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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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稽古と奇術師

 翌朝、カミュが目覚め部屋を出て顔を洗いに洗面所へ向かうと、食堂から話し声が聞こえてきた。


「そこで拙者はかつて敗れた相手、ロッツ殿との再会を果たしたのでござる」

「ほう、運命的な物を感じるな」


「おはよう、雪丸さん、ヒューゴ。早いわね」

「カミュ殿、おはようでござる」

「カミュか、いや、雪丸の話が面白くてな。この男は実に話し上手だ」


 二人とも目が赤い。もしやあの後もずっと話していたのだろうか。

 月夜は椅子に座ったまま眠っている。


「まさか、徹夜で話をしてたの?」

「いやー。興が乗ってしまって……」


 雪丸は面目ないという表情で頭を掻いた。


「呆れた。ヒューゴ、今日は朝から稽古するんでしょう? 大丈夫なの?」

「ああ、このくらいは問題ない。雪丸、続きは夜にでも聞かせてくれ。顔を洗って来る」

「承知したでござる。では拙者は水でも浴びて来るでござる。月夜、朝じゃ起きろ」


 ヒューゴは席を立ち食堂を後にし、雪丸も目をこすっている月夜を連れて同じく食堂を出て行った。

 カミュはそんな三人を肩をすくめ見送った。


 庭に出て日課をこなしているとヒューゴが配役が決まった人間を連れて屋敷を出てきた。

 大人も子供も目をこすったり、欠伸をしたりして皆眠そうにしている。

 ウォード等は目が開き切らずフラフラしていた。


「最初は読み合わせをする。組み合わせを指示するからそれに合わせてやってくれ。カミュ。お前と雪丸はリンデとビクトルに殺陣を指導してくれ。剣は新しく鉄製の物を用意した。そう簡単には壊れないはずだ」


「分かったわ。それじゃリンデ、ビクトルさん。広い場所でやるからついて来て」

「はいよ。ふぁ」

「お手柔らかに頼むぜ」

「雪丸さん行きましょう」

「承知したでござる」


 カミュ達は読み合わせをしている場所からはなれ、雪丸と向き合う。


「それじゃあ見本を見せるわね。行くわよ雪丸さん」

「おう」


 二人はヒューゴが用意した剣で殺陣を二人に披露した。

 次々と派手な技を繰り出しそれを躱し、剣で受け流し殺陣は続いていく。

 最後は騎士役のカミュが、魔物役の雪丸を逆袈裟に切り上げる動きで終了した。


「どう? こんな感じなんだけど?」

「どうもこうもねぇよ! こんなの出来る訳ねぇだろ!!」


 リンデは声を荒げ、ビクトルは困惑した表情を見せている。


「動きは決まってるから練習すれば出来ると思うんだけど……」

「動きが早すぎて目で追うのが精いっぱいだ」

「そうでござるか? ゆっくりやったつもりだったのでござるが」

「まあ、一つずつ稽古すれば大丈夫よ」


 カミュはそう言うと二人に剣を持たせ雪丸と協力し動きを指導した。


 実は殺陣をヒューゴに見せた後、一騎打ちのシーンだけ兜で顔を隠し、カミュと雪丸が演じるのはどうかとヒューゴに提案したのだが、体格が変わると客が違和感を感じるし、リンデ達がはけてカミュ達が舞台に登場するのはテンポが悪くなると却下されたのだ。


 殺陣はリンデとビクトルに頑張ってもらうしかない。


「そこはしっかり腕をのばして」

「いいだろ。芝居なんだから?」

「駄目。芝居云々じゃ無く剣士として見逃せない」


 リンデの放った突きの動きをカミュが修正する。

 彼女は結構厳しいようだ。


「刀は振り抜くのでは無く最後は刃を止めてくだされ」

「こんな感じか?」

「そうそう。いや、ビクトル殿は元傭兵だけあって筋が良いでござる」

「へっ、そうかい?」


 ビクトルは雪丸にそう言われまんざらでもなさそうだ。

 彼は褒めて伸ばすタイプのようだ。


 たっぷり二時間、稽古して殺陣の動きは伝えたが完成度を上げるためには練習するしかないだろう。


「お疲れ様、明日もよろしくね」

「俺、雪丸の方がいいなぁ」

「しょうが無いでしょう。貴方、騎士役なんだから」


「だって、あっちの方が誉めてくれるし……」

「よく頑張った! 感動した! ……どう?」

「お前、絶対そんな事思ってないだろ!?」


 リンデは色々文句は言ったが最後まで投げ出さず稽古をした。

 その点はカミュも本当によく頑張ったと思っていたのだが、あまり伝わらなかったようだ。


 読み合わせは最初、皆眠そうにしていたが子供も大人も真面目に取り組んでいた。

 ヒューゴは全体を見て回りセリフの言い方を指導して回っていた。


 ウォードだけは最後まで眠そうにしていた。

 朝型の生活に変えないと彼女には辛い毎日になるだろう。


 ヒューゴは解散を告げた後、カミュに駆け寄り声を掛けた。


「殺陣はどんな感じだ?」

「取り敢えず構成は教えたわ。後は何度も稽古して動きを体で覚えてもらうだけね」

「そうか。では明日からは殺陣は一時間にして二人にも読み合わせに参加してもらおう」


「分かった」

「カミュ、お前も参加するんだぞ。セリフは入っているのか?」

「……覚えておきます」


 きちんと覚えておけよと言い残しヒューゴは館に戻って行った。


「カミュ殿、大変でござるな」

「暗記とか昔を思い出すわ」


 稽古が終わった後、朝食を取ったカミュは城を訪ねる事にした。

 フクロウとアルバに会っておこうと思ったのだ。

 雪丸と月夜もギルドに行くというので途中まで同行する事にする。


「二人とも大丈夫? 特に雪丸さんは目が真っ赤よ」

「ははっ、拙者は大丈夫でござるよ。旅の途中、密林で迷った時など拙者を食おうとした連中から逃れる為、三日間眠らず森を彷徨ったでござる。あれに比べればどうという事はない」


「雪丸さん昨日、話を聞いていて思ったけど行く場所、行く場所でトラブルに巻き込まれてない?」

「拙者は普段通りに行動してるだけなのでござるが、何故だか厄介事が向こうからやってくるのでござる」


 雪丸は不思議そうにそう答えた。それを聞いて月夜がカミュに耳打ちする。


「義兄上は昔からそうなのです。国元でも義を重んじ首を突っ込んでは大変な目にあっておりました」

「そうなの?」


 そう言えばロランの件でも雪丸は自ら協力を申し出た。

 旅の間もあんな感じで人助けをしていたのだろう。


 雪丸たちとギルドで別れ、カミュは一人、城へ向かった。

 城に着いたカミュはフクロウとアルバに会いたいと衛兵に伝えた。

 カミュがいつもの応接室で待っていると、車椅子を押してアルバが部屋に入って来た。


 カミュはフクロウが仮面では無く、傷を隠すような黒い布を顔につけている事に気付いた。

 アルバはフクロウの乗った車椅子をテーブルの横につけ、自身はカミュの向かいに座った。


「おはようフクロウ、アルバさん」

「カミュさん、おはようございます」

「朝早くに何のようだ?」


 フクロウはまだ眠そうだ。名前通り夜型なのだろう。


「仮面は止めたの?」

「お前らに派手だの悪魔だの散々言われたからな。布を巻いて隠す事にした」

「そっちの方がミステリアスで素敵よ」

「それはどうもお嬢さん」


 そう言うとフクロウはニヤリと笑う。


「用は以前話した劇場の事よ」

「ほう、もう出来たのか?」

「いいえ、でも今月中には完成させたいと思ってる。それで貴方の傷の具合はどうかなと思って」


 フクロウは右手を持ち上げ、ゆっくりと手を握った。


「大分、動かせるようにはなってきている。ただ筋力が落ちているから、それを取り戻さんとならんがな」

「そう。良かった。ねぇ、これから時間はある? 孤児院を仕切ってもらってるウォードが、二人と話したいって言ってるんだけど」


「何の話だ?」

「演目について相談したいそうよ」

「演目か……俺は当然、奇術だな。アルバ、お前はどうする?」

「そうですね……私はお客様に軽い暗示をかけて、催眠術を体験してもらうのはどうかと考えています」


 そう言ったアルバにフクロウは頷きを返した。


「催眠術は庶民には馴染みの無い技術だ。客が暗示によって立ち上がれなくなったりすれば、魔法の様に見えるだろう」

「そうですよね!」


 アルバは手を合わせ、笑顔を見せた。


「フクロウはどんな奇術を考えてるの?」

「そうだな……舞台でやるならカードを使ったような指先の技より、大掛かりな物の方が受けは良いだろうな。王都の隠れ家には色々置いてあるが取りに行くのは骨だな。取り敢えずはラルゴを隠したハミルトン商会にあった物を使うか」


 フクロウはミダスにも色々持ち込んでいたようだ。

 しかし、暗殺に使うために持ち込んだ物が舞台で使えるのだろうか?

 カミュはそう考えフクロウに問う。


「それは暗殺用じゃないの?」

「確かにそうだが、目眩ましや宙を舞うためのロープ。風船や投げナイフなんかは使えるはずだ」

「ふうん。それは今どこにあるの?」

「衛視隊がラルゴと一緒に押収したんじゃないか?衛視のアインだったか。奴に聞け」


 フクロウが言う様にラルゴを捕縛したのはアインだった筈だ。

 後で衛視隊の詰め所にも顔を出しておくか。

 カミュがそんなことを考えているとアルバがカミュに声を掛けてきた。


「カミュさん、兄様は少しは動けるようになったとはいえ本調子ではありません。孤児院までの移動は馬車を使いたいのですが」

「分かったわ。誰に言えばいいのかしら?」

「では、私が用意していただけるよう伝えてまいります」


 アルバはそう言うと二人を残し部屋を出て行った。


「フクロウ、アルバさんの事どうするつもりなの?」

「どうするつもりも無い。あいつの気持ちは兄弟子に対する感情を愛と勘違いしているだけだ。いずれあいつを愛する男が現れれば消えていくだろう」


「そうかなぁ? アルバさんは本気で貴方を好きだと思うけど……」

「仮にそうだとしても俺はあいつの事を妹としか思っていない。幸せになってほしいのも家族としてだ」

「それは本当?」


 カミュの問いにフクロウは黙り込んだ。

 彼は殺し屋としての過去を振り返り、アルバと一緒になる事は出来ないと思っているのだろう。

 それに彼はロランに侯爵の息子、アルベルトへの復讐を願っている。

 どういう結果になるか分からないがアルバを巻き込みたくはない筈だ。


 二人が沈黙しているとアルバが部屋に戻って来た。


「カミュさん、兄様。馬車の準備が出来ました。参りましょう」

「分かったわ。アルバさんありがとう」

「いえ、兄様の為ですから……」


 アルバはそう言うとフクロウを見て優しく微笑んだ。

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