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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
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ミダスの街

 街には、まだ日の高いうちに辿り着けた。


 城に戻ったロランは、出迎えたカブラス達に現在の状況を聞いている。

 城に居た密偵と疑わしき者は、カブラスとリカルドが中心となって拘束したようだ。

 幸い数は多くなく、重臣が男爵に加担しているという事も無かった。


 アルバは城に戻っていたようで、馬車から降ろされ、車椅子に乗せられたフクロウに抱き着いていた。


「兄様! ご無事でしたか!?」

「アルバ!? 離れろ!!」


 アルバに抱き着かれたフクロウがもがいているが、アルバは離れるつもりは無い様だ。

 アルバを見たリンデが口笛を吹いた。


「んだよ。フクロウ、そんないい女いんじゃねぇか。俺にも紹介してくれよ」

「断る! この娘は貴様の様な男ではなく、身持ちの固い、アルバを大事に扱ってくれる男のもとに嫁ぐのだ」

「はい、その通りです。私は兄様と添い遂げると決まっておりますので」

「うぐっ、まだそんな事を言っているのか」


 二人の様子を見て、リンデは白けたような表情を見せた。


「何だよ、この茶番は……」

「リンデ、子爵様に迷惑かけるんじゃないわよ」

「うるせぇ! 平民のくせにいちいち指図すんな!」

「はいはい」


 リンデにぞんざいに返事をしたカミュに、カブラスが声を掛けてきた。


「カミュ、子爵様を守ってくれて感謝する。礼が遅くなったな。それで捕らえてあったジャッカルの連中だが……」

「なにか問題があったんですか?」

「いや、銃の密造やフクロウの事があったので伝えるのが遅くなったが、すでに旧マクファラン邸の改修作業に参加させている。ジャッカルの全員が参加を希望した。後で現場を見に行ってくれ」

「えっ!? もう動いてるんですか?」


 カミュは驚き声を上げた。

 孤児院の事も進めなければと考えていた矢先、カブラスの方で進めてくれていたようだ。


「うむ、元々貧民街の再開発計画は以前から議題に上がっておったからな。孤児院と劇場の設計については、首領のウォードと配下の元大工が中心となって進めている」

「分かりました。今日にでも顔を出しておきます」

「よろしく頼む」

「了解です。では子爵様、失礼いたします」


「うむ、カミュ、ユキマル。今回は世話になったな。報酬については後日、改めて使いをだそう」

「分かりました。何かあれば何時でも声をかけて下さい」

「拙者も呼ばれればすぐ駆け付けるでござる」

「それは心強い、感謝するぞ。ではな」

「はい、子爵様」


 カミュは、マイクに馬車で送ってもらい、傭兵ギルドに寄ってもらって事の切っ掛けとなった、衛視隊の捜査協力の報酬を受け取った。

 侍女と侍従の格好のまま下ろしてもらったので、カリンは目を丸くして驚いていた。

 報酬は当初の金額三十万リルから特別手当も含めて、五十万リルに増えていた。


 男爵の件でも、報酬を貰えるようなので、カイザス工房に支払う分も賄えそうだ。

 その後、マイクにステラまで送ってもらった。


 ステラではいつも通り、カイルが迎えてくれた。


「カミュ、雪丸! 無事だったか!?」

「カイル、ただいま。何とか皆、無事に戻ってこれたわ」

「カイル殿、お主の料理の所為で道中の食事が味気なかったでござる」


「そうかい! んじゃ、今晩はお前さん達の好物を作ってやるよ」

「おお! では米は多めに炊いて欲しいでござる」

「任せときな」


 その後、一旦部屋で着替えを済ませ、雪丸と二人カイザス工房へ向かった。


「女将さん、こんにちは」

「おや、カミュちゃん。しばらく見なかったけど街を出てたのかい?」

「はい、仕事で少し離れていました。親方さんとクリフはいらっしゃいますか?」

「ちょっと待ってね。すぐ呼んで来るよ」


 女将さんは、二人の名を呼びながら店の裏に姿を消した。

 店内で商品を見ながら少し待つと、クリフと女将さんが表に顔を出した。


「カミュ、雪丸さん。待ってたよ。刀の試作品が出来上がったんだ。確認してくれ」


 クリフはそういって、二人を応接室に通した。

 応接室では、カイザスとタチアナが、剣と刀を手に二人を出迎えた。


「おう、カミュ、待ってたぜ!! こいつだ、早速、出来栄えを見てくれ!!」


 カイザスは待ちきれないように、剣と刀をカミュに手渡した。

 カミュはまずは剣から、見てみることにした。

 事前にカミュの手に遭うよう、手のサイズ等を測っていたので、柄は驚くほど手に馴染んだ。


 鞘から抜き放ち、剣身を確認する。

 剣には複雑に紋様のようなものが浮かんでいる。

 以前、クリフが試作してくれた防具よりも、色が薄く、鋼の様な光沢を放っていた。


 次に刀を抜いて、刀身を確認する。

 片刃の緩い反りのある刀身には、波打つような刃文が浮かんでいた。

 まるで美術品の様な美しさに、カミュはしばし言葉を忘れ見入った。


 横で見ていた雪丸も、感心したように頷いている。


「私の提案で、合金の比率を最初の物と変えてあります。粘りと硬度が増して強固になっていて、鋼ぐらいならバターみたいに切れるはずです」

「試してみていいですか?」

「おう! そう言うと思って、裏庭に試し切りの的を用意してある。こっちだ」


 カイザスも興奮しているようで、急ぎ足でカミュたちを連れて裏庭に向かった。

 裏庭には盾を構えた甲冑が用意されていた。


「こいつは、クリフから話を聞いて、一般的な鎧の四倍の厚さで作ってある。やってみてくれ」

「じゃあ、まずは剣の方を試してみますね」


 カミュは、初めに盾を狙って剣を振るった。

 今まで使っていた剣との違いに驚きを隠せなかった。

 振るわれた剣は、鋼鉄の盾を何の抵抗もなくすり抜けた様に感じた。


「おおっ!!」


 雪丸が思わず感嘆の声を上げる。


「どうだ!?」

「凄い……」


 親方の言葉にカミュは、一言そう返すだけで精一杯だった。

 クリフとタチアナは、切られた盾の切断面を確認している。


「こりゃ、予想以上だな。縁は指が切れそうな程だよ」

「ふう、剣の方は上手くいったようですね」

「……それじゃ、いよいよ本命ね……」


 そう言ってカミュは剣を鞘に納め、刀に持ち替えた。

 クリフ達もカミュの後ろに戻り、成り行きを見守った。


「行きます……」


 刀は鞘から放たれ、鎧の腕、胴、そして残っていた盾を通過するように振りぬかれた。

 甲冑の腕は落ち、盾は上下に別れ、胴はそのまま形を保っていた。

 クリフが近寄り、甲冑を触ると滑るように、胸のあたりから地面に落ちた。


「やった……これなら、黒鋼で出来た鎧も斬れる」

「いや、カミュ、刀を見せてくれ」


 カイザスがカミュにそう言い、手を差し出す。

 カミュは刀を鞘に納めようとしたが、上手く入らなかった。


「ふむ、やはり……」

「どういう事ですか?」

「この倭国の刀は折れにくくするため、芯の部分を粘りのある柔らかい金属で作り、その周りを固い殻で覆っているような構造なんだ。試作だからな。芯を柔らかくし過ぎたみてぇだな」

「芯の合金比率を変えて、もう少し固くする必要がありますね。いやそれよりも、弾性を重視して……」


 カイザスとタチアナは、刀についてそう話した。

 カミュは諦めきれず声を上げる。


「でも鎧は切れました!」

「確かにそうだが一回で鞘に収まらない程、曲がっちまうんじゃ、とても完成品とは呼べねぇな」

「そんな……」


「そう焦んな。刀は俺も手探り状態だ。一発目から上手くは行かねぇよ。でも安心しな、これで問題点は洗い出せた。後は芯に最適な具合を、数をこなして見つけるだけだ。それより剣の方も見せてくれ」

「……分かりました」


 カミュは剣をカイザスに手渡した。

 カイザスは剣を引き抜き、剣身に目を近づけた。

 タチアナも近づき剣身を観察している。


「ふむ、こっちの方はいいみたいだな。カミュ、こいつはこのまま持って帰って使ってくれ。何度か使って持ってきてくれりゃ、問題点の洗い出しが出来る」

「これで完成じゃないんですか?」

「馬鹿ぬかせ、百年近く使われていなかった素材を使ってんだ。どんな問題があるか分からん」

「そうです! 我々は剣士ではありませんから、実際使用した際の感じをお聞きしたいです!」


 カイザスとタチアナは、カミュに詰め寄りながらそう言った。


「わっ、分かったわ。近いうちに寄らせてもらいます」

「おう、待ってるぜ!」

「カミュさん、出来るだけ詳しく感想をお聞かせ下さい」


 カイザスとタチアナ、二人は年齢は離れているが、事、鍛冶に関しては息ピッタリのようだ。


「カミュ、俺もタチアナさんに協力してもらって、防具を作ったんだ。見てもらっていいかい?」

「前貰ったのは試作品って言ってたもんね」

「ああ、今度のは前より軽いからもっと使いやすいはずだよ」


 カミュ達は店内に戻り、クリフが作った防具を確認した。

 以前の物より軽く、装備しても動きを阻害しない様、形状に様々な工夫が見て取れる。


「どうだい? 後は実際つけてもらって、微調整すれば渡せるよ。まあこいつも、親方の剣と一緒で実際に使ってもらって不具合を確かめないといけないけどね。そうだ前、渡した試作品はつぶしてナイフでも作るよ。今度持ってきてくれ。この防具はその時に渡せると思うよ」

「分かったわ。ありがとう、クリフ。そうだ代金はいくら? 金額によっては分割になるかも知れないけど…」


 代金の話になり、カイザスが口を開いた。


「お代は、防具もひっくるめて三十五万リルだ」

「えっ!? 安くないですか? 百万以上はかかると思っていたんですが?」

「そいつはタチアナに礼を言いな。研究費から合金の費用なんかを出してくれたんだ」

「タチアナさん…。いいんですか?」


 タチアナは眼鏡を上げながら答えた。


「カミュさんのお蔭で私の論文も大きく前進しました。お礼を言いたいのはこちらです。クリストフも感謝してましたよ」

「そうですか。皆、ありがとう……」


 カミュがそう言ってカイザス達に頭を下げる。

 雪丸が笑いながら声を上げた。


「上手くいったようで何よりでござる。ところで親方殿、先ほどの刀。完成した暁には拙者も一振り打っていただきたいのでござるが…」

「おお、いいぞ、そうだな……。一振り七十万リルってところか」

「なッ、七十万!?」

「いやぁ、合金に使う金属が高くてな。そんぐらい貰わねぇと割に合わねぇんだ」

「ぐぅぅ、七十万……分かったでござる。必ず用意するでござる」


 カミュは防具を着て、微調整の確認をクリフにしてもらい、女将さんに代金を支払い、工房を後にした。

 雪丸は腕を組んで七十万と呟いている。

 二人はその足で貧民街へ向かった。


 旧マクファラン邸は敷地に資材が運び込まれ、雑草に覆われていた庭は綺麗に刈られていた。

 現在は屋敷の外装と内装の工事に取り掛かっているようだ。

 所々に、衛視隊の姿も見える。

 図面を見て大工たちと話していたウォードが、カミュに気付き声を掛けてきた。


 彼女は薄手の白いブラウスに黒のパンツ、革のブーツと動きやすそうな格好で、髪は後ろで一つにまとめていた。

 化粧を落としたその顔は、健康そうで年相応に見えた。


「カミュ、全然顔を見せないから、忘れているんじゃないかと思ったわ」

「ウォード、ご無沙汰。色々ごたごたしててね」

「そっちの坊やは誰?」

「彼は雪丸さん、傭兵をやってて、色々協力して貰ってるの。ちなみにこう見えても二十四歳よ」

「九条雪丸でござる。よろしくお願いいたす」


 ウォードは雪丸を見て目を丸くした。

 カミュは彼女のそんな表情は初めてだったので、新鮮に感じた。


「嘘でしょ!? 私より四つも上なの!?」

「彼はずっと東の倭国という処から来たのよ。どうも民族的に童顔らしいわ」

「なるほどね。じゃあ一座に居たあの娘も、年上だったかもしれないのね……」

「ウォードの知り合いにも、倭国の人がいるの?」


「知り合いって程じゃないけど、一座にしばらく居候してた娘がいたのよ。綺麗な黒髪でアクロバットがすごく上手だった。武者修行に出た義理の兄を探してるって言ってたけど……」

「案外、雪丸さんの事かも知れないわね」

「うむ、ウォード殿、その娘、名はなんと申す?」

「たしか……ツキヨ……いえ、ツクヨだったはずだわ。知り合い?」


「……月夜。いやまさか……」

「心当たりがあるの?」


 カミュが訪ねると雪丸は頷き答えた。


「拙者の妻、小夜の妹が月夜というのでござる。国で忍び、密偵のような事をしていたのでござるが……」

「月夜はお姉さんに頼まれて、義理のお兄さんを探してるって言ってたわ」

「むう、この国で倭国の者など見たことがござらん。あまりに条件が合致しすぎる……国元でなにかあったのか……」


 カミュは考え込んだ雪丸を見て、話題を変えた。


「向こうが探しているんなら、その内会えるわよ。今あれこれ考えても答えは出ないわ」

「そうでござるな。月夜の事は会った時に考えるでござる」

「それがいいわ。それでウォード、工事はどうなってるの?」


 ウォードは、ジャッカルのメンバーが働く館を見て口を開いた。


「うちのメンバーだけじゃなくて、一般の大工にも入ってもらってるけど、しばらくかかりそうね。なんせ十年近くほったらかしだったから。人手不足が一番の問題ね」


 ウォードの言葉で、カミュはロランが言っていた事を思い出した。


『お主は一度、民の中で暮らしてみるべきかもしれんな。』


「ねぇ、ウォード、使い物になるか分からないけど、一人加えて欲しいんだけど……」

「人手はいくらでも欲しいわ。どんな人?」

「貴族のお坊ちゃんなんだけど……こき使っていいから、ここに置いてくれない?」

「カミュ殿!? まさか、リンデをここに預けるつもりでござるか!?」

「駄目かなぁ? ウォードなら上手く扱ってくれそうなんだけど……」


 ウォードが不審そうな目でカミュを見て言う。


「問題のある人間なの?」

「我儘で、尊大で、女癖が悪い」

「カミュ、なんで貴女は面倒事ばかり私に押し付けるのよ!」

「御免なさい! 面倒事ついでに頼まれてくれない?」


 カミュは祈るように手を組み、上目づかいでウォードを見た。

 ウォードは髪をかき上げ、ため息を一つ吐いて言った。


「貴女は約束を守って、私に劇場を作るチャンスをくれた……いいわ、引き受けましょう」

「ありがとう! 早速、子爵様に話をしてみるわね」

「また、思いつきなの? 何故か実現するけど、そうやって突っ走るの改めたほうが良いわよ」


 ウォードの言葉に雪丸も同調する。


「ウォード殿もそう思うでござるか?」

「貴方も苦労してるみたいね」

「まあ、拙者は恩返しが出来るので、ありがたいのでござるが……」


 ウォードは、やれやれという表情でカミュに声を掛ける。


「カミュ、取敢えず図面を見て頂戴。貴女の意見も聞きたいわ」

「うん。勿論!」


 カミュたちは図面を見てアイデアを出した後、再度、子爵の城に向かった。

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