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剣の娘  作者: 田中
第九章 孤児と演劇
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奇術師たちの師匠

 ウォード達への紹介も終わり、カミュはフクロウとアルバを連れて衛視隊の詰め所に向かった。

 フクロウが本の内容から演出をどのような物にするかヒューゴと話し合い、押収された物の中で使えそうな物を早く引き取りたいと言い出したからだ。


 フクロウ、アルバと共に詰め所に入り、アインと会いたい旨を伝えると程なく二階からアインが顔を覗かせた。


「カミュ。それにフクロウもいるのか? 一体何の用だ?」

「アイン、ハミルトン商会の件で押収した物の中に、フクロウの物が有ったと思うんだけど……」

「ああ、ナイフや爆弾の様な物は分かるが、よく分からん物が沢山あったな」

「それを引き取る事は出来ないかな?」


 カミュの言葉にアインは難しい顔をした。


「ここでは何だ……一階の会議室で話そう」


 アインはフクロウの車椅子にチラリと目を向け会議室に三人を通した。


「カミュ、先ほどの話だが、言うまでも無いがその男は子爵様を狙った暗殺者だ。事件の証拠でもあるし、暗殺の道具かも知れない物を簡単に返す訳にはいかん」


 アインの言う事はもっともだがカミュも引くつもりは無かった。

 ヒューゴとフクロウの話はカミュも聞いていた。

 フクロウはヒューゴの語るアイデアを奇術で形にする事が出来ると言った。


 煙と共に突然現れる魔女。魔法の光で一瞬で旅装束に変わる子供達。空中を舞う剣。

 他にもあるが、フクロウはどれも奇術を使えば再現できると話した。

 きっと観客の心を揺さぶれるはずだし、カミュ自身そんな舞台を観てみたいと思っていた。


「ねぇ、アイン。孤児院の劇場の事は貴方も知ってるでしょう?」

「当たり前だ。お前が提案した時、協力しただろう」

「うん。あの時はありがとう……それでね、その劇場での初めての演目として、お芝居をしようと思ってる」

「へぇ、もう劇場は出来るのか。その時は見に行かせてもらおう」


 アインは自分も少し関わっている事もあり、笑顔を見せた。


「その劇の演出にフクロウの奇術を使いたいの。私が責任を持つから引き取らせてもらえない?」

「そう言う事か……協力したいのは山々だが、俺の一存では決める事は出来ん……カブラス様にお伺いしよう。取り敢えずフクロウ、あのガラクタについて何に使う物か一つずつ説明しろ。それをまとめて報告書の形でカブラス様に伝える」


 ガラクタと言われフクロウは不満そうな声で答えた。


「ガラクタとは失礼な男だ。師匠や俺が考え抜いて作った物だぞ。それに奇術師に種を説明しろとはな」

「何に使う物か話すつもりが無いのなら、この話はここで終わりだ」

「……仕方ない、種について他で話すなよ」

「分かっている。押収した物は地下に置いてある。ついて来い」


 アインは地下にフクロウを下ろす為、衛視に声をかけ車椅子ごと担いで彼を地下に降ろした。

 薄暗い地下の廊下の奥、明り取りの窓のある部屋に、奇妙な道具が並べられていた。


「正直、扱いに困っていたんだ。書類や銃関連の物は用途も分かるが、これらはどう使うのか皆目見当もつかん。下手にいじって爆発でもしたら始末書じゃすまん。かといって廃棄する訳にもいかんしな」


 アインのいう様に不思議な物が沢山あった。

 黒い板の様な物、金属のリング、鏡の張られた箱等、何に使うのか見当もつかない。


「ナイフや爆弾、薬品の類の返却は難しいだろうが、説明を聞いて納得すれば報告書にもそう書こう」

「では、必要な物から説明するか……」


 フクロウはアルバに指示を出し、どう使うのか一つ一つアインに説明していった。


「種が分かるとあっけない程、単純な物も多いな」

「奇術とはそういう物だ。仕掛ける時にはすでに完了している物もある。いかに見る者に不思議に思わせるかが重要だ」

「なるほどな。報告は上げておく。近いうちに返答できるだろう」


「アインには悪いんだけど、なるべく急いでほしいの」

「分かっている。俺も孤児院の事は応援している。悪いようにはせんさ」


 アインに礼を言って詰め所を後にしたカミュは、一度城に戻る事にした。

 カミュはカブラスかロランに話して、フクロウを孤児院に移動させたいと思っていた。

 フクロウの話では、カブラスはまだフクロウの事を疑っているようだから、話すならロランの方がいいだろう。


 カミュはロランに面会を求め、応接室に通された。

 フクロウたちにもついて来てもらい、一緒に話を聞いてもらう事にする。


 待っている間、カミュは彼らの師匠について話を聞いてみる事にした。

 何度も話題に出ているが、詳しく聞いた事は無かったからだ。


「ねぇ、フクロウ。二人の師匠ってどんな人だったの?」

「……何故そんな事を聞きたい?」

「あんな奇術を考えた人って、どんな人だったのかなと思っただけよ」


 フクロウは手を組み、その手に顎を乗せた。


「どんな人か……一言で言えば厳しい人だったな。技に完璧を求める人だった。アルバが奇術に苦手意識があるのも、失敗するたび注意されたからだ」

「注意? 怒鳴られたり、ぶたれたりしたの?」


「いえ、お師匠様は静かに指摘するだけでした。ただ、何と言うか迫力があったので、幼かった私は萎縮してしまって……何度も同じ失敗をしてしまいました」


 無言のプレッシャーという奴だろうが。

 カミュにも覚えがある。

 ジョシュアは駄目な時は何故駄目なのか、ちゃんと理由を説明してくれる人だったが、本当に怒っている時は無言になった。


 カミュに向けた物ではなく戦の戦況を旅人から聞き、街が燃やされた話を聞いた時などは特にそうで、その時は普段叱られる時の何倍もカミュはジョシュアの事が怖かった。


「まあ、厳しいだけではなく、優しい所もあったがな。そうでなければ親の居ない子供を二人も、弟子に取ったりはしないだろう」

「二人とも孤児だったの!? ……もしかして、フクロウが劇場の話を受けてくれたのは、私が孤児だと言ったから?」


「実情も知らん人間が持ち掛けた話よりは、信じられると思った事は確かだ。まあ孤児院育ちは俺だけで、アルバは貴族の庶子で母親が亡くなり、親戚だった師匠が引き取った形だがな」


 アルバは貴族の血を引いていたのか。

 彼女の髪や瞳は父親から引き継いだのかもしれない。


「生まれがなんであれ、私はお師匠様と兄様を家族と思って育ちました」

「いいお師匠さんだったみたいね」

「はい、厳しく優しく美しい方でした」


「……美しい? 女の人だったの?」

「言っていませんでしたか?」

「聞いてない」


 アルバは小さく笑って謝罪を口にした。


「すみません。お師匠様は名の知れた方だったので、すっかり失念しておりました。魔女メディアといえば王都でも有名だったのですよ」

「魔女メディア!? 村長に聞いた事がある! すごい奇術師だって言ってた! 二人はその人の弟子だったの!?」


 カミュは村長のロブが、王都で見たというショーの事を興奮して話していた事を思い出した。


「まあな。だがいくら師匠が一流でも弟子が一流とは限らん。俺の様にチヤホヤされ、いらん嫉妬を買い闇に落ちる者もいる」

「兄様……」

「そう思っているのなら仕切り直せばいいわ。生きてさえいれば人はやり直せる。私はそう信じてる」

「仕切り直すか……」


 三人が話していると応接室にジョアンナを引き連れロランが入って来た。


「待たせたなカミュ。フクロウとアルバもいるのか?」

「はい。お忙しい所、お呼び立てして申し訳ありません」

「気にするな。丁度、休憩したいと思っていた所だ。ジョアンナ、お茶をいれてくれ」

「畏まりました」


 ロランはソファーに腰かけた。

 ジョアンナは全員分のお茶を入れ、お辞儀をして退出した。


「して何用かな?」

「フクロウを孤児院に移動させる事をお許しいただきたいのです」

「……フクロウの命はそちに預けてある。そちが責任を持つと言うなら好きにすれば良い。フクロウも大人しくしているようだしな」


 ロランがそう言ってフクロウに目をやると彼はフンッと鼻を鳴らした。

 それをアルバがたしなめている。

 カミュは簡単に許可された事に少し驚きを覚えた。


「あ……ありがとうございます!」

「ただ、他人の命を背負うというのは重いものだ。それは忘れるな」

「……はい」


 ロランはカミュの返事を聞いて表情を緩めた。


「しかし、フクロウを孤児院に移すという事は、劇場は形になって来たのか?」

「はい、初めての演目は子供達が主演の演劇になりました。その演出にフクロウの奇術を使いたいと、脚本家が言い出しまして……」


「そうか。してどのような芝居なのだ?」

「では少しだけ……全て話してしまうと、観る楽しみが無くなってしまいますので……」


 カミュは芝居の冒頭や配役等をロランに語った。


「ふむ、確かに子供が演じる物は観た事がないな。奇術による演出も聞いた事が無い……中々話題になりそうではないか」

「はい、私自身、観るのが楽しみです。そうだ。リンデも出演するんですよ」

「ほう、リンデが」

「意外なんですけど、凄く上手なんです」


 ロランは感慨深げに頷いた。


「リンデも居場所を見つけたか……叔父上も上手くやっていれば良いのだが」

「そう言えば男爵はどうしているんだ?」

「叔父上は側近達と男爵領で村の開拓に従事してもらっている」

「あの男が開拓!?」


 フクロウは信じられないと声を上げた。


「報告では嫌々ながらも仕事はしているようだ。ただ叔父も側近も、そのような労働と無縁だったからな。あまり戦力にはなっていないようだがな……」

「当然だ。男爵は酒を飲みながら、書類にサインをしていた様な男だぞ」


 フクロウはかつて男爵領で接した、メンデルの様を思い出しながら皮肉げに言った。


「兄様、その様にいうものではありません。子爵様の叔父上様ですよ」


 アルバがフクロウの言葉をたしなめる。


「構わん。アルバ、事実だ」

「ロラン、それよりも侯爵の件はどうなっている?」

「そちらは現在調査中だ。もう少し待ってくれ。さすがに相手が相手だ」


「多少は糸口でも掴めたのか?」

「うむ、カミュのお蔭で何とかなりそうだ」


 カミュは自分のお蔭と聞いて首を傾げた。


「私の?」

「そちが持って来た身分証だ」

「あれが……」


「うまく詰めれば、尻尾切りではすまん事になるだろう。なにせ武装した帝国兵が身分を偽り、子爵領まで入り込んだのだ。部下がやった事では済まされん。ただ、それには慎重な根回しが必要だ」

「そうか。朗報を楽しみにしているよ」


 フクロウの口元には、邪悪と言っていい笑みが浮かんでいた。

 その様子をアルバは悲しそうに見つめた。

 カミュもフクロウと同じように復讐の為に動いている。

 自分もジャハドをいざ斬るとなった時には、同じように笑うのだろうか。


 果たしてそれが良い事なのか、感情に突き動かされ今までやって来たが、憎しみを顕わにするフクロウを見ているとカミュにはそれが分からなくなった。

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