表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の娘  作者: 田中
第七章 くノ一と熊退治
59/123

三番街の人々

 リンデとウォードと話した翌日、カミュはカイザスがしばらく使ったら、剣を見せに来いと言っていた事を思い出し、帰還の報告がてらカイザス工房に行くことにした。


 その事をカイルと雪丸に話すと、雪丸も一緒に行くという。

 彼は、カイザスが打っている刀の事が気になって仕方ない様だ。


「一回目の物は曲がってしまったが、素晴らしい切れ味でござった。あれがあれば、戦働きに大いに役立つでござる」

「雪丸さん、刀の代金もそうだけど、帰国費用はたまってるの?」


「ご安心召され、カミュ殿が出かけている間も拙者、ギルドの仕事を請け負っていたでござる。そうそう、武具の修繕費を返すでござる」


 雪丸はそう言って、小金貨を三十枚、カミュの前に差し出した。

 小金貨は一枚、一万リルだから全部で三十万リルだ。


「雪丸さん、貸したのは十万リルよ。多すぎるわ」

「カミュ殿には、世話になりっぱなしだからのう。礼の分も入っているでござる。どうぞ収めてくだされ」

「いくら何でも多すぎよ。大体、私だって雪丸さんに助けてもらってるんだから、貸したお金だけ返してくれればいいわ」


 カミュはそう言って、小金貨二十枚を雪丸の方へ押し返した。


「それでは拙者の立つ瀬がない。これは収めて下され」

「だから、助けてもらったことで、チャラだってば」

「いや、一旦出した物は受け取ってもらわねば困る!」

「だから、貸した分だけで良いって言ってるでしょ! 分からない人ね!」


 テーブルの上を金貨が行ったり来たりする。

 見かねたカイルが、二人に声を掛けた。


「雪丸。カミュが要らねぇって言うんだから、それはしまっときな」

「しかし、カイル殿」

「雪丸。お前さん、まだミダスにいるんだろ」

「そのつもりでござる」


「だったら、借りはカミュを手伝う事で返しな。カミュもその方がいいだろ」

「そうね。雪丸さんに手伝ってもらう事も多いと思うわ」

「それでどうだ、雪丸?」

「……カミュ殿が、どうしても受け取らないというのであれば、仕方ないでござる」


 雪丸は金貨を渋々袋に入れ、懐にしまった。

 話がまとまったようなので、カイルは笑顔で告げた。


「良し、じゃあこれで金の話は終わりだ。二人ともカイザスの所に行くんだろ?」

「そうでござった! カミュ殿、早く行くでござる!」

「ちょっと待ってよ、雪丸さん! じゃあ行ってきます!」

「おう、気をつけてな」


 雪丸が足早にステラを出たのを追って、カミュも防具を入れた袋を抱え、慌てて店を出て行った。

 二人が出て行った店内で、カイルはやれやれと苦笑した。


「どっちが多く取るかで、揉めるのはよく見るが、金を押し付け合うのは初めて見たな」


 カイルはそう呟いて、仕込みに戻った。

 その顔は、なぜか楽しそうだった。



 ■◇■◇■◇■



 カイザス工房を訪れたカミュ達を見て、女将さんは挨拶もそこそこに、カミュが要件を告げる前に、カイザスとクリフを呼びに行った。


 すぐに工房の奥に通される。

 応接室では、カイザスとクリフが、ソファーに座ってカミュ達を出迎えた。

 今日はタチアナはいないようだ。


 カミュ達が椅子に座ると、カイザスは待ちきれないように、身を乗り出し、自分が打った剣について尋ねてきた。


「おう、首を長くして待ってたぜ。剣の調子はどうだ?」

「はい、実は仕事で街を離れていたんですが、その時、何回か使わせてもらいました」

「そうか! で、使ってみてどうだった!?」


 カイザスの勢いに少々押され気味になりながら、使って感じた事を話した。


「今回は、二人と戦いました。一人は剣を使うオーソドックスな騎士。もう一人は分厚い鎧を着た巨漢の騎士でした」

「おう、それで?」

「二人と戦って感じた事は、この剣は切れすぎるという事でした」


「切れすぎちゃあ、駄目なのかい?」


 切れすぎると聞いたクリフが思わず口を挟んだ。

 カイザスも不思議そうな顔をしている。


「いいえ、そんな事はないんですが……私は極力、人を殺したくないんです。今回、最初に戦った人が、腕のいい人だったので殺さずに済みましたが、未熟な人と最初に戦っていたら、勢いで殺していたかもしれない」


「カミュ殿、そんな事を考えていたのでござるか。拙者、良い刀が手に入るかもと、浮かれてしまって……恥ずかしいでござる」


「いいのよ。剣士だったら当然だわ。雪丸さんだって、誰彼構わず斬りたい訳じゃないでしょ」

「当然でござる。無作為に人を殺めるなど、それは人ではなく、鬼の所業でござる」


 カイザスは腕を組み、髭をつまみながら少し思案した後、カミュに言った。


「ふむ、カミュ、剣を見せてくれ」


 カミュは手に持っていた剣を、カイザスに差し出した。

 カイザスは、剣を鞘から抜き、刀身や柄を見た。


「カミュ、何度も打ち合っただろう?」

「分かりますか?」

「当然だ。ふむ、ゆがみや傷は大した事はねえな」


 カイザスは剣を鞘に納め、口を開いた。


「……こいつの切れ味を鈍らせる事は出来る。だがな所詮こいつは道具だ。人殺しの道具にするかどうかは、使う奴次第だと思うぜ。それにお前、最初の一戦で、大分コツをつかんだだろう?」

「……」


「まっ、そんな風に悩むのは悪い事じゃないと思うぜ。武器作ってる鍛冶屋が言う事じゃねぇが、戦争のために切れ味や使い勝手のいい武器ばかり作ってると、うんざりする事もあるんだよ。結局、俺が作ってるのは、効率よく人を殺すための道具なんじゃねぇか、なんてな」


 そう言ったカイザスの顔には、やるせなさが浮かんでいる様にカミュには見えた。


「戦争になる前は、武具以外の注文も多かった。農具なんかも作ってたんだぜ。それが戦争が始まってからは、武器ばっかでよ……いや、悪い、どうでもいい話をしちまったな」


「いえ、大事な事を教わった気がします。ありがとうございました」


 カミュはそう言って、カイザスに頭を下げた。

 カイザスは、そんなカミュを見て、口元に笑みを浮かべた。


「……そうかい。んじゃ本題だ。カミュ、試作の刀が出来た。試して欲しい」

「分かりました」


 カミュ達は前回、試し切りをした裏庭に通された。

 盾を構えた鎧が置かれている。

 その鎧は、薄緑の鋼の光沢を放っていた。


「これは……?」

「練習も兼ねて、硬さを黒鋼に合わせたものを、緑光石を使って作ってみたんだ。タチアナさんに調べてもらったから、硬さは大体一緒だと思う」


「クリフ……」

「鎧の厚さは、一般的な物と同じだよ。だから奴らが着ている物と違うかもしれないけど……」

「いいえ、とても参考になるわ。ありがとう…」


 カミュの答えにクリフは照れ臭そうに笑った。


「さて、それじゃ試してもらおうか」


 カイザスは黒塗りの鞘に納められた刀を、カミュに手渡した。

 カミュはカイザスから手渡された刀を鞘から抜き、刀身を見る。

 前回と同様、波打つ様な刃文が見て取れる。


 カミュは刀を鞘に戻し、呼吸を整え、一気に踏み込み抜き打った。


 抜き放たれた刃は、苦もなく鎧を通過し、鞘の中に舞い戻った。

 以前の様に、歪んで鞘に入らないという事もなかった。


 鎧は斜めに切断され、地面に落ちて金属音を響かせた。


 クリフとカイザスが鎧に近づき断面を見た。

 それに続き、雪丸も絶たれた鎧の、腕部分を目を近づけて観察している。


「ふむ、この厚さなら断ち切る事は可能なようだな」

「そうですね、親方。でも人の血や油で、切れ味が落ちる可能性もありますよ」

「ふむ。カミュ、その刀で何人と戦うつもりだ?」


「分かりません。でも戦いたい男は一人だけです」

「そうか、刀を見せてくれ」


 カミュはカイザスに刀を手渡した。

 カイザスは刀を抜き、刀身を調べている。


「ふむ、取り敢えずいい様だな。何振りも打ったかいがあったぜ」

「これが、二つ目じゃないんですか?」

「芯の強度を変えて、タチアナと相談しながら十振りぐらい試作したんだ。仕上げをしたのは、それだけだがな」

「親方殿、では完成でござるか?」


 雪丸が堪え切れないように、口を挟んだ。

 先ほど浮かれた事を恥じていたが、やはり刀の事は気になるようだ。


「いやまだだな。まあそいつも何度か試し切りして、持ってきてくれ。つってもカミュは人を斬るのは、あんましたくないんだよな。あの技は使えば相手の命を絶ちそうだしなぁ」

「……そうですね」


 黙り込んだ二人に雪丸が声を掛けた。


「カミュ殿、ギルドで害獣退治の仕事が張り出されていたでござる。それを受けるのはどうであろうか?」

「害獣退治?」


「近隣の村に熊が出て、畑や家畜に被害が出ているらしいのでござる。おそらく冬ごもりのための餌を求めて、里に下りて来たのだと思うのでござるが……」


「熊退治か……」


 話しを聞いていたカイザスが口を開いた。


「いいんじゃねぇか。熊の体は人間より強靭で骨も太い。そいつを斬って調子を見りゃ刀の具合も分かるはずだ」


「分かりました。やってみます」

「では拙者もお供するでござる。……カミュ殿、熊の肉は大層美味いという話でござる」


 熊はコリーデ村で、カミュも猟師が取った物を貰って食べた事がある。

 確かに美味しかったが、カミュは熊の解体方法など知らない。

 雪丸は知っているのだろうか。


「雪丸さん、肉の処理の方法とか知っているの?」

「あっ! ……そういえば知らないでござる」

「ふう、雪丸さんはどっか抜けてるのよね」

「返す言葉もないでござる」


 その後、カミュ達は応接室に戻り、クリフに鎧を預けた。

 カイザスは、その場をクリフに任せ、仕事に戻って行った。


「カミュ、背中側に小さな凹みがあるけど、攻撃を受けたのか?」


 鎧はよく見ると、言われないと気付かない程だが、少し凹んでいた。

 カミュは銃で撃たれた事を言うか、少し迷ったが、クリフには包み隠さず話すことにした。


「銃で撃たれた!? ……銃。一時期、ボッシュさんが錬金術師と組んでやってたやつか……」

「知ってるの!?」


「詳しくは知らない。でも親方にボッシュさんが相談に来たことがある。強度のある鉄の筒を作りたいって言ってたんだ。何を作るのか気になったんで、直接聞いてみたんだ。そしたら火薬で弾を飛ばす仕組みを作ってるって言ってた」


 クリフに話したという事は、ロランに献上する前は、ボッシュもそれほど大事には考えていなかったのだろう。


「カミュ、撃たれたって、体は大丈夫なのか?」

「ええ、衝撃はすごかったけど、貴方の鎧のおかげで怪我はないわ」

「そうか、良かった……衝撃か。鎧下だけじゃ打撃を分散できないか……」

「クリフ?」


 クリフはカミュの鎧を手にもって観察しながら、考えこんでしまった。


「うん。カミュ、衝撃を緩める方法も考えてみるよ。熊退治に行くんなら、金属鎧は良くないな。試作で作った皮鎧があるから、それを持って行ってくれ。この鎧はカミュが仕事を終えるまでには改良しておく」


「分かったわ。お代はいくら?」

「そっちはこの前貰った分に入ってるからいいよ。皮鎧も試作品だしね」

「ホントにいいの?」

「その代わりといっちゃなんだけど、カイザス工房の鎧の事、傭兵ギルドで宣伝しといてくれ」


 カミュはクリフの言葉に首を傾げた。

 今日もカイザス工房は結構賑わっている。宣伝など必要ないのではないか。


「うちはさ、親方の作る武器目当ての客が殆どなんだよ。防具は一応置いてるけど、あんまり売れない。防具の評判が上がればさ、親方も武器だけじゃなくて人の命を守る物も作る事が出来るだろ」


「クリフ……」

「クリフ殿は優しい御仁でござるな」

「へへッ、二人とも親方には内緒だぜ」

「分かったわ」

「承知したでござる」


 カミュはクリフから皮鎧を受け取り、カイザス工房を後にした。

 店から出る時、女将さんに話しかけられ、近況を色々聞かれた。


 どうやら、工房を訪れた時に、すぐ通してくれたのは、カイザスにカミュが来たら世間話せずに、通せと念を押されていたかららしい。


 女将さんに捕まり、三十分程色々聞かれてから、ようやく解放された二人は少し憔悴した顔で一端ステラに荷物を置きに戻った。


「おう、お帰り、二人ともどうしたんだ。疲れた顔して」

「いや、ちょっと工房で女将さんに捕まっちゃって……」

「なるほどな、それでまた出かけるのか?」


「ギルドで仕事を受けて来るでござる」

「昼はどうするんだ?」

「今日は仕事を受けるだけだから、帰ってくると思うけど」


 それを聞いてカイルはニヤっと歯を見せ笑った。


「そうか。昼は珍しいもん食わしてやるよ。楽しみにしときな」

「何、カイル。今教えてよ」

「お楽しみって奴だ」


 その後、雪丸が聞き出そうと食い下がったがカイルは教えてくれなかった。

 二人は、食事の事で頭が一杯になりながらも傭兵ギルドへ足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ