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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
57/123

それぞれの受け止め方

53話での思い違いを修正。

殺された衛兵を、リンデの取巻きに変更しました。

ご迷惑をおかけしました。

話の流れは変わっていないので、読み返さなくても問題ないと思います。


 銃士隊は男爵兵から武器を回収し、ミダスへ向かった。

 特に銃に関しては特に重きを置いた。


 ミダスに着くと、兵たちは騎士団が用意した収容所へ、メンデルと取り巻きの側近は城に収監される事になった。


 カミュは城に同行し、オニキスを返すとその足で孤児院へ向かった。

 孤児院でリンデを探す、彼は暗い表情で一人黙々と作業していた。


「リンデ……」


 リンデはカミュを一瞥すると、木材を鋸で加工する作業を再開した。


「リンデ、男爵は生きてるわ」


 その言葉で彼は作業を止め、勢いよく振り返った。


「ホントか!? どこにいる!? どうなったんだ!?」


 カミュはリンデに領境で起こった事を話した。


「そうか、親父は捕まって、兄貴が爵位を継いだのか」

「ええ、私も同行した隊長さんに後から聞いたんだけど、貴方のお父さんが街を出た報告を受けた子爵様がすぐお兄さんに連絡して呼び戻したみたい。子爵様は領の様子も前々からお兄さんに知らせていたみたいね」


「親父はロランの掌の上で転がされていたって事か」

「私が初めて会った時から男爵の事は言っていたから、大分前から計画していたんでしょうね」

「そっか……ありがとな、カミュ。親父の事助けてくれて」


 リンデはきまりが悪そうに言った。

 カミュを避けていた事を気にしているようだ。


「お礼を言う必要は無いわ。男爵の命は取りあえず助かったけど子爵様がどうするのかまだ分からない。ずっと檻の中かもしれないわ」

「そうだな。でも出来たらどっかで働く罰がいいな。俺もここで働き初めて自分がどれだけ馬鹿だったのか分かった気がするから」


 そう話すリンデを見てカミュは思った。

 彼が変わったのは男爵の息子という地位から切り離されたからではないかと。


 リンデはずっと彼自身ではなく、男爵の息子というフィルターを通してしか人に見られてこなかった。

 孤児院で働き出してから、初めてリンデは一人の人間として扱われたのではないだろうか。


 地位や立場は、人をこうであるべきと縛り付ける事がある。

 周りからの期待や希望、人のそういった想いが本来あるべき姿をゆがめてしまう。

 リンデは幼い頃から兄のエンデと比較されてきたと言っていた。

 そのことが反発を生み、彼を兄とは真逆の方向に向かわせたのではとカミュは考えた。


「そういえば、他の側近はどうなったんだ?」

「団長のダグエルは死んだわ。他の側近は男爵と一緒に城に連れて行かれたわよ」

「あいつ死んだのか……考えてみればあいつが親父の近くに来てから、やたらと親父は子爵領に執着するようになったんだよな」


 ダグエルか……。

 カミュはあまり接点がなかったが、いい印象は受けなかった。

 マーカスとの戦いで受けた背中の衝撃は彼の仕業だったそうだが、マーカスが殺してしまったのでダグエルが何を考えていたのかは分からず仕舞いだった。


「ダグエルはどんな男だったの?」

「調子のいい男だったよ。俺や親父の言う事はなんでも聞いた。そういえば、許嫁を返せって言ってきた商人の息子をあいつに任せたままだったな。許嫁の女の子は泣き喚くから、手におえなくて城から帰したんだけど……あの子と息子に謝りに行かないといけないな」


 カミュはレオンに聞いた話を思い出した。

 男はおそらくだが、銃で殺されたのではなかったか。


「許嫁の子には何もしていないの?」

「好みだったんで城に連れ帰ったんだけど、暴れたから手は出しちゃいねぇよ」

「そう……リンデ、商人の息子は亡くなったわ。城で殺されたのよ」


 リンデは絶句した。


「嘘……だろ。面倒だからダグエルにまかせただけだぜ。せいぜい痛めつけて城から放り出すぐらいだと……」

「私も聞いただけだから本当の事は分からない。でも息子は銃で殺されたみたい」

「そんな……」


 リンデは自分の行いが、突然重くのしかかってくるような気がした。

 ロディアに居た時は誰も何も言わなかった。

 孤児院で働き初めて、ようやく自分がどれだけ人を傷付けてきたか理解出来た気がした。

 それでもなんとかやってこれたのはリンデが誰も殺していなかったからだ。


 間接的とはいえ人を殺してしまった。

 彼にはもう詫びる事も出来ない。


「なぁカミュ。俺どうしたらいい……」

「分からないわ。でも全部抱えて、生きていくしかないと思う」

「そんな……無理だ」


 膝を落としてうずくまったリンデに、一人のシスターが駆け寄った。


「リンデさん! 大丈夫ですか!?」

「タニアちゃん……俺……」


 彼女に縋り付いてリンデは泣いた。

 タニアは彼の背中を優しく撫でながらカミュを見て尋ねた。


「何があったのですか?」

「彼の所為で人が一人死んだのよ」

「……そうですか。リンデさん、苦しいですか?」

「苦しい、辛い」


 タニアはリンデに囁くように言った。


「それはあなたの罪の重さです。人は生きている間、様々な過ちを犯します。しかしどんなに後悔しても、時を戻す事は出来ないのです……でも未来は変えることが出来ます。罪は消えることはありませんが、それを礎に生き方を変えるのです」

「タニアちゃん……」


「簡単ではないでしょう。でも貴方は一人ではない。辛い時は人を頼りなさい。助けてくれる人は必ずいます。そして貴方も人を助けるのです。そうする事で少しづつ歩けるようになります。今は思いっきり泣くといいでしょう」


 リンデはタニアの膝で泣き続け、やがて泣きつかれたのか静かになった。

 リンデが眠ったのを見て、カミュはタニアに話しかけた。


「……言うべきじゃなかったのかしら」

「いずれ分かることです。彼はここで生活する間、時折苦しそうに顔をゆがめる事がありました。自分の行いを悔いていたのでしょう。神は自身を省みる者には寛容です。きっと立ち上がれるはず……」


 そう言ってタニアはリンデの頭を優しく撫でた。

 カミュはリンデをタニアに任しその場を後にした。

 神様の事はよく知らないが、彼女がいればリンデは大丈夫だろうとカミュは思った。


 二人の下を離れウォードに無事戻った事を報告し、彼女の天幕で男爵やリンデについても話した。


「ふうん。じゃあそのダグエルって奴が、男爵に色々吹き込んでいたのかしら?」

「リンデの話じゃ、ダグエルが側近になってから男爵は子爵領を欲しがったみたいだから、そうだと思う」


「そいつを締め上げたいけど、死んじゃったんでしょ?」

「私と戦ったマーカスって騎士が殺しちゃった」

「マーカス……その男って馬鹿みたいに大きい、いかつい顔した奴?」


「そうだけど……知ってるの?」

「男爵の街に行ったことがあるって言ったわよね」

「うん、聞いた」

「その時、求婚されたのよ」


 カミュはウォードの言葉に目を丸くする。


「求婚!? それで返事は?」

「承諾してたらここにはいないわ。まったくあの男、真っすぐ過ぎて無茶苦茶だったわ」


 カミュはウォードの言葉に興味をそそられ、さらに尋ねた。


「マーカスはなんて言ってきたの?」

「お前が気に入った、俺の嫁になれって。身分を理由に断ったら何とかするって言ってきたから、私はミダスに心に決めた人がいるって言ってやったわ」


「その心に決めた人って……」

「前に話したでしょ。私を助けてくれた灰色の髪の人」


 そう言って笑うウォードに、カミュはロイの事を話すべきか迷った。

 自分が言わなければ、彼女はずっとロイを探し続けるのでないか。

 言う必要は無いような気もする。

 しかし、知っていて言わない事は、彼女に対する裏切りのようにも思えた。


「カミュ、なにか言いたいことがあるの?」


 カミュの葛藤を感じたのか、ウォードはそう彼女に声を掛けた。


「……あのね。その灰色の髪の人って、私のよく知っている人の事かも知れない」

「本当!? なんで教えてくれなかったのよ!?」

「ずっと話そうか話すまいか迷ってた。聞いたら後悔するかもしれない……それでも聞きたい?」


 ウォードはカミュの様子に深刻なものを感じ、少し迷ったそぶりを見せたが、真っすぐカミュを見て頷いた。


「聞きたいわ。それがどんな話であれ、私は聞きたい」


 カミュが見返しても、ウォードの瞳はぶれることなくカミュを見た。


「彼の名前はロイ。孤児だった私を拾ってくれた人。彼は七年前、いえもうすぐ八年になるわ。戦争で亡くなった。彼と同じ部隊に居た人が知らせてくれた」

「そう……なんだ。この街にいればいつか会えるかも、なんて考えていたんだけど……」


「貴女を助けた人はロイじゃないかもしれない。でも当時この街で、赤い髪の人間は殆ど見た事が無い、まして孤児で赤い髪の女の子なんて私しかいなかったと思う」

「……貴女が彼の言っていた、一緒に暮らしていた子だったのね」


 カミュは首の袋からロイの遺髪を取り出した。

 まとめていた紐を解き、二つに分け、再度紐でまとめ片方をウォードに差し出した。


「彼の遺髪よ。さっき話した同じ部隊の人が届けてくれたの。よければ貴女に持っていて欲しい」

「いいの? 大事なものなんでしょう?」

「私も貴女もロイに救われた。彼の事を想ってくれた人に持っていて欲しいのよ」


 ウォードはロイの遺髪を受け取った両手を、祈るように胸にあてた。


「ありがとう……ずっと探してた……ホントは生きてて欲しかったけど……それでも……やっと会えた……」


 ウォードは受け取った遺髪を、引き出しから取り出した封筒に丁寧にしまって、引き出しにいれた。

 引き出しに入れる時、ウォードは少し涙ぐんでいたが、涙をぬぐって顔を上げた後はいつもの彼女に戻り笑顔を見せた。


 強い人だ。強がりかもしれないが、少し赤い目をして笑うウォードを見てカミュはそう思った。


「大事にするわね。でも彼と一緒に暮らしていたなんて、ちょっと妬けるわね」

「そう? 一緒に暮らすと、幻想が崩れるかもしれないわよ。ロイもだらしない所はあったから」

「フフッ、だらしない所? ねぇ話してくれない。彼の話色々聞きたいわ」

「分かった。何でも聞いて」


 その後、カミュはウォードの天幕で、ロイの話を彼女が求めるままに語った。


 スリの時、犬に追いかけられて、ズボンのお尻を破られた話。

 それをカミュが文句を言いつつ、繕っているとついでにと申し訳なさそうに何本も破れたズボンを出してきた話。

 カミュが大事にしていた帽子を、悪ガキ共にとられた時、傷だらけになってそれを取り返してくれた話。

 二人で衛視に追われ、飛距離が足りず川に落ちた話。


 ウォードは一つ一つに、一喜一憂しながら話を聞いていた。

 彼が軍隊に行った話を少し悲しそうに聞いて、彼女はカミュに言った。


「ありがとう。やっぱり彼は私が思っていた通り、素敵な人だったわ」

「そうかなぁ? 間抜けな話が多かったと思うけど」

「そんな所も含めて大好きだったんでしょ?」

「うん。愛してた。ううん、今も愛してる。大事な兄さんよ」


 ウォードはカミュを見て優しく微笑んだ。


「羨ましいわ。ロイみたいな、いい男に拾われるなんて……カミュ、貴女、男運が良さそうね。誰かいい男紹介してくれない?」

「いい男?」

「ロイも言ってたわ。笑えって。私は過去を追うんじゃなくて未来を見ていたい。幸せを掴んで笑顔で生きるのよ」


 カミュは戸惑いながらウォードに尋ねる。


「笑顔で生きるのに、いい男が関係あるの?」

「私の今の夢はこの劇場を成功させる事よ。いい男っていうのは美醜じゃなくて、にじみ出る魅力よ。それは人を惹きつける力になる」


「ジャッカルの人達じゃ駄目なの?」

「あいつ等、悪い奴らじゃないんだけど、あんな荒くれ達に女の子がキャーキャー言うと思う」


 カミュはジャッカルのメンバーを思い浮かべた。

 彼らの場合のキャーキャーは、喚声ではなく悲鳴のような気がした。


「確かに……」

「でしょう。男は私の魅力で何とかするとして、女の子を呼べる逸材が欲しいわ」

「女の子……そうだ。顔は出せないけど、スカウトした人がいるわ」

「顔はだせない?」


 ウォードはカミュの言葉に首を傾げた。


「顔に傷があって、それを覆面で隠してるんだけど、奇術の腕は一流よ。それと催眠術師。とても綺麗な女性よ」

「奇術と催眠術ね……いいかもしれない。他にはいないの?」

「いまのところはその二人だけ」


「了解。今度連れてきてもらえる?あと他にいい人がいたらスカウトしといて」

「分かったわ」

「さて、じゃあ仕事に戻るわ」


「タニアさんが居れば大丈夫だとは思うけど、リンデの事お願いね」

「分かっているわ」


 カミュはウォードと一緒に天幕を出て、彼女に暇を告げ孤児院を後にした。


 期せずしてリンデとウォードの二人に、人の死を告げることになったカミュは、精神的な疲れを感じ早々にステラへ帰る事にした。


 カイルと雪丸にただいまと挨拶した。

 二人はカミュが無事だった事を喜んでくれた。

 会話を切り上げ食事もそこそこに、ベッドで横になった。


 カミュはその日、リンデやウォード、そしてロイの事を思い出しながら眠りについた。

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