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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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ヒューゴとウォード

 カミュ達はアルバが手配した馬車を使い孤児院に向かった。

 フクロウの監視として兵が二名同行している。


「もう暴れるつもりは無いのだが、カブラスやリカルド達は俺を信用していないらしくてな。まあ当然だが」

「それが普通だと思うわ。子爵様が変わってるのよ」

「クククッ、変わっているか。俺を劇場に誘ったお前がそれを言うのか?」

「だって、戦っている時見た技は凄いと思ったんだもの」


 拗ねた様にいうカミュの言葉を聞き、フクロウは薄く笑みを浮かべた。


「正直な奴だ。それでよく傭兵なんぞやってられるな」

「最初は滞在費や、武器を作るお金が欲しくて始めたんだけどね」


「なるほどな。しかし、お前のおかげで俺の計画は、随分とおかしな事になってしまった。ターゲットだった子爵に協力する事になるとは……」

「兄様、良いではないですか。子爵様は良い方ですし、私も兄様と一緒に居られて嬉しいです」


 アルバはそう言うとフクロウの手を握った。

 フクロウもその手を軽くだが握り返した。

 やはり、この二人は互いに想い合っているとカミュは思うのだが、時間に任せるしかないのだろう。


 孤児院に着くと監視の兵の手を借りフクロウを車椅子に乗せる。

 屋敷へ向かいウォードを探すと、彼女は台所で昼食の準備を手伝ったいた。


「ウォード、話してた二人を連れてきたわ」

「後ろの二人ね。初めまして、私はウォード。一応カミュの代わりに孤児院を仕切ってるわ」

「あんたが鞭使いのウォードか。俺はフクロウ……」

「兄様、もうその名は使わずともいいのでは無いのですか?」


 フクロウはアルバに言われ少し考えた後、顔をアルバに向け言った。


「いや、まだこの名前を捨てる訳にはいかない。俺はフクロウ、奇術師だ」

「兄様……私はアルバと申します。催眠術師を生業にしております」


 アルバは少し悲しそうにフクロウを見つめ、ウォードに向き直り名を告げた。


「フクロウとアルバね。よろしくね」

「ああ、よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 挨拶が一通り済んだ後、ウォードは三人を食堂へ通した。


「それで、フクロウは怪我をしてるって聞いたけど、どのぐらいで復帰できそう?」

「医者の見立てでは傷は塞がったし、あとは筋力を取り戻すだけだが、二週間ぐらいは掛かるだろう」

「それじゃ、最初の公演に出るのは難しそうね」

「俺が一人では舞台に立つのは難しいだろうが、奇術自体はアルバの協力があれば何とかなる筈だ」


 ウォードがアルバに目を向けると、彼女は驚きの表情でフクロウを見ていた。


「兄様!? 私に奇術の才能はありません!」

「お前も師匠の下で修行していたではないか?」

「それは……そうですが……」


 二人の様子を見て、カミュが口をはさんだ。


「アルバさん、何か問題があるの?」

「確かに修行して、成功した事もあるのですが、あまり自信が無いのです」

「練習すればいい。お前は自分に才能が無いというが、師匠はそう思っていなかったし、俺もお前に才能が無いとは思わん」


 ウォードもフクロウに賛成した。


「奇術はこの街じゃ、旅芸人が来た時ぐらいしか見る機会がないわ。初日の公演で披露出来れば話題性は十分あると思う」


 ウォードにもそう言われ、アルバは呟くように言った。


「私に出来るでしょうか?」

「目の見えん俺がどれだけ指導できるか分からんが、出来るだけの事はする。アルバ、一緒に師匠の作った物で人々を驚かせてみないか?」

「兄様……分かりました。やってみます」


 アルバはフクロウの横顔を見つめ、しっかりと頷いた。

 それを見てウォードも嬉しそうに手を叩いて言う。


「じゃあ、二人とも奇術をするって事で良いの?」

「はい、技術的には兄様には及びませんが、精一杯努めさせていただきます。それと私は催眠術も舞台でやりたいと思っているのですが……」

「催眠術……それも面白そうね。いいわ、演目に組み込みましょう」


 演目についての話も終わり、ウォードは三人を作業現場に連れていく事にした。

 まだ作っている途中だが、舞台の大きさ等が分かれば行う奇術も考えやすいと思ったからだ。

 作業現場ではヒューゴが図面を手に棟梁と話していた。

 彼の顔には赤く痣が付いていた。作業中にぶつけたのだろうか。


「ヒューゴ、紹介するわ。奇術師のフクロウと催眠術師のアルバよ」


 ウォードがヒューゴに二人を紹介すると、ヒューゴは棟梁との会話を打ち切っていつもの様に二人を観察した。

 フクロウの顔を覗き込む様にしてヒューゴは尋ねた。


「フクロウは何故、顔を隠している? それにそれでは目が見えんだろう?」

「人が気にしている事をズケズケと聞く男だ」

「俺は遠回りは好かん。それで何故だ?」

「……顔に傷がある。それに俺はその傷の所為でそもそも目は見えん」


 ヒューゴは顎に手を当てフクロウを見た。


「目が見えないのに奇術師等出来るのか?」

「舐めてもらっては困る。まあ普通のカードを使ったカードマジックは出来んがな」

「何が出来る?」

「コインマジックから大がかりなイリュージョンまで、一通りは出来る」


 ヒューゴは懐から台本を取り出し開いた。本を読みながらうんうんと頷いている。


「では、派手な演出はお手の物だな」

「……何をさせるつもりだ?」

「芝居の中に奇術の要素を組み込みたい。魔女や魔物の登場シーンや戦いの場面で、突然人が現れたり煙の様に消えたりすれば、観客の度肝を抜ける」


 フクロウはその言葉に少し考えるそぶりを見せた。


「消失マジックには仕掛けが必要だ。それを用意出来れば可能だ」

「ふむ、ウォード。予算はあとどれ位使える?」

「カミュが廃材を調達してくれたから、百万ぐらいまでは出せると思うわ」


「フクロウ、それで行けるか?」

「ああ、十分だ。仕掛けについては押収された物の中に流用できる物もあったはずだ。それを改造すればそこまで金は掛からん筈だ」

「良し。それでそっちの娘は催眠術師だったな」


 ヒューゴはアルバに目を向けそう口にした。


「アルバと申します。よろしくお願いいたします」

「ヒューゴだ。自己紹介が遅れたが脚本家だ。よろしく頼む。……アルバ、お前、芝居をやるつもりは無いか?」

「芝居ですか?」

「そうだ。フクロウとアルバ、どちらもいい物を持っている。お前達を主役にしたら面白い物が作れそうだ」

「ヒューゴ、今はドール山の魔物に集中して」


 ウォードは脱線しかけたヒューゴに釘を刺した。

 彼は少し不満そうな顔をしたが、ウォードの顔を見ると表情を改めた。


「分かっている。良さそうな人材を見るとついな……」


 どういう訳か、ヒューゴはウォードの言う事は聞くようだ。


「何かしたの?」

「雪丸さんに徹夜で話を聞いてたって言うから、人には早く寝ろっていう癖に自分は寝ないで大丈夫なのかって言ったのよ」


「それで?」

「別に二、三日寝ないぐらいで死にはせんって作業に戻ろうとするからさ。ベッドに連れて行こうとしてもみ合ってる内に手が出ちゃった」


 そう言うとウォードは舌を出してウィンクした。


「もしかして、顔の痣は……」

「軽くやったつもりだったんだけど、景気よく転んでね。彼、気絶しちゃったの。暫くしたら意識は戻ったんだけど、それから私の言う事はよく聞くようになったわ」


「……やり過ぎたんじゃない?」

「ウチの男共は頑丈だから力加減を間違えたのよ」


 ヒューゴは今もウォードの顔色を伺うようなそぶりを見せている。

 萎縮されても困るが、暴走しがちなヒューゴには尻に敷かれているぐらいが丁度いいかもしれない。


「ヒューゴ、そんなに怯えなくてもウォードは意味も無く暴力を振るったりしないわ」


「……怯えてはいない。あれは事故だ。しかし女に張り倒されたのは初めてでな。困惑しているだけだ……ウォードが俺を気遣ってくれた事には感謝している。それに意識を取り戻すまで心配して膝に頭を乗せて介抱してくれたようだしな」


 カミュは驚いてウォードを見た。彼女は顔を真っ赤にして声を上げた。


「よけいな事は言わなくていいの! 私の所為で気を失ったんだから介抱するのは当然でしょ!」

「そうか、すまん。目覚めた時、泣いていたように見えたのでな」

「泣いてないわよ! よけいな事は言わないでって言ったでしょ!」


 二人のやり取りを聞いてフクロウが口を開いた。


「二人は恋人なのか?」

「兄様、そのようなデリケートな事をはっきり口にしてはいけません」

「そうか? 声を聞いていると、随分仲がいいように思えるが……」


 フクロウの言葉に、ウォードとヒューゴは口をそろえて否定した。


「恋人じゃないわ!」

「恋人ではない」


「……息は合っているようだな。何にせよ仲がいいのは良い事だ。舞台は関わった者、全員で作り上げるものだ。ギスギスしているよりはいい」


 カミュはフクロウの意見は尤もだし、二人がくっつけばそれはそれで面白そうだと思った。

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