガリウスは装飾の施された腰の剣を抜いた。

 レイピアと呼ばれる細剣だ。

 斬撃も出来るが、どちらかと言うと突きに特化した軽い武器だ。

 柄には宝石がちりばめられている。


 カミュは前に出てガリウスと向き合い剣を抜いた。


「いつでもどうぞ」

「これが騎士の剣術だ!」


 ガリウスは鋭い突きをカミュの肩口めがけ放った。

 カミュは、刀身でそれを逸らす。

 ガリウスは少し驚いたようだが、間髪入れず突きを放った。


 言うだけあって、腕は悪くない。

 しかし、レイピアが甲冑を着た相手、ましてや黒鋼騎士団に通用するとは思えない。

 ガリウスは何の目的で送り込まれたのだろうか。

 そんな事を考えながら剣を逸らしていると、ガリウスは肩で息をしていた。


「終わり? 交代する?」

「クッ、舐めるな!!」


 ガリウスは突きを連続で繰り出した。

 カミュは突きに合わせ、同じように突きを繰り出し、剣先をぶつかり合わせるように全て防いだ。

 ガリウスの突きが止まった瞬間に、喉元に剣先を据える。


「なん……だと……」

「貴方は死んだ。次は誰?」


 カミュが騎士達に目をやると、全員信じられない物を見た様に呆然としていた。


「誰もいないの? 誰もいないのなら、私が隊長で文句はないと思っていいのね」

「次は俺だ!」

「マーカス、貴方とは後でたっぷり戦ってあげるから、今は我慢しなさい」

「約束だぞ!」


 騎士達は顔を見合わせているが、名乗り出る者は無い様だ。


「じゃあ、私が隊長って事で良いわね」


 子爵領の騎士は歓声を上げ、他領の騎士は渋々ながら頷いた。

 ガリウスだけは、憎しみのこもった目でカミュを睨んでいた。


「取り敢えず、今日は顔合わせだ。訓練は明日から本格的に行う。各自部屋で休んでくれ。以上解散!」


 ジェイクが場をまとめ、騎士達は部屋に引き上げていった。

 ガリウスは最後までカミュを睨んでいたが、それでも他の者が居なくなると中庭を後にした。

 残ったのはジェイク、雪丸、ラムザ達とマーカスだった。

 カミュはジェイクに声を掛けた。


「ジェイクさん、あのガリウスって人は何者?」

「王立騎士団の騎士なんだが、たしかどこかの領主の兄だったか弟だったか……高位の貴族の出身だった筈だ」

「それであんなに気位が高いのね」


 ラムザがカミュに頭を下げる。


「すみません、隊長。私の短慮の所為で……」

「まあ、話を受けた時から、なんとなくこうなる気はしてたのよ。気にしないで」


 雪丸はニコニコしながらカミュに話かけた。


「いやぁ、最後の突き技は見事でござったな。突きを突きで防ぐなど、初めて見たでござる」

「一番自信のある攻撃を防がれたら、さすがに文句も出ないと思ったのよ」

「おい、カミュ。約束だぞ。さっさと戦ってくれ」

「はいはい、分かったわよマーカス。それじゃ、ジェイク、私はマーカスと模擬戦をやってるわ」


 ジェイクはカミュに頷き、口を開いた。


「了解した。だが気を付けろカミュ。ガリウスは相当、恨みを持ったようだ。何か仕掛けて来るかもしれん」

「心に留めておくわ」


 カミュは模擬戦用の木の大剣を持ったマーカスに向かいながら、ジェイクたちに手を振った。


「メイスは止めたの?」

「振りが遅い武器では、お前に追いつけん」

「なるほど。でも大剣だと大して変わらないんじゃない」

「色々試すさ」

「分かった。それじゃやりましょう」


 その後カミュは、マーカスが疲れ果てるまで模擬戦に付き合った。

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